オリヴィア・スカーレットは喰らいたい 〜魔物を食べれば食べる程強くなる美少女のほのぼのチート冒険譚〜

@yanagi0940

第1話

 その日、オリヴィア・スカーレットはパーティーのリーダーであるカルマから呼び出された。


 「オリヴィアさん、すごく言いづらいんだけど、今日限りでパーティーを抜けてもらってもいいかな」


 オリヴィアは雷に撃たれたような衝撃を受けた。予想だにしていなかった爽やか好青年リーダーからのクビ宣告に彼女は分かりやすく狼狽する。


「なぜだ!?私はちゃんと仕事はこなしていたはずだろう?」


「うん、それは間違いない。オリヴィアさんが頑張っていることを否定するような人はうちにはいないよ」


「じゃあどうして!?」


 しっかりと仕事ぶりを評価してくれているのであれば、一見クビにする理由などないように思える。オリヴィアの疑問は至極当然のものであるように思われた。


 カルマは、人の良さが如実に表れた顔を歪ませる。オリヴィアの疑問に対する回答を言い淀んている様子だ。やがて、彼はふぅと一息をつくと、決心をしたように口を開いた。


「.......一人の女の子にこんなことを言うのはとても、とても心苦しいんだけど、オリヴィアさんの食費がかさみ過ぎて赤字なんだ。うちのパーティー」

「ッ!?」


 再び、オリヴィアに電流走る。彼女にとってその宣告は身に覚えがありすぎるものであった。硬直した彼女に追い打ちをかけるがごとく、カルマは手元の帳面に記した数字を読み上げていく。


「先月のうちのパーティーの総収入が『1200000G』、これは過去半年の中で最高の数字だったんだけど、それに対して、先月のオリヴィアさんの食費は『600000G』。パーティーの総収入のちょうど半分が君一人の食費で消えてしまってることになっちゃうんだよね。Aランクパーティーのうちじゃ、君を養いきれないんだ」

「......本当にごめんなさい」


 エンゲル係数の暴力。それはオリヴィアのこうべを垂れさせるには十分すぎるほどの威力を誇っていた。


「まぁそのままパーティーに残っても問題ないようにする方法もあるにはあるんだけど.......」


「本当か!?」


 オリヴィアは土下座をやめ、満面の笑みでカルマの顔を見つめる。しかし、彼は依然として苦い薬草を嚙み潰したかのような表情を浮かべており、それは、その方法が決して簡単なものではないことを示していた。


 オリヴィアは固唾を飲んで、カルマの次の言葉を待った。


「君がパーティーに残っても問題ないようにする方法、それは......」


「それは......?」


「君の食事量を減らすことだ」


 ぐるるるるるるううううううううううううううううう!!!!


 その時、地鳴りと錯覚してしまうほどの轟音が、オリヴィアの腹部から鳴り響いた。その音は、彼女にとって、その選択肢が万に一つありえないものであることを示していた。


「無理みたいだね」

「......はい」


***


「うぇーんオリヴィアああ、本当にごめんね」


 パーティーの魔法使いであるレベッカが、涙を浮かべながらオリヴィアに抱きつく。


「いいんだ。全ては私の責任なんだから」


 まったくもってその通りである。


「元気でな、オリヴィア。俺たちのパーティーがSランクになって、君が心配なくご飯を食べられるようになったら、また一緒に旅をしよう」


 パーティーの戦士であるゴードンが、オリヴィアに握手を求める。


「あぁ、そうなるように一生懸命頑張ってくれ」


 謎の上から目線である。


「それじゃあオリヴィアさん、これは君への餞別だ」


 カルマは、寂しげな笑顔を浮かべながら、オリヴィアに革製の袋を手渡す。中身はどうやら金貨であるようだった。


「その中には『600000G』入ってる。君が安定した収入を得られるようになるまで、せめて1カ月は食いつなげるようにしようってことで、皆で出し合ったんだ」

「みんな......」


 オリヴィアは、こんなにも恵まれた仲間と離れなければいけない運命に涙した。完全に自業自得だが。


 かくして、オリヴィア・スカーレットはAランクパーティーを追放されたのであった。

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