第16話 満を持して?
しらゆりちゃん。こと白戸さんから返信があった。
どうやら良い返事が貰えたみたいで、矢ヶ崎さんも喜んでいた。数日中に詳しい説明をして、その上で白戸さんが僕の専属になってくれるならば、その場で採用するつもりだと言っていた。僕自身も異論は無いので、その辺は矢ヶ崎さんにおまかせしようと思う。僕が直接説明するよりスムーズだしね。でも、僕も一応白戸さんの人柄は知っておいた方がいいだろう。なので説明の場に同席するつもりだ。
矢ヶ崎さんとのやり取りの中で、白戸さんはどこにでも伺いますと言ってくれたけれど、あくまで僕達はスカウトをしている立場なので、こちらから出向くことにしている。
なので近くの喫茶店などを指定してもらおうかと思ったが、白戸さんは「それならうちにいらしてください。うちなら防音もしっかりしているので、話し合いの内容が外部に漏れることもありません。」とのこと。
さすがに、女性の部屋に軽々しく男が入るのはどうかと思ったが、矢ヶ崎さんは「男性の部屋に女性が軽々しく入るのならば問題ですが、今回のような場合は大丈夫だと思いますよ。私もいますし。それに、彼女からしてみれば、水樹さんは雇用主になる訳ですから下手なことはしないはずです」
と言っていた。
家から出ることがないので忘れそうになってしまうが、ここは元の世界とは違うと改めて実感する。
「ですが、道中の警戒も必要なので、保護官を同行させましょう。」
と、矢ヶ崎さんは言っていた。
おお、ついに保護官の人との対面だ。緊張する。吐きそう。
会ったことないし、いつかは挨拶しなきゃと思ってはいたけど、会う機会がなかったんだよな。引きこもりなんでね。
買い物なんかに行かなきゃと思っても、矢ヶ崎さんが毎日必要なものが無いか確認してくれて、買ってきてくれるんだよね。
「これもマネージャーの仕事ですから」
って言ってたけど、そうなのだろうか?
でもテレビでマネージャーさんに買い物とか、家の事任せてるタレントさんもいるって聞いたことあるし、そういうものなのかな?
まあ、保護官が居たとしても男性が外を歩くのは安全面の問題であまり推奨されてないみたいだし、しょうがないのかも。
とりあえず今は保護官の人との顔合わせのために、色々練習しておくか。自己紹介とかな!
そして、白戸さんのおうちに行く前日。僕の家には、保護官の人が来ることになっていた。明日の警備の打ち合わせのためだ。もちろん矢ヶ崎さんも同席している。
しばらくすると、インターホンがなった。どうやら保護官の人が到着したようだ。
矢ケ崎さんが対応して、部屋まで案内してくれる。ちなみに、矢ヶ崎さんのことは、保護官さんも知っているらしい。なので、変なトラブルになることは無いだろう。
そして、リビングのドアが開き保護官の人が入ってきた。彼女はぺこりとお辞儀をして、挨拶してくれた。
「私、汐田様の専属保護官の任を頂いております。名を東條 三日月と申します。以後よろしくお願い致します」
「は、はじめまして。ぼ、僕は汐田水樹と申します。よ、よろろしくお願いします」
練習の成果はでなかったようだ。まじわろす。
それにしても驚いた。僕の専属保護官さんがいるって言うのは、まぁ分かる。
でもまさか、いつも例のブツを回収に来てくれていたお姉さんだったとは。
なんというか、保護官と言えばSPみたいにムキムキのかっこいい女性!っていうのをイメージしてたからなぁ。こんなクラスのマドンナみたいなゆるふわ系の女性とは思わなかった。
あと、いつもは僕が自分のを渡すのが恥ずかしすぎてよく顔とか見てなかった、ドア越しってのもあったし。でもこうして何も遮蔽物がないところで見ると、なんと言うか、何がとは言わないけど、デカイ。
前にテレビで見た、佐々木アナより大きいのではないだろうか?
矢ヶ崎さんもカチッとしたスーツの上からでもわかるくらいなので、それなりに大きいと思うけど、東條さんのはそれ以上に大きい。
グラビアアイドルやそういうビデオの女優ですって言われたらすぐ信じるくらいには大きい。
まぁ、この世界ではどっちの需要もないんだろうけど。勿体ない。
って、いかんいかん、挨拶の途中だった。
「と、東條さんが僕の保護官さんだったんです、ね。て、てっきり保護局の一般の職員さんで、あ、アレの回収のお仕事なんだとばかり」
「はい、今はほとんどありませんが、男性の精子は時に犯罪組織によって狙われることもありますので、回収する人間もそれなりに訓練を積んでいる保護官が対応するんです。あと汐田様。私への敬称は不要です。年齢も汐田様とほとんど変わりませんので、呼び捨てで構いません」
「そ、そんな訳には・・・」
「いえ、私は汐田様の保護官。つまりは貴方の使用人の様なものです。遠慮はいりません」
「え、えぇ〜・・・」
さすがに女性を呼び捨ては気が引ける。
こちとら学生時代に、名前を呼んだだけで泣かれたことあるからね?軽いトラウマよ?
「じゃ、じゃあ、せめてみ、みかづきちゃんで」
「・・・!?わ、分かりました。それで構いません」
「ふう、って矢ヶ崎さん?」
何とか話が纏まったと思ったら矢ヶ崎さんがこっちをジト目で見ていた。なんだろう、怖い。
なにかしてしまっただろうか?
「私の事は未だに矢ヶ崎さん、なのに、彼女の事は名前呼びなんですね」
どうしよう、言葉にトゲを感じる。
「え、いや、そんなつもりじゃ・・・」
「いえいえ、いいんですよ?私はマネージャーですし?ミズキさんよりも年上ですし?付き合いも長くなって来たのに今日知り合ったばかりの人をいきなり名前呼びしちゃうんだ。とか思ってないですよ?」
刺さってる!目には見えないけど、多分今、僕に何かが刺さってる!
「えっと、か、薫さん。こ、これでいいかな?」
「・・・。まあ、言われてから呼び方を直すのは少しアレですが、今回は許します。今後はちゃんと、名前で呼んでくださいね?ミズキさん?」
「は、はい。頑張ります」
こうして、みかづきちゃんとの初顔合わせは矢ヶ崎さんやみかづきちゃんにふりまわされながらも何とか終わった。
いよいよ明日は、白戸さんのおうちに行く日だ。緊張するー。吐きそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます