第6話 コラボ配信の準備をしよう

■DAI Prark Dungeon Villege

 

 東京駅から快速で60分ほど電車に揺られた先には、アメリカのダンジョン用品ショップ大手の【DAI】が日本に作ったダンジョン装備販売メーカーを集めた広い施設があった。

 屋外では武器の試し切りなどが行えるエリアがある。

 重火器については日本の法律によるものと、ダンジョンではパラメーターの影響が重火器に反映されないために扱っていなかった。

 センベロ利休でビールとつまみを堪能した翌日、俺はイカルと共に訪れている。

 姫野と一緒にコラボ配信へ向けての装備を整えるためだ。

 昨日の今日でよく予定が空いていたなと驚きもするが、お互い学生で夏休みなのだから時間の都合はつけれるのだろう。


「おはよう、姫野」

「おはようございます。サグルさん! えっと、隣の方は?」


 俺がファンに囲まれて写真撮影に答えたりしている姫野に声をかけると、姫野は小走りでこちらにやってきた。

 尻尾があれば小型犬のようにぶんぶん振っているだろう。


「サグルのマネージャーをやってる財前 猪狩さ。よろしく!」

「マネージャー……サグルさんには必要ですよねぇ」

「だろぉ? いきなりコラボしなかったのはコイツの映えを上げてから行きたいと思ってさ。僕ちゃんと織姫ちゃんでプロデュースしようってわけ。もちろん、織姫ちゃんの方で配信するのはOKよ」

「そうなんですよ! サグルさんの野暮ったいところを直せば結構いけるって、私も思っていたんですよ!」


 イカルが姫野と挨拶してから、二人して俺を話題に意気投合したようだ。

 俺の恰好はいつものダンジョン行き用の装備である、ツナギにリュックという姿である。

 他の私服は選ぶのが面倒なので最近は同じ色のツナギをたくさん買っていた。


「髪型はスタイリストさんにちゃんと切ってもらいたいので、別日にして、今日は服とかを整えましょう!」

「いや、俺は普通に消耗品の補充だけd……」


 最後まで言い切ることができなかった俺は姫野に引っ張られて、アウトドアアパレルを多く扱うメーカーのエリアに連れ込まれる。

 服にいたっては市販のアパレル系で基本は十分だった。

 ダンジョンに潜ってモンスターを倒していると、ポイントがたまりそれを防御を司るVITや、素早さを司るAGLに分けて成長させていくのが基本だからである。

 変に重い鎧を着て動きが鈍くなる方が危険だと、先人たちが文字通り体を張って伝え残してくれていた。


「動きやすいから、ツナギでいいじゃないか……」

「そんな芸人みたいなのは私の配信ではダメですよー。トップダンジョン配信者を目指すなら、見た目から決めないと!」

「俺はトップ配信者になるつもりはなく、あくまでも探検家としてだな……」

「安全第一なのもわかるけど、ダンジョン配信は映えが大事なのよ。登録者が爆増すれば、投げ銭とかで活動資金もらえるんだよ? 嬉しいだろ?」

「それならば……ううぅむ……」


 なんか微妙に言いくるめられている気が……まぁ、よしとしよう。

 

「財前さんはサグルさんの扱い上手ですね……」

「伊達に3年以上同じ大学で一緒にいないってね」

「おい、聞こえているぞ」


 ひそひそ声をしていたようだが、あいにくと俺は〈聴覚強化Lv4〉のスキル持ちだ。

 ジャイアントバットをたくさん食べたら増えていたスキルの一つである。


「こんなのどうでしょ? レザージャケットをメインに動きやすさとサグルさんのカッコよさを生かしたコーデです」

「うーん、そっちのジャケットよりもこっちの方が合うんじゃないかな?」

「財前さん、いいセンスですね!」


 わいわいと騒ぐ二人に着せ替え人形とされる俺は無抵抗に体を投げ出した。


 ——2時間後


 服だけで相当時間がかかったが、本来の目的であるダンジョン装備や消耗品の補充に俺達は向かう。

 

「それで、コラボ配信は何を目的にやるんだ?」

「決まっているだろ? 大岳ダンジョンの攻略だよ。50層でドラゴンがでるから攻略までいけてる奴らはいない。チャンスだろ、チャンス」


 端末で情報を調べていたイカルが俺達の前に動画の予告ページサンプルを見せて来た。

 丁寧なつくりで、昨日今日で出来上がったとは思えない。

 

「私も攻略してみたいので、是非、一緒にお願いします!」

「俺は冒険者じゃないんだけどなぁ……」

「でも、洞窟の一番奥に何があるかは興味あるだろ? ダンジョン化してからは誰もたどり着いていない領域だぞ」

「その言葉には浪漫があるな。やるか……俺の足でいくなら1週間あれば50層くらいは往復でいってこれるな」

「私はもうちょっと足が遅いです……」

「道具類は俺が〈収納〉できるので、姫野を背負って降りる。撮影に集中してくれた方がいいし、どうだ?」

「いざとなったらで……お願いします。私は格闘系なので、背負われてると攻撃手段がないんです。ごめんなさい」


 話がまとまり、移動時間を考慮して作戦を練っていく。

 ふと、俺はイカルに顔を向けた。


「お前はどうするんだ?」

「僕ちゃんはお外で待機だよ。トラブルがあった時の連絡係さ。あ、サグルの方も撮影ドローンを買いなよ。手でもっての撮影なんか冒険者の動きを捉えられないよん」

「金がなぁ……さっきの服は姫野がお礼ってことで、ありがたく貰ったが……」

「そこは大人なんだから、魔法のカードを使ったりとか……」

「サグルさん知らないんですか? 冒険者カードって入場料の支払いとか自動でやってくれるじゃないですか。DAIでも冒険者カードでクレジット支払いできるんですよ?」

「そうなのか……普通に交通系ICと同じ使い方だと思っていた……」

「交通系ICでも、コンビニで買い物できるっしょ。サグルはこれだから、目が離せない」


 俺と姫野のやり取りを見ていたイカルが肩をすくめる。

 グウと姫野のお腹がなったので、昼食をとることにした。

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