喧噪
正岡直治
第1話
どのように話せばいいのか、電車のガラスで薄暗く、少し気味悪く思えるくらいブルー掛った青空をぼんやりと見つめながら、考えていた。自分が招いた事とは言え、相手にも落ち度はあるような気がするのだが、いざ上司の前で威圧的に責められると自分一人の責任だったと言わざるを得ない気持ちになってしまう。丁寧な口調ではあるが、じわりじわりと真綿で首を絞められるような感じに気が滅入る。
会計処理の書類が回ってきたときに、私が添付書類の確認をしっかりしていなかったのが確かにいけなかったのだが、そんなでたらめな書類を作成した方もそしてそれを受理した上司も上手に逃げて、さも私に全ての責任があるかのような路線が引かれてしまった。
もつれそうな頭の中で
「宮城に帰りたいな・・・。」
沈み込むような気分で誰にも聞かれない声でつぶやいた。
大学から東京に出て、そのまま東京で就職して7年が過ぎていた。私が生まれたのは仙台から更に北上した岩手県との県境に近いK市だ。私が幼い頃は○△町だったのが何でも当時の政府が打ち出した政策によって全国の至る所で起こった「平成の大合併」とやらで「市」になったのだった。だから、今の40代以上の人にとっては旧町名や旧市名の方が未だにしっくりくるらしい。
新宿駅に到着した。以前は東洋一乗降客の多い駅と言われていたらしい。私の職場はここから更に山手線に乗り換えて恵比寿まで行く。そこからは徒歩で数分だ。しかし今日は一段とその距離が遠く、重く感じる。目の前の風景もほとんど頭に入ってこない。
高校生の頃修学旅行で東京に行った。その時の東京に対するイメージと今ではかなり違ってしまった。修学旅行で友達と渋谷とか原宿とか巡っていたときには、沢山の店があって、地元では、まず見かけることのないブランド品に目を奪われた。その時からだ。東京の大学に進学すると決めたのは。
修学旅行から帰った数日も経たないうちに親に塾に行きたい。目指したい大学があるという話をした。それからは、無我夢中で勉強をがんばった。私の通っている高校はそこまでの進学校ではなかったので、ほぼ塾での勉強か独学で受験勉強をがんばってきたのだ。でも、東京の大学に行きたいという希望は将来何になりたいかという希望までには至らなかった。兎に角、東京の大学に進学をしたかった。学部や学科などにはそれほどこだわりはなかった。
2年後にキラキラしたビルの谷間を颯爽と歩いている自分を想像しながら・・・
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