主催者特別賞 結果発表・講評

 続きまして、主催者特別賞の発表・講評を行います。


「匿名系イベントにおける得票機会の不均衡の是正」については、以下4作で改善案の提案を頂きました。

(No.004は主催者自身の作品のため割愛)


・【No.001★】匿名企画で優勝しなければ、お前をパパにしてやる。/まさかミケ猫

・【No.002★】奇行種の生体レポ―ト/とーふ

・【No.005★】行方不明となった匿名企画主催者が残したと思われるレポート/筋肉痛

・【No.012★】本当はイタノーベル文学平和賞が欲しかった一参加者のちょっとした考察/ゆげ



 順に講評させて頂きます。


・【No.001★】匿名企画で優勝しなければ、お前をパパにしてやる。/まさかミケ猫

 本作では、「応援による無制限投票に代わり、全体の作品数に応じて1~数位までの制限投票枠を定め、Googleフォームで各自投票してもらう」という提案を頂きました。

 東雲……もとい南雲皋氏の企画で現に行われている投票方式であり、公平性に関しては既に実証済です。元より、全作読了を前提とした投票方式は以前から他企画でも試みられており、少なくとも掲載順による不公平への対処としては一つの正解といえます。

 しかしながら、『主催者のひとりごと』(https://kakuyomu.jp/works/16818093084342917618/episodes/16818093084342982751)で既に述べた通り、これは主催者への全面的な信頼に依拠した集計法であり、主催者が不正を行っていないことを証明するすべがありません。作中の台詞にあるように、メールアドレス付きの投票とすれば、主催者側は投票者の不正がないことをある程度確信できますが、肝心の主催者が集計結果を粉飾していないかは誰にも判断できないのです。

 他の方ならいざ知らず、板野のような胡散臭い輩の主催イベントにおいては、投票の透明性の担保は絶対条件と考えています。そうなると、1. 投票者に固有の番号を伝え、投票者名を隠して番号と投票内容を公開するなどの方法で、投票の匿名性を保ったまま主催者の不正がないことを証明するか、2. 最初から公開投票とするか、の二択が考えられますが、1は「そこまでして……」という感じであり、2は誰がどの作品に投票した・しないでイヤな気持ちになる方が必ず出るので採用は躊躇われます。

 また、板野の企画では、投票のリアルタイムな可視化も重要な盛り上げ要素と考えています。その点、全作読了後に制限投票を行う形式では、全体の票の動きや上位作が参加者に可視化されず、盛り上がりが削がれることが懸念されます。主催者が途中経過を随時公表するとしても、投票自体をスケジュール後半まで行わない方が多いと思われるため、あまり意味がありません。

 加えて、制限投票方式においては、得点0の作品が出ることも珍しくなく、当該作者が感じる寂しさは想像に難くありません。全ての参加者に楽しんで頂くことをモットーとする板野の企画では、可能な限り投票は広範囲に分散させたいため、やはり無制限投票方式が最適と考えます。

 このように、板野の方針とはマッチしづらい提案ではありましたが、作中にある「ニッチな作品の書き手にこそ有利な投票方法になる」という指摘は面白く、制限投票と無制限投票の差異についての興味深い示唆を含むものでした。特に今回、南雲氏の企画を経由して初めて板野の企画に触れた方も多く、本作は皆様にとっても両方式について改めて思案を巡らす切っ掛けとなったのではないでしょうか。

 なお、匿名投票や制限投票とは異なるものの、南雲氏の方式から一部着想を得て、今回より金・銀・銅賞推薦の仕組みを取り入れています。その成果については後ほど触れますが、概ね良好に機能しており、その意味では本作もまた示唆に富む内容だったといえます。



・【No.002★】奇行種の生体レポ―ト/とーふ

 本作では、「応募作を数作ずつに区切り、それらの作品の感想・宣伝を重点的に行う日を設ける」という提案を頂きました。

 得点機会の不均衡の解消に直接寄与するかは疑問ですが、イベントの盛り上げ案としては極めて斬新かつ秀逸であり、今回の投票期間中に早速「重点感想デー」として試験運用させて頂きました。それにあたり、PV格差へのせめてもの対策を兼ねて、末尾の作品から逆順に感想デーの対象とするという工夫を加えたのも皆様ご承知の通りです。

 作中では「1週間ごとに」とあるところ、期間の短さから各1日でしか実践できませんでしたが、現に日々複数の方が対象作品の感想ポストを積極的に行って下さり、ある方からは「その日に読むべき作品が決まっていることで軽い気持ちで取り組める」という旨の感想も頂きました。今回は企画自体がコンパクトな規模であるため、感想をポストされる方も数名にとどまりましたが、より大規模なイベントで同様の施策を行えば、参加者間の交流による相乗効果も相まって爆発的な効果が得られるのではないかと見ています。

 同じく作中にあった「感想会」については、日数や企画規模の問題から試験実施は見送りましたが、これも大変良い案であると思います。各個人が感想をポストするのみならず、「皆で」語り合う感想会という形は理想的であり、今後の導入を検討したいところです。



・【No.005★】行方不明となった匿名企画主催者が残したと思われるレポート/筋肉痛

 本作では、1. 「作品の掲載順を定期的に並べ替える」、2. 「投票に代わり、各作品ごとの採点評価を専用フォームで募る」、3. 「専用サイトで作品をランダム表示する」などの提案を頂きました。

