8話 企鵝と雨 幕間

「チャオ」


 ヘイズは葛西臨海公園の付近の駐車場に来ていた。


「お疲れ様です」


 ネイビーブルーで天に向かって逆巻くような寝癖をそのままにしたスーツ姿の男、エージェント・バードが車外に出て、後部座席のドアを開ける。

 ヘイズは後部座席に乗った。バードは運転席に戻る。


 仮面バトラーレンズ、乾マサトを始末するために集まった三人が車内で密談する。


「どのタイミングで仕掛けるの?」


 助手席に座る灰色で半透明の装甲を纏う女は尋ねた。竜を模した仮面と貝の形をした肩章エポレットを身に着け、マントを羽織っている。そのため助手席で窮屈そうにしていた。


「今直ぐ。直ちに。バードには方とを分断して欲しい。ミラージュさん、?」


 ヘイズはミラージュに尋ねた。


「ガラスドーム前で写真撮っているね。呑気だなあ」


 ミラージュはまるで遠くの風景をリアルタイムで見たように答えた。


「水辺だな。やりやすい」


 ヘイズはここで乾マサトを始末するつもりであった。


「私とバードくんはあくまで助っ人だからね。そんなにやる気じゃないということを覚えていて欲しい」


 ミラージュはヘイズほど本気で乾マサトを始末するつもりではなかった。バードも同じだ。

 バードについてはテンペストに言われて来ただけであり、ミラージュは乾マサトの処遇について諦めていた。『黙示録』に書かれた筋書きが早まったとしても仕方のないことと認識していた。

 また乾マサトがミラージュたちの予測の範疇を超えるとしてもワイルドハント社の社長――嵐の王――が帰還すれば何も問題はない。

 とは嵐の王とマイスターである。他の全ては交換可能な歯車に過ぎない。

 ミラージュは社長が自分たちと交わした契約を守り続けてくれるのならば自らの命もどうでも良かった。


「象と象が戦って傷つくのは草だ。草に等しいのはもちろん我々だ。ならば物事が小規模のうちに始末したいと思うだろう?」


 ヘイズは二人に危機感を持つように訴えかけた。

 社長には多大な恩があれど、社長と乾マサトが対決することになればヘイズやミラージュは無事では済まない。


「俺は鳥の気持ちなんですけど」


 バードは頓珍漢な返事をした。彼は組織員エージェントとしての活動に何も私心を持ち込んで居なかった。ただ風の向くままに動く自分を認めてくれたマイスターやその信奉者であるテンペストの言うことを聞くのみ。


「……それについては意見の相違がある。だけどせっかく来たんだし私はやるよ。バードもそうだよね?」

「俺も同じ意見です」


 ヘイズと二人の温度差は変わらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る