第3話 サグルとボスと女神の贈り物
リスナー(クラスメイト)との話し合いの結果、無いものだらけのサグルはレベリングを可能な限り行った上でスケルトンナイト戦に望むことが現状最も安全な作戦であるとの結論に至り、探はタイムリミットまで6層から10層までのモンスターをサーチアンドデストロイ作戦でもって確実にそのレベルを上げていた。
その日数は最初に持たされた食料の残りから計算して5日間。この5日間サグルは徹底してモンスターを狩り続けた。
最初の低レベル帯の内は敵一体を倒すにしても時間がかかり効率が悪かったのだがレベルが5を越え始めたあたりから奇襲ではあるが敵を一撃で倒せるようになり、6層から10層のモンスター殺戮パレードにかかる時間は当初の半分以下の時間しかかからなくなっていた。そして……レベル上昇の通知音が配信ウインドウから鳴り響く。
「よし!!これでレベル11だ!!」
サグルは自身のレベリングの成果にガッツポーズで喜びをあらわす。
【オメ】
【オメメ】
【おめでとう】
配信画面ではリスナーたちがサグルのレベルアップの祝福コメントをサグルに送る。
「ありがとう皆。お陰でここまで心折れずにやってこれたよ」
ダンジョンの攻略とは関係ないがSAGURU TV の登録者も順調に伸び、初日から5日間経過した現在では登録者数が50名近くまでに伸びていた。
「これでスケルトンナイトとのレベル差は6、これだけあればスケルトンナイトも倒せるはずだろ」
5層のボスであるスケルトンナイトの討伐推奨レベルは5人のフルパーティー戦で5となっている。そして現在のサグルのレベルは11、正直普通のRPG では上げすぎと言ってもよいレベル差である。しかし、
【ま、油断しなければ】
【2段階目には気を付けろよ】
【通常時はともかく2段階目がな】
とコメントにもあるようにスケルトンナイトはHPが50%を切ると2段階目に移行して素早さと筋力が一段階上がる。
この2段階目こそスケルトンナイト攻略の肝であるのだが、
【最近は皆上級者の力を借りてパワーで押しきるからな】
【サグルみたいに一人で挑む奴ってほとんどいないんだよな】
【だから最近のデータがない】
【安心しろ骨は拾ってやる】
コメントにもあるように最近では上級者の力を借りて攻略する者がほとんどなため、スケルトンナイトの攻略動画がほとんど見当たらないのだ。故にサグルは手探り状態でスケルトンナイト討伐を行わなければならない。
「まあ、出来る準備は全部やったし、後は当たって砕けろの精神でやってやるよ」
【いや、砕けるなし】
【イケルイケル】
【RIP SAGURU 】
こうしてサグルはダンジョン――アビスホール第5層ボススケルトンナイトに挑むこととなった。
――5層ボス部屋前
サグルは5層のボス部屋の前に着くと深呼吸をして心を落ち着かせる。
「よし!」
意を決したサグルはボス部屋の扉を開ける。するとボス部屋の中央に、簡素な鎧と剣と盾を装備したスケルトンナイトが待ち構えていた。
【紙装甲なんだから一発も貰うなよ】
【ガンバレサグル】
【ガンバレ、ガンバレ】
【ガンバレ】
【死んでも骨は拾ってやるぞ】
リスナーからの励ましのコメントを受けて気合いを入れるサグル。
「皆ありがとな、あとさっきから不吉なコメントしてる奴、お前は死ね」
サグルは屈伸運動をしながらスケルトンナイトを見据える。
「そんじゃあやりますか!!」
サグル対スケルトンナイトの一戦の幕がこうして上がった。