 まず1については、先述の『主催者のひとりごと』でも述べたように、かつて他の方の企画で行われたことがあるのですが、作中で指摘されている通り主催者の手間と読者の混乱というマイナス面が大きく、工数に見合うメリットは得られないとの結論に至っています。というかぶっちゃけカクヨムのエピソード並べ替え機能の仕様がダメダメダメダメすぎて到底無理です。どんな仕様か気になる方はぜひ一度ご自身で試してみてください。「何をどう考えたら一つ一つカチカチカチカチこんな仕様にするんだ送ってくとかヴァカじゃねーの?」と首を傾げること請け合いです。以前実践した方は毎日の並べ替え作業に1時間掛かっていたそうです。

 2については、投票に代えて全作品の採点というのは大変良い案だと思います。作中の例のように、「テーマへの合致度」「ストーリーの魅力」「個人的な推し度」など複数の評価基準を設ければ、項目ごとの順位も出せて面白くなるでしょう。検討の価値は大いにありますが、あとは上で述べたように透明性の担保が問題となります。ここまで投票項目を詳細に設けるなら、先に述べた「投票者に固有の番号を伝え、投票者名を隠して番号と投票内容を公開するなどの方法」を活用してでも実施する価値はあるかもしれません。

 3は技術的には可能ですが、カクヨム外での開催は作者・投票者ともに参加のハードルが高くなる点が懸念事項です。一方、かつて開催した「超ベニヤ杯」(特設ブログで開催、入賞者に提携イラストレーターによるキャライラストを贈呈)や「匿名超掌編コンテスト」(旧Twitterで開催、入賞者にAmazonギフト券を贈呈)のように、カクヨム外での開催なら自由に賞品・賞金を設定できる点は大きなメリットでもあり、企画の方向性によっては検討の余地はあります。参加作者に蜴溽ィソ料の名目で一律迴セ繝翫マをばら撒くことで諢壽ー民どもを釣4かつての私にとって神といえば玲5螟「繧定ヲ九◆縺



・【No.012★】本当はイタノーベル文学平和賞が欲しかった一参加者のちょっとした考察/ゆげ

 本作では、「作品の並びの冒頭にピックアップコーナーを設け、PV等の基準に応じてピックアップ作品を配置する」という提案を頂きました。

 これも大いに検討の余地がある案ですが、上述の通りエピソード自体の並び替えは現実的ではないため、実践するならピックアップ用の記事内に当該作品へのリンクを貼る形になるでしょうか。

 近い発想として、新匿名コン「四季の宴」では、テーマの切り替わりに際して作品を一時的に非公開(投票対象外)とする中、PV・得点が十分に伸びていない作品は継続公開とし引き続き投票を募るという施策を行ったことがありました。しかし、得点の不均衡への改善効果は特に見られず、少なくとも当該イベントの規模においてはそうした施策は焼け石に水であるとの結論に至りました(50名、100名と投票者がいれば、また違った結果になったかもしれませんが)。

 とはいえ、評価機会に恵まれていない作品に光を当てるというコンセプトは有望なものであり、同時に主催者が常に念頭に置かなければならない課題だとも思っています。その意味で本作も重要な示唆を含む内容でした。



 以上、4作品それぞれに興味深い提案を頂戴致しました。匿名コンの積年の課題である不均衡の改善のために、皆様真剣に知恵を出して下さり、大変感謝しております。

 その中で今回は、PV格差による不均衡の是正に直接寄与するかは分からないものの、イベントの盛り上げや各作品の評価機会の確保に繋がる名案を出して下さった、『奇行種の生体レポ―ト』を主催者特別賞とし、作者のとーふ氏にはイタノーベル文学平和賞を授与致します。おめでとうございます&ありがとうございました!

 同作のご提案から生まれた「重点感想デー」のコンセプトは、今後の企画でも踏襲しつつ、様々な形に発展させていきたく考えています。



 なお、肝心の「得票機会の不均衡の是正」に関しては、今回より導入した金・銀・銅賞推薦の仕組みが今のところ健全に機能しており、一定の改善成果が見られたといえます。この推薦システムは先述のように南雲氏の企画の投票形式を一部参考にしたものであり、その肝は「序盤掲載の作品に少しばかり多めに応援やコメントが入ろうとも、賞推薦の得点比重が遥かに大きいため容易に差を覆せる」という点にあります。

 今回の結果を見ると、PVや応援数は依然として序盤への偏りが見られるものの、各賞推薦を反映した作品順位は掲載順と関わりなく分布しており、少なくとも今回は純粋に作品内容への評価による公平な競争が成立していたと結論していいでしょう。

 ただし、今回は作品数・投票者数ともに少なく、全員が全作を無理なく読了できる企画規模だったことがメリットに働いた可能性は無視できません。より大規模な企画においてもこの推薦システムが健全に機能するかは未知数であり(例えば、推薦システムを把握した読者が序盤の作品に片っ端から金賞推薦を入れ、しかし結局途中で読むのをやめてしまう――というケースが今後生じることは十分に考えられます)、継続的な検証が必要です。

 しかし、板野の企画方針である「投票の透明性の担保」「票の動きのリアルタイムな可視化」を維持しつつ、積年の課題であった不公平性の打破に一筋の光明をもたらすこのシステムの導入は、匿名コンの歴史における一つのブレイクスルーとなるかもしれません。企画を通じて発想の元を下さった南雲皋氏にはこの場を借りて感謝を申し上げます。



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 お祭りに加わって下さった全ての皆様、本当にありがとうございました。そしてお疲れ様でした!


 次のページでは、作者名から応募作を一覧できるリストを掲載しております。ぜひ、気に入った作品の作者さんのページを訪れてみて下さいませ。


 また、歴代匿名コンの情報は「匿名短編コンテスト@wiki」に集約しております。こちらもぜひご覧頂けますと幸いです。


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