3話 都市伝説と時間怪盗 アバンタイトル

 ワイルドハント社の本社は都内某所にビルを構えている。白と黒のツートンカラーで描かれたWのロゴマークの看板が屋上に立っている。この近辺では一番の高さのビルだ。

 茶色の癖毛に赤いレンズの色眼鏡を掛け、白衣を羽織った男がビルに向かってきた。エージェント・テンペストである。

 テンペストはビルに入り、エレベーターで八階に向かった。

 八階にはワイルドハント社の営業課が入っている。他の階と同様にPCの置かれた机が並んでいるが、この部署は空席が目立っていた。営業課の社員は日中ほとんど事務所に戻ってくることはない。直行直帰も珍しいことではなく、誰も居ない瞬間も珍しくは無かった。

 テンペストは自身の席に座り、PCを開き不在の間に溜まったメールを確認する。


サカキ


 豊かな黒髪を腰ほどまでに伸ばしたカーキ色のジャケットの女が、テンペストをサカキと呼んだ。女は八階の部署の入口から一番奥の席からテンペストの側に歩いてきた。


「コードネームで呼び合うとが決めたはずではないか?チーフ」


 女はチーフと呼ばれた。テンペストにとっての上長である。チーフはテンペストより年若い。


オレと貴様しか今は居ない。……それに貴様もオレしか居ないと分かってタメで喋っているじゃないか」


 時間怪盗関係の各部署はマイスターによってコードネームで呼び合うと決められている。だが実際には本名で呼び合うことの方が多かった。


「そうだな。昔のように名前で呼ぶか?ノゾミ」


 どうやらテンペストはチーフのことを昔から知っているようだった。


「名前で呼ばれると気恥ずかしい。じゃないな。本題はこれだ」


 チーフは小箱をテンペストの机に置き、開いた。中にはやや赤黒いレンズが入っていた。


「合成済みのレンズか」


 赤いレンズには既に何かが合成されていた。タイムレンズは生成されたばかりでは時間のみを含む純粋な赤であるが、何か他の概念を混ぜると黒く濁る。


「これで時間怪盗を用意してくれ。時間はあまり絞れ取れなくてもいい」

「承知した」


 テンペストは小箱の蓋を閉じた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る