ココナッツケーキを二人で
瑠璃色の石榴
第1話 邂逅
━━━
「やぁやぁ少年!こんな所で何をしているんだい?今は遠い、あの頃を取り戻そうとしているのかな?折角だから私も混ぜてもらえるかい!」
ハツラツとした、爽快感を感じさせる声色が、
暗澹たる曇り空を、一瞬にして晴天とした。
そんな錯覚を覚える声に、突然の事に動転し、声の主へと顔を向ける。
『あれ…?生徒会長?』
「そうとも!私は君と同じ高校の生徒会長だ!」
胸を張って、〔ふんすっ〕と聞こえそうな様子で、ネオンカラーのレインコート姿のその人は答える。
思わず苦笑がこぼれた。
栗色に、ピーナッツバターっぽい色合いのメッシュが入った、軽くウェーブの乗ったミディアムヘア。
ツリ目ながら冷たい印象はない、強い意思を宿したカフェオレ色の目。
しっとりした頬には朱が入り、桃色の唇の、平均より高めの身長の人だ。
「それで、少年!子供は風の子とも言うが、わざわざ雨のなかブランコを こいでいるのはあまり感心しないぞ!」
『そう言う会長だって、こんな天気に外で何してるんです?』
「私かい?もちろん散歩だ!机に向かってばかりだと、気が滅入ってしまうからねぇ。」
〔ふんー〕と、
ジト目ぎみに目を細め、一つ鼻で息をする。
唇が、不機嫌に歪んでいる。
「ときどき…こうして歩き回るのさ。」
そう言いながら、生徒会長は空いている
ブランコに座り元気よくこぎだした。
… 一回転するんじゃないか、と思うような勢いで。
…なにか、マズイ事を聞いただろうか?
気を悪くするような事を聞いてしまったかもしれない。と無言で見つめていると、
こぐのをやめ〔ギィ…キィ…〕とブランコの歌う不気味な子守唄をBGMに、
生徒会長は、ゆっくり揺られながら
こちらに顔を向けると、口を開いた。
うっすらと笑みをうかべて。
どこか…
ざわつくような、目の前に猛獣でも居るかのような、冷たいモノに掴まれたような、そんな感覚を覚えたのは気のせいだろうか?
「何か悩み事かい?少年。」
『…まぁ…そんなとこ、です。』
なんとなく、人を茶化すような空気はそのままに、
しかし真面目に話を聞こうとする雰囲気が
自然と口を開かせた。
この人には話せる。そう思える不思議な感覚だった。
さっきのは気のせいだったようだ。
雨のなか、ネガティブな気持ちであれば、
思考が引っ張られるのも自然なことだろう。
「私で良ければ聞こうじゃないか。
なにか助言できる事があるかは分からないが、
声に出して話すことで、思考の迷路から抜け出せるかもしれないからね!」
『あー…んー…えっと…』
「あぁ、待った。」
話を切り出す頃合いで彼女は、座面から離れ…
「雨に打たれながらというのも風情だが、
風邪を引いては笑えない。
ひとまず我が家にでも来るといい!
温かい飲み物でも飲んで、コイバナに花をさかせようじゃないか!」
そう提案していた。
ニィと、スッと、表情を描きあげ、
数歩、足を踊らせ、くるりと回り…
「そうだ。君は緑茶と珈琲なら、どちら派閥だい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます