自動車恐習所

村田鉄則

一 細い道出(いで)し車は暴走車

 それは突然のできごとであつた。

 デパート近くの大きな道路を自動車を走らせ渡つてゐる私の左前方から何かが飛び出してきたのである。私は慌てて、大きく、強く、できるだけ早く、ブレーキを踏んだ。そんな私の目の前に現れしものは、暴れ車の後方部であつた。細い道から出でし、かつ他府県ナンバーがお尻に付きし、それは急ブレーキを踏んで心臓の拍動を高まらせてゐる私のことなど気にせぬ様子で、全速力で私の目の前を走り去つていつた。私はその様子を数秒の間、ただ茫然と眺めていた。

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