第29話 結成! クラガリ探検隊

■焼き鳥屋 センベロ利休


 俺達は貸し切ったセンベロ利休で祝杯を挙げる話をして一度解散した。

 ボロボロだった服を着替えるためにいったん帰ってから、店に来ている。

 

「おう、サグルー! お疲れー」


 すでに酒を飲んで出来上がっているイカルが店に入った俺の肩に手を回した。

 センベロ利休に入っているのは俺、イカル、織香、トーコ先生にキャサリン・スメラギともう一人、筋肉質で大きな爺さんがいる。


「一人知らないじいさんがいるんだが、イカルの知り合いなのか?」

「おいおいおい、ダンジョン庁長官の藤堂兵衛さんだぞ? 知らないじゃすまない人だって」

 

 べしべしとイカルが俺の頭を叩いてきた。

 酔いすぎて若干ウザさが上がっている気がする。


「キャサリンも来たんだな」

「ええ、貴方を救助しようと急いでダンジョンを下がっていったら、1階層に出たときいてトンボ返りですわ。その手間ぶん、しっかりお話の機会を貰わせていただいております。さぁ、こちらに座って」

「お、おぅ」


 俺はキャサリンに促されるまま、キャサリンと爺さん、あといつの間にかいた黒髪の男と一緒のテーブルに座った。

 ビールの酌を受けた俺にイカルが乾杯の音頭をとるように煽ってくる。


「ほら、サグル。最初の挨拶をお前がしなきゃみんな飲めないだろ?」

「そうなのか……じゃあ、面倒なことはなしで大岳ダンジョンの攻略に乾杯!」

「「かんぱーい」」


 全員がグラスを掲げてビールやウーロン茶を飲み、話し始めた。


「改めて、ワシがダンジョン庁長官の藤堂じゃ。お前さんがダンジョンに潜っているのを配信で見ておったぞ。島津以外にできる奴がいるとは驚きだったわ」

「島津?」

「噂のチェストマンと呼ばれている男のことですわ。なんでも銀髪の示現流使いで、強敵と戦うのを趣味としているとか……」

「ふーん、藤堂長官の知り合いなんですね……それで、こんな辺鄙へんぴな打ち上げに参加してきたってことは何かあるんですか?」

「話が早くていいのう。仕事はそうでなくてはな! お前さんたちのパーティ、クレイジーなんとかに冒険者ギルドから依頼を出したいと思っておるんじゃ」

「それって、ゲームとかでおなじみの指名依頼ってやつですか!?」


 藤堂の依頼の話に他のところでウーロン茶を飲んでいた織香が勢いよく立ってきた。

 酒を飲んでいるせいかぶんぶん動く尻尾が見える。


「その通りじゃな。場所は鹿児島県・沖永良部島(おきのえらぶじま)じゃ」

「洞窟の聖地!? 一度は行きたかった場所だったんだよな」

「喜んでくれてうれしいのぅ。その沖永良部島に巨大な木が生えてきて、周囲にモンスターがあふれているとの報告があがった。調査隊を送りたかったんじゃが、メンバーがなかなか見つからなくてのう。そこでダンジョンクリアをしたお前さんたちに頼みたい」

「すごいですよ! 長官直々の依頼ってかなりすごいことです!」


 藤堂長官の目は真剣で冗談を言っているようには思えなかった。

 織香も喜んでいるし、俺も洞窟の聖地に入ってみたいと思っていたが、モンスターがあふれている場所だと聞いたら素直に頷けない。

 

「調査にいくのはいいですが、ダンジョン化しているならパーティではいけません……俺は今回のトーコ先生みたいなことを起こしたくないんで、行くなら一人で行きたいです」

「サグルくーん、それはないんじゃないかな~。もうワタシたちは一心同体と言ってもいい仲じゃぁないか~」

「トーコ先生酔ってるんですか? 誤解がありそうないい方やめてください」


 酒臭い息を吐いて絡んでくるトーコ先生を押しのけて、藤堂長官に向き直った。


「もちろん、お前たちだけじゃないぞ。迷宮令嬢のチームもいくし、自衛隊からも1チームだす。お主らを含めて3チーム合同の作戦となるということじゃ。後方支援も行うので、協力してほしい」

「わ、わかりました。そういうことであれば協力させていただきます。あと、一つだけ……俺達のパーティは”クラガリ探検隊”に改名します。長官もいえないくらいじゃ、他の人に浸透しないです」

 

 頭を下げる長官に申し訳ないと思った俺は渋々ながら了承した。


「わかりやすくていいのう、手続きはワシがギルドの方へ伝えておこう」

「お願いします。じゃあ、クラガリ探検隊の次なる目標は沖永良部島(おきのえらぶじま)の攻略だ!」

「「おー!」」


 俺がグラスを掲げて次なる目標を宣言する。

 探検家として大きな一歩を踏み出せた気がした。

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