一年間メイドさんと暮らせると思ったらそこは地獄だった件

オチャメペンギン

第1話 

 4月10日。この日は何の日なのか全国民が知っている。そう国民奉仕記念日だ。


 国民奉仕記念日とは政府が国民に対して奉仕するというそのままの意味の記念日だ。もう少し詳しく説明すると仕事をしている社会人は有給がなくても理由なしで休められたり遊園地などのテーマパークは無料などの超絶優遇措置日なのである。


 しかし、そんなのは序の口。実はもっとすごい優遇措置があるのだ。


 それは、快適優遇措置サービス。通称適サー。幼い子供のいる家庭や身体的に生活に支障がある人、高齢者などの方に対して自宅に1人のメイドを呼んで住み込みという形で家事や身の回りの世話を一年間してもらえるサービスである。


 またヤクザやニートと言った社会不適合者達はこのサービスを受けたものは例外なく成功者になれるとかなんとか。


 勿論その間の光熱費や食費は諸々政府が肩を持つという何とも太っ腹な話だ。


 このサービスはとてつもなく評価が高く、そのため応募の倍率がとてつもなく高い。


 そして俺もニートという社会に溶け込むことができない病という大病の名義で応募した。そして俺は日本一難しい某有名大学よりももっと高い倍率をくぐり抜けて適サーの当選してしまった。そして今日、その適サーのサービスが開始する。


「ここが俺の家なのか」


 スマホで指定された住所に着くと目の前には豪邸が建っていた。


「……!!」


 俺はそのあまりの豪華さに絶句してしまった。凄いな。夢じゃないんだよな。


 俺はスマホの画面を確認したが、どうやら夢ではないらしい。すると豪邸の扉が開いた。そしてその中からメイド服を着た美女が出てきた。


「はじめまして、私は須郷悠様の身の回りのことを一年間お世話させていただくことになりましたソフィアと申します」


 淡々と穏やかな声でソフィアと名乗るそのメイドは金髪碧眼で顔立ちも整っていてまるで二次元の世界から飛び出してきたような人とは思えないほどの美しさだった。


 メイド服の上からでも分かる女性的な曲線美はグラドルと対等以上に渡り合えるだろう。これを一年間拝めるなんてなんてすばらしい制度なのだろうか。万歳!


「こちらこそよろしくお願いしますソフィアさん」


 ***


「きて早速なのですが今回の快適優遇措置サービスの同意署にサインをお願いします」


 そうしてソフィアさんは紙とペンを俺に差し出してきた。


「わかりました!」


 俺はその紙とペンを受け取って、いくつかの同意署にサインをした。7枚くらいだろうか結構多いなと思いながらも適当に名前を書いていく。


「サインありがとうございます。改めまして一年間よろしくお願いします須郷様」


 ソフィアさんはそう言って深々と頭を下げた。


「では始めにこれからのプログラムについて説明させていただきます」


「プログラム?」


「改めて説明しますと須郷様にはこれからの1年間を快適に過ごしていただきたく、私が1年間付きっきりで身の回りのお世話をさせていただきます。そのプログラムが快適優遇措置サービスです。そのプログラムの内容ですが、ざっくりとした内容ですが以下のようになります」


 ***適サープログラム***

 0時00分  5時00分 睡眠

 5時00分  5時30分 洗面

 5時30分  7時00分 運動

 7時00分  7時30分 朝食

 7時30分 11時00分 数学

11時00分 12時30分 国語

12時30分 13時00分 昼食

13時00分 13時30分 昼寝

13時30分 15時00分 英語

15時00分 16時30分 数学

16時30分 18時00分 国語

18時00分 19時00分 夕食

19時00分 20時00分 数学

20時00分 24時00分 運動

 ***適サープログラム***


 うゆ?なんだこれは。


 目の前の紙には人を人ではないと思っているような頭のおかしいスケジュールが書かれていた。


「このプログラムは快適優遇措置サービスによって提供されるおおよその1年間のスケジュールです。プログラム内容は適サーのシステムにより毎日変わるようになっております。初月は比較的易しめになっておりますのでご了承ください。もしご不明な点がありましたらお聞きください」


「うおぉい!問題大アリだ!なんだこのデタラメなスケジュールは!小学生でもマシな予定書くぞ!」


「何か問題がございましたでしょうか?スケジュールは適サーによって日々更新されますので問題ないかと」


「いやいや!普通に考えておかしいでしょ。こんなスケジュール一年間なんてどう考えても体壊れるわい!」


「しかし、このプログラムは須郷様の生活と適サーの義務がマッチしている唯一のシステムとなっておりまして」


 ソフィアさんは表情を変えずに淡々と語った。


「いや!でもこんなスケジュールじゃ俺体壊しちゃいますって!俺帰ります!」


 と咄嗟に立ち荷物を持って玄関の方に向かおうと走り出したその時


「帰ることはできませんよ?」


 そう言うと彼女は表情一つ変えず、さっき同意書を書いたペンをダーツの要領で俺の後頭部に直撃させ、走る俺を秒で立たせなくした。


「……なにすんだよ。めっちゃ痛いじゃねーか!暴力反対!傷害罪だコラ!」


「暴力ではありません。これは適サーにおける義務です。さっき同意書にサインしましたよね?」


 彼女はそう言い、俺のことを冷たい目で見るのであった。そしてその眼差しで俺はこの状況がなんとなく察した。


「貴方のような社会のゴミを私が一年かけて教育してあげるのですよ。光栄に思いなさい童貞ヒキニート」


「ド、童貞じゃないから……っ!今は彼女いないだけだし、経験豊富な男だから……っ!」


 小さい震え声で言い返すが、ソフィアは俺をまるで養豚場のブタを見る目をしながら、俺には全く興味無さそうに言った。


「この適サーを本当に貴方のような人が私のような高貴な役人メイドと楽しく過ごせるとお思いで?そんな都合のいい話少し考えれば小学生でもわかるでしょ。ねえ、小学生以下童貞ヒキニート」


「うるさーい!俺をなめてると痛い目見るぞ」


 俺は一人でそう叫んだ。これじゃあ小学生以下童貞ヒキニートだなと自分でも思ったが、もうどうでもよかった。しかしそんな俺にソフィアはやれやれといった顔をして言った。


「はあ……この適サーはあなたのような社会不適合者のゴミを更生するためのものなんです。この少子化の時代政府は貴方のような人にもてチャンスを与えてあげてるのですよ。それこそ国民が汗水流して一生懸命働いた血税でね。」


 彼女はそう言うと、俺の胸ぐらを掴んで耳元でこう囁いた。


「だからこれから頑張りましょうね須郷様」


「うぐぐ……」


 たくさん言いたいことはあったが彼女の有無を言わせぬオーラと不意にも可愛いと思ってしまったその美貌に俺はただ頷くしかできなかった。


 そしてこれから適サーのプログラムが始まるのだった。

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