第一章 探とサグルと『配信者』
第1話 ダンジョン――アビスホール
探が再び目を覚ますとそこは薄暗い洞窟のような空間が広がっていた。
「くっそ!!やられた!!」
探は女神が最後に見せた笑みの正体を知り、悔しそうに地面を殴る。
「あのクソ女神、ハナから俺を帰す気なんてなかったんだ。だからあんな露骨な言い回しをして楽しんでやがった」
探はそう結論づけてひとしきり怒りを発露させると今度は深く、深く深呼吸し、頭の中をクリアにして冷静さを取り戻す。
――おそらく俺が飛ばされたのはダンジョンの中。だとすれば今はどの階層にいるんだろうか?それに……
「ステータスオープン」
探は以前見たダンジョン探索者のLIVE動画を思い出しながらステータス画面を出現させる。
――Levelはやっぱり1からか、Jobに就くにしても街まで戻らないといけない。と、なれば……
探はステータスウィンドウを操作し、今度はストレージ画面を出現させてその中身を確認する。
――ストレージ内にあるのは約一週間分の食料と水。武器になりそうなのは調理用ナイフが一本だけ……だけど何もないよりは遥かにましだ。
「よし!!」
探は意を決するとストレージから調理用ナイフを取り出して更にステータスウィンドウを操作し、今度はLIVE配信画面を出現させる。ダメ元ではあるが自身の現在地を配信を見に来た視聴者に聞いてみようという算段だ。
「配信開始は……ああここか、よし!これで配信が開始されたはず……後はリスナーが来てくれるのを待つだけだ」
しかし、5分待てど10分待てど探の配信見に来てくれる視聴者は現れない。
「予想はしてたけどこれが現実か……」
いくらダンジョン配信がこの世界における最大規模の娯楽コンテンツと言えど、誰もが登録者ゼロ、視聴者ゼロから始まるように、初めての配信でそれも開始数分から視聴者を稼げる者など大手のクランに所属している者くらいであろう。当然そんなことは探にもわかっていた。
「とりあえず配信はつけっぱにしておいて、ここが何階層なのか探ってみよう」
探はそう言うと一人ダンジョンの中を歩き出す。するとそう間を空けず一匹のモンスターを発見した。
「プルン」
「スライムか……」
スライムはこのアビスホールにおいて、掃除屋と呼ばれ、モンスターや人間の死骸からその糞尿に至るまで様々なものを補食するモンスターであり、その生息範囲は一階層から現在の人類の最深到達階層である73層まで広い範囲に生息しているモンスターである。そうであるが故に探のように現在地を知りたい者にとってはまったく参考にならないモンスターでもある。しかし、
「スライムと言えど経験値にはなるはずだ」
レベルの低い探にとっては貴重な成長源となる。探はスライムの動きを注意深く観察し、他にモンスターがいないことを確認するとそのスライムの前に立ち
「悪いな、俺の貴重な経験値になってくれ!!」
スライムのコア目掛けて突進し、持っていた調理用ナイフでスライムのコアを破壊してみせる。
「ピギャア!?」
コアを破壊されたスライムは短い断末魔とそのゼリー状の体のみを残して息絶える。
「流石にスライム一匹のじゃレベルアップはしないか……けど」
確実に経験値はたまっているはずだ。探はストレージに倒したスライムの死骸を収納すると、再びダンジョンを探索し始める。そして、合計3匹程のスライムを倒したあたりでステータスウィンドウからレベルアップの通知音が鳴り響いた。
「よし!!これでLevel2にレベルアップしたぞ」
この世界においてレベルアップの恩恵は基本的にステータスアップのみで、スキルの類いについてはJobのランクアップが関係してくる。
探はまだJobには就いていないため、Jobのランクアップは出来ない。だからこそ今ダンジョンを生き延びるためにはレベルアップが重要となってくる。
「とにかく今はレベルアップと現在地の確認を急がないとな」
探はそう言うとダンジョン内を隈無く探索。そして待望のモンスターを発見することになる。
「スケルトンだ!!」
そこにいたのは人骨の魔物スケルトン。ダンジョンの一層から10層に生息している魔物の代表格であった。
「スケルトンがいるということはここはダンジョンの一層から10層までの間ってことだよな。よかった思ってたよりも全然浅い層だ」
探は女神の悪辣さからもっと深い層に飛ばされたものと思っていたため、予想外に浅い層に飛ばされたことに驚く。
「あの女神案外良心的……いや、そんなわけないか。兎に角、おおよその場所は分かったところだし、後はより詳細な場所とレベルアップを目的に行動するとしますか!!」
手探り状態だった未来に希望が見えてきた。探はその後もスケルトンを難なく撃破し、ダンジョン脱出へ向けて意気揚々と歩き出すのであった。
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