9話 探偵と翼竜 2/2

 草加の方で周囲(タワマンや近隣施設)に許可を取り、無事狙撃できることになった。

 俺たちは警察の所有しているワゴン車で現場周辺に移動している。夜の町中に建物や街灯の明かりが光る。時刻は午後十一時。運転しているのは草加だ。相変わらず顔色が悪くエナジードリンクをがぶ飲みしている。薄羽刑事連れてきて奴に運転させればいいだろ。


「相手は決まって午前一時頃に行動している。一応午前零時から配置につく」


 草加は運転しながら、助手席に座っている俺に話しかけてきた。


「私はマサトの勇姿を写真に撮ってやろう」


 後部座席のリコが高そうなカメラを首にかけてい

る。リコはスマホではなくカメラを使うタイプだった。


「いやなんでリコがついてきてんだよ」


 草加が事務所まで迎えに来たときに当然のように乗ってきておかしいなとは思っていた。


金城鉄壁きんじょうてっぺきの護りを誇る無敵のと聞いている。理子殿が車に乗っているだけで相手からの奇襲は恐れる必要がない」


 草加の説明を聞き、ああそういうことかと合点がいく。前に薄羽刑事がリコをと呼んだのは、リコがと知っていたからだ。

 しかし警視庁でも異能力者という意味でのを知っているのはどれだけいるんだ。


「ちなみにどんな能力なんだ?」


 後部座席のリコに尋ねる。俺の質問を聞き、リコの表情が引き締まる。聞かれたくなかったか?


「実演した方が分かりやすいだろう。草加殿、車を止めてくれ」


 草加が歩道側により車を止める。

 リコが車から降り、歩道にかがみ何かを探す。


「これでいいか。マサト、降りてこっちに来

てくれ」


 俺も降りるように言われる。そして何かを手渡さる。小石だ。


「それを全力で投げてくれ」

「えっ、やだ」

「投げろ」

「イヤ!イヤ!イヤッ!」


 首を振り嫌がってみる。


「貴様はなんか小さくてかわいくないだろ。素直に投げろ」

「しゃあねえな」


 仮面バトラーとしての職業倫理がお嬢様に石を投げるのを嫌がる。しかしリコが投げろと言うので投げるしかない。お嬢様のわがままを聞くのも仮面バトラーの仕事だ。


 三メートルほどの距離を開けて石を投げる。

 石はリコに近づくほど、目に見えて速度を落とし、のでキャッチする。


「すまない。跳ね返すつもりではなかったが、自動で返してしまった」


 バツの悪そうな顔でリコが頭を下げた。それは見事に頭が深く下がった。確かに驚いたが、当たらなかったのでそこまで殊勝な態度を取らなくていいだろ。


「私を傷つけるあらゆる事象を遠ざける能力。父上はこの能力を『斥力』と呼んでいる」


 リコの能力がよく分かった。


「自分の身を自分で守れる能力があるなら連れて行ってもいいか」

「マサトは私が怖くないのか?」


 俺に石を投げさせて、石が俺に跳ね返ってきてからしおらしいな。別にそんな気にしてないんだが。


「そんなわけねえだろ」


 リコ本人には何か自身の能力について思うところがあるらしい。



 そんなこんなでリコが実質無敵ということが判明したが、時間怪盗狩りを始める。と言っても外で狙撃位置につくのは草加だけで、俺たちはパーキングに車を止めて車内で待機している。

 この辺で一番高い建物の屋上から草加は狙撃する。


「人が時間を潰すときに行うことといえばしりとり。我が語彙力にひれ伏すがいい」


 沈黙に耐えかねたリコがしりとりしようと言い出す。先程は少しナイーブになっていたが、調子を取り戻したみたいだ。


「おっ、やるか」


 俺がしりとりに乗った直後、銃声が響く。


「しりとりはあとだ。車で待っていろ」 


 車を降りてタイムレンズを装着する。

 奪ったベルトも意識すれば、出てくるようになった。普段何処に仕舞われているのかは知らん。


「シンクロ・ハーモナイザー:フリーズレンズ、装着ッ!!」


『DNA認証、管理者アドミニストレータ権限を確認。シンクロ・ハーモナイザーを起動。適合値変更キャンセル。結晶装甲、強化スーツ、仮面を変換します』


ベルトを起動するといつものスーツに赤いラインが入り、結晶装甲が白く変わる。


「忘れ物だ」


 車から出てきたリコがタイムスラッシャーを俺に渡してくれた。車内で邪魔だから一旦外したんだったな。


「ありがとう」


 剣を抜く。

 撃ち落とされた時間怪盗の元に走る。


チャカ持ち出すのはズルだろ。しゃあねえやるか」


 翼に穴の開いた翼竜が独り言を言っている。いや翼竜の頭部に白い仮面が見える。ガワがスーツよりも単純にデカいだけか。飛行能力はさっきの銃撃で失われたようだが、向こうの方がデカい。

 俺より頭二つ分高さがある。よく窓から部屋に入れたなという巨躯だ。


「凍剣抜刀」


 剣を地面に突き刺し、地面を鞘代わりに使い必殺の一撃を叩き込もうと剣を振る。

 その瞬間何かが俺たちの間に空から降ってきた。

 衝撃で歩道が凹み、放射状にヒビが入る。

 俺の一撃は何者かが弾き、氷の破片が周囲に飛び散る。


「誰だ?」


 翼竜が何者かに尋ねる。

 それは俺――仮面バトラーレンズ――によく似ていた。

 白い強化スーツに赤い結晶装甲、白いシルクハットに黒い骸骨のような仮面。もちろんレンズは赤く輝いている。俺と明確に違うのは首に巻かれた赤いマフラーだろう。

 赤いマフラーはヒーローの証と誰かが言っていたな。


「タイムレンズの開発者にしてのNo.2、マイスター・アイオーン。みんなはマイスターとしか私を呼ばないけれど」


 マイスターの声は若い女の声だった。

 そして翼竜に背を向け、俺に剣を向ける。俺のタイムスラッシャーと同じものに見える。


「貴方のこれまでの冒険を語ってちょうだい」


 いきなり敵組織の幹部がやってきた。俺はこの女相手にして生き残ることができるか。




 

 

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