サグルは使いなれた調理用ナイフを右手に構え、一直線にスケルトンナイトに肉薄する。接近されたスケルトンナイトはサグルの攻撃に合わせて自身も攻撃をするが、その動きは鈍重そのもの。サグルはスケルトンナイトの攻撃を難なく避けてみせると
「はは、遅いんだよノロマ!!」
戦闘開始による脳内麻薬の分泌作用によって気持ちがハイになったサグルは次々と調理用ナイフによる攻撃をスケルトンナイトに当てて行き、スケルトンナイトのH Pをガンガン削っていく。
【お、これなら余裕だな】
【まだ一段階目だ油断するな】
【よし、このまま押しきれ】
そして、スケルトンナイトのHPが半分を切った瞬間、スケルトンナイトから強大な魔力の奔流が流れ出し、サグルは強制的に攻撃を中断させられる。
「くそ、押しきれると思ったのに」
【しゃーなしドンマイ】
【ドンマイ】
【次からが本番だぞ】
コメントの通りスケルトンナイト戦は2段階目からが本番。サグルは調理用ナイフを持つ手に力を込めてスケルトンナイトの変化が終わるのを待つ、そして、魔力の奔流が治まった瞬間を狙って再びスケルトンナイトに突進する。
「先手必勝!!」
言って渾身の一撃をスケルトンナイトに見舞おうするサグルであったが、金属がぶつかり合う音がボス部屋全体に響き渡る
「クソ!!」
短く悪態をつくサグルの目線の先にはサグルの一撃を受け止めたスケルトンナイトの姿があった。
「なら!!」
サグルは素早くスケルトンナイトから距離を取り2撃目に移行しようとするが
「な!?」
スケルトンナイトがサグルを上回るスピードで肉薄し、攻撃を繰り出す。
【ちょ!?おい!!】
【いくらなんでも早すぎねぇか!?】
【推奨討伐レベル5の速さじゃないよ】
【どうなっとるん】
スケルトンナイトのあまりの敏捷性の高さに混乱するコメント欄のリスナーたち。しかし、最も混乱していたのは実際にスケルトンナイトと相対しているサグルの方である。
――なんだこいつ、強すぎだろ!?
―――宇宙某所、白ノ間
ここは女神フェイスレスが所有する空間。そこで女神フェイスレスはアビスホールに送り込んだ探索者の様子を動画サイトを通じてリアルタイムでその様子を愉悦混じりに見ていた。
「フフ、だって久しぶりに見つけた面白いおもちゃなんですもの。神は自身の愛するものに試練を与えるものなんでしょう?だったらこれは私からのささやかな
そう言って女神フェイスレスはコツンと配信ウインドウをはじいてみせた。
―――アビスホール第5層ボス部屋
スケルトンナイトと対峙するサグルはスケルトンナイトからの猛攻をなんとかギリギリのところでしのいでみせていた。
【このままじゃ不味いだろ】
【ヤバイヤバイ】
【クソ、頑張れサグル】
スケルトンナイトやゾンビ系統のモンスターには元々スタミナという概念が存在しない。故に永続的に行動が出来るのだが、その代わりに動きが緩慢であったりと弱点も存在する。しかしサグルが今対峙するスケルトンナイトは弱点である動きの緩慢さを克服した個体である。故に攻撃が避けにくい上に永続的に攻撃が出来るという最悪の存在となっている。
また、対峙するサグルには当然であるがスタミナが存在する。今のところギリギリではあるがスケルトンナイトのしのげてはいるが、いずれスタミナが尽きスケルトンナイトの攻撃を受けてしまうだろう。そうなればただの制服しか装備していないサグルは確実に致命傷を負うこととなる。
余裕の勝負から一転、女神フェイスレスの悪戯により窮地に追いやられたサグルは自身の死を明確に感じ取っていた。
「くっそが!」
この絶体絶命の危機にサグルのウィンドウから通知音が鳴り、それにスケルトンナイトが一瞬気を取られたのをサグルは見逃さなかった。
――今!!
