第12話 突入! 大岳ダンジョン
■大岳ダンジョン 入口
——2024年8月15日
早朝、始発と共にやってきた俺達は入口で撮影の手はずを整える。
事前告知もしていたおかげか、すでにクレイジー・エクスプローラーチャンネルには待機者が1000人はいた。
100万人のチャンネル登録者がいる姫野に比べたら少ないが、ついこの間までチャンネル登録者0で、待機者は1人だった俺には十分な成長である。
「サグル―、僕ちゃんは施設の会議室で司令塔しておくから頑張ってきてねー」
「だいぶ深く潜るから、探検になれていないイカルは足でまといだからそれでいい」
「うわっ、グサッとくる」
ちなみにこのやりとりもドローンでとってはいるが配信していない。
ディレクターズカット版として動画を売るときに入れるらしい。
「ディレクターズカット版とか、商売の仕方が上手いな」
「おいおい、講義でやってきたことだぞ、サグルー」
「あははは、サグルさんは本当に探検が好きなんですね」
「俺にとって、洞窟探検は人生のすべてと言ってもいいものだ」
入口から見える暗い穴。
その先にある未知の世界に俺は惹かれて洞窟探検をはじめていた。
大学も探検サークルがあるところを探し、探検家OBから話を聞いて学んでいる。
そのおかげもあり、ダンジョン化している洞窟であっても一度潜ったところであれば、難なくいけるようになっていた。
「じゃあ、俺と姫野だけで……」
「おーい、待ってくれないかーい」
俺が配信をはじめようとしたとき、気の抜けた声が聞こえてくる。
こんな朝早くにここに来るなんて、誰なんだ?
「いやいやぁ~、何とか間に合ったよぉ~」
「誰だ?」
「突然すまないねぇ、事前にアポを取ればよかったんだけど、気づいたのが深夜だったから、急いで始発できたんだよ~」
質問に全く答えてない、ツナギにヘルメット姿の女に俺は同業者の香りを感じている。
「ああ、ワタシについてだよねぇ~。ワタシは日本洞窟研究会の鐘丹生 燈子(しょうにゅう とうこ)。キミのいる大和田大学のOGになるし、大学での洞窟調査を一般公開前に根回ししたキミにとっては恩人になるかなぁ~?」
ふふふん、自慢げに胸を逸らせる鐘丹生先輩はしょうにゅうという名前と違ってデカかった。
今にもツナギのチャックがはじけそうである。
ちなみに、姫野の大きさは普通くらいだ。
格闘技をやっているなら大きくない方が動きやすいだろうから、いいんじゃないかな。
「サグルさんの視線がちょっとエッチ、です……」
両手で胸を守るようにして、顔を赤くした姫野がぼそっと呟いた。
グッと何かが胸に来たが、俺はこの感情の名前を知らない。
「おーい、そろそろ出発しないと人が増えてくるぞー」
「わかった、鐘丹生先輩からの話は道中でしていく。まずは配信開始だ」
「はい! わかりました!」
俺と姫野はお互いのチャンネルで同時配信を開始する。
視点の違いを楽しめることもあるので、複数のドローンの撮影だった。
「クレイジー・エクスプローラーのサグルだ」
「サグルさん、二つ名名乗りましょうよ」
「”スコップ師匠”サグルだ」
「Bランク冒険者の”織姫”です」
:なにこの夫婦なやりとり!?
:俺達は何を見せられているんだ
:織姫ちゃんっ!? BSS(ぼくがさいしょにすきだったのに)!
:乙
:乙
配信をはじめるとチャット欄が盛り上がっていた。
そうしている中、俺達の足元の方からにゅっと顔をだしてドローンに映る鐘丹生先輩。
「日本洞窟研究会のトーコ教授だよぉ~。今日はダンジョンを攻略するということでぇ~、研究のために同行を願いでたのさぁ~。よろしくだよぉ~」
:第三の刺客!?
:眼鏡の研究職系ダウナー美女、だと!
:スコップ師匠を追いかければいろんな美女が見られるってことぉ!?
「サグルくんはスコップ師匠と呼ばれているんだねぇ~。ワタシもトーコ教授では味気ないので、みんなで何か考えてほしいなぁ~」
鐘丹生先輩の登場でさらに騒がしくなるチャット欄だったが、俺は無視して先に進むことにした。
「噂では100階層近いと言われている大岳ダンジョンを2週間で攻略しに行く」
:スコップ師匠マジでいってる!?
:【悲報】ダンジョンRTA企画終了のお知らせ→勝てないから。
:荷物かるくね?
:トーコ教授のリュックくらいだよね、ちゃんと入っているように見えるのは……。
:お前ら、スコップにわかだな。スコップ師匠は〈収納〉スキルを持っているんだ。
:マ?
:マ
「メンバーは俺と姫野としょ……トーコ教授の3人になる。挑戦の様子を楽しみにしてくれ」
「さぁ、今回の作戦は~」
:命を大事に!
:命を大事に!
:命を大事に!
姫野の言葉にチャット欄が返したように命を大事にだ。
俺は50層までは潜った経験はあるが、100階層は未知の領域である。
「探検隊のリーダーとして、俺はお前たちを守るからな」
俺は二人を見めて宣言すると、二人よりも先に大岳ダンジョンの中へと入っていく。
夏の熱い外と違って、ひんやり涼しいダンジョンの中へと俺達は入った。
長い長いダンジョンアタックの始まりであり、俺の逃れられないダンジョンライフの始まりでもある。
「さぁ、まずはザコを無視していくぞ」
モンスターも先に入っている人がいないことを確認した俺は、片手ずつで二人をわきに抱えると、全力で走った。
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