第12話 メッセージ

 俺は病院から出ると祠に向かった。アパートに帰ることも考えたが、鍵がかかっていたことを思い出して行かなかったのだ。


 スマホと充電器を入れたビニール袋を口にくわえているので、表通りを行くときは素早く走り、できるだけ路地裏の目だたない場所を選んで歩いた。それでも、道を行く何人かの人間には見られたはずだ。


 俺は、できるだけ目立たないように端っこを歩き、そして、やっと大銀杏の下までたどり着いた。周りをキョロ、キョロと見回し、誰もいないことを確認すると、祠へ入る。


「ふう……」

 スマホを引っ張り出し、祠の中に座ると、俺はやっと落ち着いた気分になった。


 アプリを開いて未読のメッセージを読む。事故の日、由里子から届いたものが最初だった。


『スカル・バンディット二周年おめでとう。今日は遅くなるね。楽しんで。でも、危ないことはしないでね。じゃあ、また』

 と、あった。この後、事故に遭っている。俺は目に滲んだ涙を前足で拭った。


 続けて、浩二のメッセージを開く。これも、事故の日に届いたものだった。

『竜一くんどこにいる? チームのみんな結成二周年を祝おうって、とっくに集まってるよ』

 その後、時間を置いてメッセージがいくつもあった。


『なんか、事故を見たって奴から連絡が入ったんだけど、竜一くん、嘘だよな? 早く、連絡してくれ』

 俺はため息を吐いた。続けて、他のメンバーからも入っていた。


『おい竜一! 返事しろ。みんな心配してるぞ』

『嘘だろ? 早く連絡してくれよ!』

『大丈夫なのか? 返事もできないのか?』


 事故のことを知ったメンバーからのメッセージだった。

 そして、事故の三日後、もう一つ、浩二からのメッセージがあった。


『ブラック・マンバの奴ら、動きがきな臭い。すぐにでも抗争が始まっちまうかもしれない。竜一くん、早く起きてくれ! じゃないと、俺、もうだめになっちまいそうだ』

 浩二の悲鳴のようなメッセージだった。


 病院で背中に邪霊が貼り付いているのを見たばかりだ。邪霊は、浩二の心が弱くなっているのにつけ込むんじゃないか、そう思うと焦る気持ちが募った。


 俺はため息をついて、メッセージアプリを閉じた。

 やはり、邪霊を放っておくわけにはいかない。奴らが生まれる巣とやらを徹底的に叩かなくては――


「おい、虎徹!」

 いてもたってもいられなくなって、俺は虎徹に呼びかけた。だが、全く反応はない。俺の時と同じで、寝てるような感じなのか……。


 頭を振ると、スマホのニュースアプリを開いたが、途中から内容が全く頭に入らなくなった。頭の中は邪霊のことで一杯だった。


 浩二だけじゃ無い。幸の背中にも憑こうとしやがったのだ。

 この街の邪霊はどれくらい、いるのか?


 このままだと、また幸が狙われるのでは無いか?

 由里子や母さんは大丈夫なのか?


 俺はため息をつきながらスマホを傍らにやった。

 小さく丸まり目をつぶる。

 ――と、スマホが鳴った。待ち受けの画面に、メッセージが表示される。


『竜一くん、すまない。おれ普通じゃない。目が覚めて、このメッセージを見ても何のことかわかんないかもしれないけど、俺、チームのために頑張るから、許してくれ』

 浩二からのメッセージだった。


「ふっ」

 俺は笑って、スマホの電源を落とした。

 浩二。邪霊が憑いてるっていうのに、お前は大した奴だぜ――


 ざ、ざ、ざあっ……

 銀杏の葉が、風に揺すられる音が優しく響いた。

 俺は子守唄のようなその音を聞きながら目を瞑った。

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