第19話 どっちだッ!
「……オーナーって誰ですか?」
俺は気付けば彼にそう聞いていた。
あの後、アーカイブを見たところ、俺が〈狂化〉スキルを使い始めた頃の配信の切り抜きのURLがコメント欄に貼られていたのだ。
つまり、同接が一人か二人の頃である。
同接は二人いることもあったため、まだオーナーが犯人だと確定してはいないが……可能性は大いにある。
しかし、逆にオーナーが犯人だとしたらこのクランに入るのは遠慮させてもらおう。
それどころか、問い詰めてやる!
「うちのオーナーか? 日野さんだよ。日本で8人しかいないSランク探索者でもあるな」
えっ、Sランク探索者なの?!
たったの一ランクしか変わらないのにSランク探索者とAランク探索者の間には果てしもない差がある。
Aランク探索者はパーティーで1体のAランクモンスターを狩れればAランクだと認められるのに対して、Sランク探索者はパーティーでSランクモンスターを狩れてもSランクだとは認められない。
ダンジョン協会はSランク探索者を探索者の頂点とし、厳しい条件を設けたのだ。
その条件とはパーティでSランクモンスターを3体同時に討伐する、またはユニークモンスターと呼ばれる世界に1体しかいない上にSランクモンスターを超す力を持つモンスターを討伐すること。
つまり、殴って洗いざらい吐かせるのは無理だ。
くそっ……配信者用のクランのくせにオーナー強すぎだろっ!
「じゃあ俺は『ルミナス』のみんなに頼まれた仕事やんないといけないから、ここら辺でお暇させてもらうぜ、またな柊君!」
「はい!……え?」
太田さんはそのまま駆け足で去っていく。
『ルミナス』……?
それは俺ですら知っている超有名なクランの名前だった。
つまり、太田さんって『ハイス』に所属してるんじゃなくて、『ルミナス』に所属してる人だったってことか。
「流石、柊さんです! まさか、あの超有名な『ルミナス』のオーナーである日野さんにそんな昔から認知されていたなんて……!」
「そ、そっか……『ルミナス』かぁ」
今から入るクランのオーナーが犯人という可能性は消えたが、代わりに国内トップクランのオーナーが俺の最古参であり、犯人である可能性が生まれてしまった。
ていうか『ルミナス』のオーナーって、あの『赤龍』とも呼ばれている世界の中でも10の指に入るほどの実力者じゃねえか!
ど、どうしよう……問い詰めようにも問い詰められねえ。
「ちなみに、さっきの太田さんは現Aランク探索者でこの前、Sランクモンスターを倒したことで歴代12番目の日本でのSランク探索者になるって噂されているんですよ」
「ま、マジですか……」
俺、さっきまでそんな凄い人と喋ってたの?
ちなみに、Sランク探索者が9人しかいないのになぜ12番目と言われているのか。
それは10年前に3人のSランク探索者が所属していたパーティが壊滅し、そして全員帰ってこなかったからだ。
まあ、その事件に関してはほとんどが謎に包まれているため、詳細はよくわからないが。
「でも、柊さんもあんなに強いのですからすぐにSランク探索者になれますよ」
「そうだといいんですけどね」
俺なんてSランクモンスター1体にあんなに苦戦した挙句、逃げられているからな。
それにブラックフェンリルはSランクモンスターの中でも弱い方であり、あれがもしもSランクモンスターの中で最強と名高い黒竜とかであれば俺は間違いなく死んでいた。
そんなことを考えているとクランの入り口らしき場所に到着する。
自動扉が開き、俺たちはそのまま中へ入っていく。
「おっ、来たかぁ!」
声がした方向を向くと、そこにはソファに座っている中年ぐらいの男性がいた。
彼は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、立ち上がってこちらへ近づいてくる。
「初めまして、私はこのクラン『ハイス』を運営しているオーナーの
「初めまして、柊幸人です。よろしくお願いします」
俺は挨拶をしてお辞儀をする。
「あの〜! おとう……オーナーいますか?」
すると、入り口とは別のドアから一人の少女がそう言いながら入ってきた。
そして、俺たちの方を見るとやってしまったという表情をして、そのまま元いた部屋へ戻ろうとする。
「あ……ご、ごめんなさいっ! 後でまた伺いま――あれ? あの時のお兄さん」
彼女は俺を指差して驚いたような表情で近づいてくる。
「あの時のひざまく――膝枕してくれた人!」
「諦めてそのまま言わないでくださいよ」
彼女のことを忘れるわけがない。彼女は半年前、俺の人に見せられない姿を盗撮し、気絶した俺を許可なく膝枕し、俺を膝枕フェチへ引き込んだ悪魔だ!
うん? この子の名前?……なんだっけ、前に視聴者が言っていた気がするけど……。
――パリィン!!!
突然、遠くにあったテーブルの上のコーヒーの入っていたコップが割れる。
あれ? おかしいな、誰もあのコップを触っていないのに突然割れるなんて。
それに急に部屋の温度が下がったような……。
「――なあ、お前、俺の娘に膝枕させてもらったのか?」
「ヒエッ……!」
突然、そんな言葉と共に今まで感じたことのないような殺気を感じた。
恐る恐る俺がその方向を向くと……
「おいッ! されたのか? されてねえのか? どっちだッ!」
そこには魔王のような雰囲気を纏い、憤激した大翔さんがいた。
気がつけば、俺はブラックフェンリルを殴った時の何倍も速い速度で土下座していた。
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