【No.015】収穫祭のウラの祭り【残酷描写あり/ホラー要素あり】

 え、ああ、祭りかい?

 じつは今年は中止になったんだよ。なんだ、坊ちゃん、楽しみにしていたのかい? そいつはすまなかったねぇ。

 俺か、俺はそこの神社の宮司をしている。まあ、宮司っていっても、こんな寂れた町のはずれにある神社だからたいしたことはしてないがね。それこそ祭りの時期くらいかね、宮司らしいことをするのは。


 なんで中止になったのかって?


 そうだなあ、坊ちゃん、怖い話は好きかい? そうそう、怪談とか都市伝説とか。

 そういうたぐいだとおもって、暇つぶしに聴いてくれたらいい。


 祭りに参加した町のひとたちから、どうも妙な話ばかりが寄せられているんだよ。


 ある子どもは祭りのなかで親とはぐれちまって、気づいたら盆踊りがはじまってたとか。その盆踊りのお囃子が妙に暗くて、こう、延びたテープみたいにぐにゃぐにゃと……え、なに、坊ちゃん、テープって知らないのかい? 

 とにかく変な歌だったそうだ、こう、間延びした御経みたいな。

 いや、御経に失礼か。なんかこう禍々しい歌を表現するときに御経みたいなってたとえが結構つかわれるが、あれって罰当たりな話だよな。

 そんでな、祭囃子に参加しているやつらはそろって、動物のお面をつけてた。熊とか狐とか狼とか。

 しばらくしたら、

「踊っていないやつがいる」

 って声があがって、ざわつきだしてな、全員がいっせいに子どもを振りかえった。お面の眼穴から覗く眼は暗がりのなかでらんらんと燃えるみたいに光ってたそうだ。子どもがいっきに怖くなって逃げだして――逃げて逃げて、親のところに帰ってこられた。

 でも、変なんだよ。

 うちの祭りは秋の収穫祭で、十月に開催するだろ? だから盆踊り、やらないんだよな。

 その子どもがみた盆踊りってなんだったんだろうな?

 

 こんな話もある。

 ある恋人カップルが屋台でなんか食べようって話になってあれこれみてまわっていると妙にうまそうなにおいがしてな。彼女が思わず、屋台にかけ寄っていくと目を疑うようなものがあった。

 眼球めだまが串刺しになってならんでたんだと。

 彼女は悲鳴をあげかけたが、てっきり作り物だとおもったそうだ。今時あるだろう? ハロウィンとか。ちょうど秋の祭りだしな。

 だが、振りかえってみれば、まわりの屋台にならんでいるものも異様だった。

 頭から串刺しにされたうさぎ、鹿の首。何の物かも分からない臓物が軒からつるされて風に揺れてる。

 なにより、恐ろしかったのはそれらが全部、生臭いとかじゃなくて、たまらなくうまそうなにおいを放っていたことだそうだ。ほんとに涎がとまらなくなるようなにおい。

 彼女は今度こそ悲鳴をあげて失神して――

 境内に倒れてたのを彼氏が発見した。急に彼女が屋台にむかって走りだしたところまでは一緒だったそうだが、それから見失って、彼氏は小一時間捜してたとか。

 においに惹かれて、食っちまってたら……どうなってたんだろうな?


 きわめつけは職員スタッフだよ。

 祭りが終わって、後片づけをしていたら境内の奥にある鎮守の森からえらい賑やかな声が聴こえてきたそうだ。時刻はもう零時をまわってた。酔ったやつらがまだ、騒いでるのかなとおもって声をかけようと森のなかに踏みこんでいったそうだ。

 そしたらさ、森のなかで祭りをやってたんだよ。

 神輿があがってたんだと。

 ふるぼけた神輿でな、金の装飾が施されたりとかもしてなかった。壊れそうな社をまんま担いでるようなかんじで、動かすたびに軋んでな。担いでるのは男衆なんだが、みんなお面をかぶってた。狐とか熊とかな。

 な、わかるか? 兎とか猫とか、ないんだよ。全部肉を食う動物で、しかも日本にもともといた野生動物だ。

 そうしているうちに神輿がぐるぐるぐるぐるまわりだしてな、異様な廻りかたで、職員はやばいとおもった。

 青ざめて、相手に気づかれないようにそうっと逃げかえってきたそうだよ。


 んで、そういう苦情が俺のところに寄せられて、だからって解決のしようもないから祭りは中止することになったんだよ。


 だからな、坊ちゃん。

 今晩は祭りがあったとしても、ぜったいにいっちゃダメだぞ。祭囃子が聴こえても、うまそうなにおいがしても、神輿の行列が通っても、知らない振りをして離れるんだ。

 ナニが主催しているか、わからないからな。

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