来世面談

夕玻露

来世面談

僕は、殺された。


どこまでも続くような真っ白な空間、少し遠くの方には夥しい数の人が並んでいるが、その奥まではしっかりと見えない。ここまでの道のりは覚えていないが、おそらく、ここは死後の世界なのだろう。僕がどうするべきか考えていると、奥の方から人型の何かがやってきた。それは、幼い女の子のようで、頭の上には、黄色に光っている輪っか、背中には飛ぶには小さすぎるような羽、そして、手には無駄に可愛くデコレーションされた弓と矢尻がハート型の矢。私こそが天使だと言わんばかりの容姿であった。


「ここに来たばかりの方ですね。今の状況が把握できず、とても困っていると思いますが、ここは死後の世界なのです」

「そうなのか」

「あれ、意外と冷静ですね。この話を聞いた方は意味がわからず、質問攻めをしてくるのがほとんどなのに。まぁ、状況が把握できているのなら助かります。それでは、まずはあの列に並んでください。説明はそれからです」

「それはいいが、あんたは誰なんだ。知らない人について行くことは良くないだろう」

「私としたことが、申し遅れました。私はあなた方の世界でいう、天使という存在です。ただ、私たちの姿は人によって変わるようなので、本来の姿は分かりません」

なるほど、だから彼女の姿は私の天使像にそっくりなわけだ。

「そうか、それで、名前は」

「残念ながら、私たちは生まれてきた順番しか教えられていないので、わかりません。番号でしたら、911ですが、あなたには関係のないことですね」

「いい数字だよ」

「そうですか、まぁ、とりあえず向かいましょう」

僕たちはあの長蛇の列に向かって進み始めた。ただ、どういう原理なのだろう、彼女は背中の小さな羽をゆっくり動かしながら、前に進んでいる。天使には質量がないのだろうか、それともストロボ現象でも起きてるのだろうか。


どれだけ歩いたのかわからないが列の最後尾に着いた。ただ、これだけ歩いたのにも関わらず、疲れを一切感じない。本当に自分は死んでしまったと実感させられる。

「さて、説明をしましょう。この列はあなたの来世を決めるための面談会場へつながる列です」

「来世を決める面談?どういうことだ」

「やっと、困惑しましたね。あなたは、輪廻転生という言葉を知っていますか。死んでもまた別の生物となって生まれ変わることです。そして、ここであなたが次に生まれ変わる生物を決めてもらいます」

「なんとなくは分かったが、具体的に何をすればいいんだ」

「簡単なことです。あなたは、今から面談役の天使と前世でやったことについて聞き、来世は何になるべきかを話し合ってもらいます。ただ、それでは前世の行いに対して無理やり理由をつけ、善行だと言い張る輩もいます。なので、あなたも感じていると思いますが、ここに来る途中で前世の記憶を全て消しています」

「そうなのか。じゃあ、たまにニュースで紹介されている前世の記憶を持っている少年っていうのはどういうことなんだ。紹介されていた人は、前世にものすごい善行をしたから、特権として前世の記憶を持っているのか」

「確かに、来世でも前世の記憶を持ち越す方もいますね。ただ、あれは意図してやったものではなく、たまに記憶が消せていない方もいらっしゃるのです。原因が分かれば、対策ができるのですが、、、さぁ、面談会場に着きそうです。それでは、より良い来世を目指して頑張ってください」


僕はそのまま、彼女に押されながら面接会場に入っていった。そこには、2つの椅子と先程の彼女と瓜二つの天使が待っていた。面談など、久しぶりすぎてよくわからないがいい印象を持ってもらえば、多少は優遇してくれるはずだ。

「ようこそ、いらっしゃいました。聞いているとは思いますが、ここは面談会場です。じっくり、あなたの来世について考えましょう」

「よろしくお願いします」

「さて、記憶がない中で申し訳ないのですが、あなたの来世はミジンコでほぼ決まっています。生物ピラミッドの最底辺から環境を支える仕事、地味かもしれませんが、必要不可欠な存在です。気を落とさずに頑張ってくださいね」

「ちょっと待ってください。いくらなんでも決定が早すぎます。もう少し、話し合いをしましょう。僕は前世で何をやったか知らないんです。もしかしたら、決定も変わるかもしれません」

「それもそうですね。それではまず、あなたの善行から教えましょう。それは、ポイ捨てをしなかったことだけです」

「ポイ捨てだけですか。それは、本当なんですか、絶対ほかにあるでしょう。僕も覚えていませんけど」

「いいえ、それだけです。それでは次に悪行を教えましょう。それは、殺人です」

「そうですか」

「しかも、三桁は超えています。一度はテロも起こしているようです」

「それがどうしたんですか」

「えっ、殺人ですよ、しかもテロ級の無差別殺人」

「だから、それがどうしたんですかと聞いているんです」

「どういうことですか、殺人は立派な犯罪ですよ」

「考えてみてください、人だって大量の動物や虫を無意味に殺していますよね。それと何が違うんですか。もしかして、あなたは天使という存在でありながら、命に優劣をつけているのですか、生命に対する侮辱を感じます」

「いや、そういうわけでは、私はマニュアル通りに、、」

「何が違うんですか、結局は命に優劣つけていることには変わりありません」

天使が困った顔をして、手元に持っている本を読み返している。マニュアルなのだろうか、それとも僕の前世の行いを記録しているものだろうか、少しの沈黙の後に天使が話し始めた。

「確かに、あなたの言うことは正しいかもしれません。ただ、あなたの悪行は、他にもあります。それは放火です。これは、人の住処を奪うのと同時に環境破壊もしています」

「またそんなことですか」

「またってどういうことですか」

「どんな人だって、蟻の巣や蜘蛛の巣を壊したことくらいあるでしょう。それと、人の住処を壊すことなんてほぼ同義です。罪には変わりありませんが、皆がやっていることと同じです。そして、人間の歴史は環境破壊で成り立っていると言っても過言ではありません。産業革命による大気汚染や戦争による生態系の破壊など、昔の人類は数え切れなほどの罪を犯しています。これは、人類全員で償う必要があることです。僕のやったことなんて、それと比べれば些細なことです」

僕の反論を受けると天使は、困った顔を浮かべ、席を外した。しばらくして天使が帰ってきた。

「あなたの意見を受けて、改めて、神様と話し合ってきました」

「それで、僕の来世はどうなりました」

「あなたの来世は、ミジンコに決定いたしました」

「どういうことですか、それでは何も変わっていません。今までの面談は全て無駄だったのですか」

「いいえ、決して無駄ではありません。なぜなら、これからは人間に対する処罰を重くすることになりました」

僕はそれを聞くと何も言い返さず、面談会場を後にした。


ついに成功した、人類滅亡計画。生前では大量殺人までには至ったが、その後に警察に捕まってしまい、死刑となった。だが、どうしても諦めきれなかった僕は、最後に核爆弾を仕掛けておいたが、死後の世界の様子を見るに、滅亡とまではいかなかっただろう。しかし、こんなところで最後のチャンスが訪れるなど思わなかった。前世の記憶はなぜか残っているが、これは僕の怨念が地球に残っていて、それがバックアップとなったからなのだろうか。まぁ、今更そんなことはどうでもいい、これで地球からは人類がいなくなり、地球は徐々に本来の姿を取り戻すだろう。これからは、人類で生物ピラミッドの最底辺となり、地球を支え続けよう。


数年後

「それでは、次のニュースです。あの悲惨なテロ事件と同時に発生した謎のウイルス。このウイルスによって、生殖器が機能しなくなり、人類は減り続けています。これに対し、専門家は・・・」

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