第17話 クラン
「えっと……クランですか」
探索者におけるクランとは情報共有やパーティ募集、アイテムの取引などのために作られたチームのようなものだ。
俺の戦闘スタイルはあまりパーティ向けではないため、パーティの誘いであれば断っていたがクランとなると少し悩む。
「はい、『ハイス』という名前のクランです。私のクランといっても作ったのは私じゃなくて私の友人のお父さんなんですけどね」
俺はそのクランの名前を知らなかった。
どうやら、AランクやSランク探索者が所属するような著名なクランではないっぽい。
それなら、俺が入ってもあまりメリットがないような……。
「お察しの通り、普通の探索者さんの間ではあまり有名ではないクランです。ですが、ここのクランは他と少し違っていて所属者のほとんどが配信者さんなんです」
「へえ……」
「ですので他の配信者さんとコラボのお願いがしやすいですし、他の人から配信関係の様々な知識を教えますよ」
なるほど、それは確かに魅力的な内容だ。
だが……俺が入ろうと思うには少しインパクトが弱すぎた。
てか、そもそも探索者登録していない俺がクランに入れるかわからないし。
申し訳ないがクランの誘いは断って代わりに膝枕でもしてもらおう。
「――それと、クランに入るとダンジョンからクランの財産としてアイテムや魔石を持ち出すこともできます」
「ッ?!」
俺が彼女の誘いを断ろうとした口を開いた瞬間、狙っていたかのようなタイミングで彼女はそう言った。
俺の全身に電流が走る。
もしかしたら、今まで泣く泣くスキルで吹き飛ばしていた何十万、何百万もする魔石やドロップアイテムを持って帰れるかもしれないのだ。
俺にとってこれ以上、欲していたことはなかった。
まさか、彼女は――
「ふふっ、実は柊さんにお礼の連絡をしようと思った時、私は柊さんの連絡先を知らなかったのでダンジョン協会から代わりに言伝としてメールを送ってもらおうとしたんです……ですが、その時に返ってきた返事は柊さんが『探索者登録していない』というものでした」
「っ……なるほど、緋色さんは全部理解した上で提案したんですね」
「ええ、柊さんについて調べていた時に柊さんが魔石やドロップアイテムを吹き飛ばしている切り抜きを見かけまして……もしかして柊さんは事情があって探索者登録ができなく、そのせいで泣く泣くドロップ品を手放しているのではないかと推測しまして」
そこまで知られていたとは。
この子、もしかしなくても天才か?
「ですが、探索者登録していなくてもクランって入れるものなんですか?」
「ええ、他に身分証明証があれば大丈夫ですよ。クランと探索者協会は完全な別物ですし、探索者証は昔のなごりみたいな物で、今ではほぼ形式的なものですし」
え、そうなの?
確かにダンジョンに入るのに探索者証が要らなくて、アイテムを持って帰るのには必要という仕組みは変だと思っていたが。
「でも、それだと持ち出したアイテムはクランのものになるんじゃないですか?」
俺はもう一つの疑問を彼女に投げかける。
「一時的にはそうなります。しかし、その後でクランから柊さんに分配したという形にすれば合法的に柊さんはアイテムをダンジョンから持ち出せます」
思い出した、このシステムは大人数での探索の際に報酬を分けるために作られたものだったはずだ。
ダンジョン内でドロップ品の分け前を議論していては隙まみれだからな。
それをうまく利用しようというわけだ。
しかし、彼女はバツが悪そうな顔をする。
「ただ……ここまで言っておいて一つだけ問題があるんです」
「なんでしょうか?」
「このシステムは元々、大人数の探索のために作られたものであって、ソロでダンジョンに潜った時には使えないんですよ」
「うっ……」
つまり、パーティを組んで探索に行くのが必須条件になるということだ。
俺の戦闘スタイルは〈ショックブラスト〉を使った高速移動と瞬間火力だ。
パーティを組んだとして、仲間がそれに合わせられるかと言われるとかなり微妙なのである。
「まあ、二人以上であればいいので
「そうか、その手があったか……!」
それどころか、
「どうでしょうか? 私たちのクランに入っていただけたら
「それはありがたいのですが……クラン側としては俺を入れることでどういったメリットがあるんでしょうか?」
ここまで俺にメリットが多い話となれば何か裏があるのではないかと思ってしまう。
俺の訝しむような態度に気づいた緋色さんは苦笑いする。
「言ったでしょう、これは柊さんに対するお礼だと。それに、現在、探索者の中で一番話題の柊さんをクランに入れることは、私たちにとっても全くメリットがないわけではないですからね」
彼女は真剣で、どこか優しい声でそう言った。
この人になら例え騙されてもいいかもしれない。
そう思ってしまった。
「どうでしょうか? クランに入っていただけますか?」
彼女は俺に手を差し出す。
気づけば俺はその手を取っていた。
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