サグルは通知音に気が取られて一瞬動きを止めたスケルトンナイトを足で蹴り飛ばし、互いの距離を開ける。そしてチラリと横目で配信ウインドウに目をやると
『転職条件を満たしました『配信者』に転職しますか?』
の文字が表示されていた。
ここに来てのゴライアスの街の転職システムを介さないJobの出現『配信者』なるJobなど聞いたことも見たこともないサグルはリスナーに向かって
「オイお前ら『配信者』なんて職業知ってるか?」
とJob『配信者』について聞いてみるも
【知らん】
【知らない】
【初めて聞いた】
【それより前前!!】
とコメント欄のリスナーでさえ配信者についての知識を持っていなかった。
「クソ、誰も知らねぇのかよ……だったらどうする?」
この世界においても死にスキルや外れ職業の概念は存在する。故にサグルはここで現れた見たことも聞いたこともない職業に転職することを躊躇していた。しかし、現状を打開するにはこのタイミングで現れた転職を利用しない手しかないこともまた事実であった。
「だったら乗るしかねぇだろ!!」
覚悟は決まった。サグルはウインドウを操作し『配信者』に転職することを決める。そして次の瞬間、スケルトンナイトの攻撃がサグルを襲った。が、サグルはあっさりとその攻撃を調理用ナイフで受け止めていた。
「なるほどな、これが『数は力也』ってか」
サグルがこの土壇場で発動させたのは『配信者』専用のパッシブスキル『数は力也』その効果は自身のチャンネル登録者の数と動画の総再生回数に応じたステータス強化を行うというものである。
「これなら勝てる!!」
このスキルの有用な点は永続でステータスのが増し続けるという点の他に、ステータスが増すことによる高揚感までも永続で続くというもの。つまり、いくら精神的に追い詰められようとチャンネル登録者数と動画の総再生回数が伸び続ける限り決して折れない精神が完成されるということである。
サグルはスケルトンナイトへの攻撃を再開し、スケルトンナイトも急に動きの良くなった探からの攻撃に即時対応、両者の実力が拮抗し、お互いに有効打を与えられない状況に移行。つまり、常に能力強化が発動し続けるサグルの勝利が確定した瞬間であった。
その証拠にわずかに、徐々に、段々とサグルの攻撃をさばけなくなるスケルトンナイト。やがてサグルの攻撃に成す術なくサンドバッグのように攻撃を受け、
「これで、最後だ!!」
サグルの頸部へ一閃により頭部と胴体が分断されるスケルトンナイト。
【うおおおおおおおお!!】
【かったあああああああ!!】
【勝ったあああああああ!!】
【VICTORYyyyyyyyyyyyy】
固唾を飲んで見守っていたリスナーたちも爆発したかのようにコメントを打ち込む。
そして、スケルトンナイトの体完全に消失するとサグルのウインドウからファンファーレが流れ出し
『おめとでとうございます。第5層のボス『赤き奔流スケルトンナイト』が討伐されました』
とスケルトンナイトを討伐したことを伝えるシステムメッセージが表示され、更に
『単独撃破報酬として、『赤き骸剣ネクローシス』討伐報酬としてアクセサリー『赤き奔流の腕輪』を進呈いたします。』
と表示される。
「お、何か手に入ったぞ」
【名前からして強そうだな】
【見してみ?】
「わかったよ少し待ってな」
サグルはウインドウを操作してストレージ画面を表示、そこから手に入れた武器とアクセサリーを手に取る。武器の方は骨のような装飾が施された赤色の長剣、アクセサリーの方は同じく髑髏の装飾が施された腕輪であった。
「見た目禍々しすぎんだろ……それで効果はっと……」
『赤き骸剣ネクローシス……攻撃力+10、この武器で敵を一体倒すごとに攻撃力に0.1の補正がかかる』
『赤き奔流の腕輪……MPを消費して自身のステータスに+補正をかける、効果時間30秒、+補正は使用したMPによって変動する』
「え!?強くね!?」
【強い】
【強すぎだろ】
【なんかおかしくね】
【強すぎ!!】
報酬アイテムの強さにコメント欄も大騒ぎだ。何はともあれサグルは見事最初の関門スケルトンナイトの討伐に成功するのであった。
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