第14話 挑戦への決意

ハルトとレニの穏やかな日常は、少しずつ新しい挑戦へと向かっていた。レニは絵と言葉を組み合わせて、自分を表現する新たな方法を見つけたことで、心が少し軽くなった気がしていた。ハルトもまた、彼女と一緒に新しい目標を見つけていくことに喜びを感じていた。


ある日、ハルトがレニに提案をした。


「レニ、この前完成した絵と文章を、どこかで発表してみたらどうかな?」


その言葉に、レニは少し驚いた。「発表って…どこかで私の絵を見せるんですか?」


「うん、たとえば小さな展示会とか、SNSとかでもいいと思うんだ。レニが一人で描いたものを、他の人にも見てもらえる場所があれば、自信にもなるんじゃないかな。」


レニは少し戸惑いながらも、考え込んだ。「でも…私の絵なんて、そんなに上手くないし、誰かに見せるのは少し怖いです。」


ハルトは優しく頷きながら言った。「それはわかるよ。俺も最初は人前で自分のことを話すのが怖かった。でも、レニの絵にはレニの思いが込められているし、それを誰かに伝えることができたら、きっと素敵なことだと思うんだ。」


その言葉に、レニは自分の不安と向き合おうとした。確かに、人に見せることは怖い。でも、ハルトがいつも彼女を応援してくれていることで、少しずつ前に進む勇気が湧いてくるのを感じた。


「…そうですね。少し怖いけど、やってみようかな…」レニはそう決心した。


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それから数日後、ハルトとレニは、地元の小さなギャラリーで開催されるアマチュアアーティストの展示会を見つけた。そこでは、誰でも自分の作品を出展でき、訪れる人々が自由に作品を鑑賞できる場所だった。


「ここなら、レニも自分の作品を出せると思うよ。どうかな?」ハルトがギャラリーの説明を見せながら言った。


レニは少し緊張しながらも頷いた。「うん、ここなら…やってみるかもしれません。怖いけど、ハルトさんがいてくれるなら、なんとか挑戦してみます。」


「俺がいるから大丈夫だよ。レニは自分のペースでやればいいんだから。」


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展示会の準備が始まった。レニは、自分が描いた風景画に添える文章を再度見直し、作品がより自分らしく伝わるように工夫を重ねた。彼女は、村で感じた穏やかさや美しさ、そしてハルトと共に過ごした時間の記憶を、丁寧に表現することを目指した。


「この絵には、あの旅のすべてが詰まっています。自然の静けさと、私自身の成長。それを感じてもらえたらいいな…」レニはハルトにそう話しながら、絵の仕上げをしていた。


「絶対に伝わるよ。レニの気持ちは、絵と文章を通じて、見る人にしっかり届くと思う。」ハルトは自信を持って彼女を励ました。


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展示会当日。レニは緊張で手が震えていた。自分の作品が人々の目に触れることが、こんなにも怖いとは思わなかった。しかし、ハルトの存在がその恐怖を少し和らげてくれた。


「レニ、大丈夫だよ。みんな、きっと君の作品を楽しんでくれる。」ハルトは微笑みながら、そっと彼女の肩を叩いた。


ギャラリーの中には、他のアーティストたちの作品が並んでいた。レニの作品もその一角に展示されており、訪れる人々が静かに作品を鑑賞していた。


レニは少し離れた場所から、自分の作品を見つめる人々の様子を観察していた。「どう思ってるんだろう…」不安が胸をよぎったが、次の瞬間、ひとりの女性が彼女の作品の前で立ち止まり、長い間その絵と言葉をじっくりと見ているのを目にした。


その女性は、しばらく絵を見つめた後、何かを感じ取ったのか、穏やかな表情で絵の前を離れていった。その様子を見たレニは、少しだけ心が軽くなった気がした。


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展示会が終わりに近づいた頃、レニはハルトに近づき、小さな笑顔を見せた。「少しだけ、怖さがなくなった気がします。自分の作品を誰かが見てくれて、何かを感じてくれたんだなって思うと、少しだけ自信が持てた気がします。」


「それは良かったよ。レニは大きな一歩を踏み出したんだよ。これからも、どんどん自分を表現していけばいい。」


レニは、ハルトの言葉に感謝しながら、これからの自分の挑戦に向けての決意を新たにした。まだ怖さは完全には消えないが、それでも自分を信じて進むことができるようになってきた。


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二人はその夜、静かにギャラリーを後にし、星が瞬く夜空の下を歩いていた。


「ハルトさん、今日は本当にありがとうございました。あなたがいてくれたから、ここまで来れたと思います。」


「こちらこそ、レニの挑戦を見て、俺ももっと頑張ろうって思ったよ。これからも、一緒にいろんなことに挑戦していこう。」


レニは、そんなハルトの言葉に頷きながら、これからの新しい未来に向けてまた一歩を踏み出す準備ができていることを感じていた。二人で共に進む道はまだ続いている。その道は、二人が手を取り合って歩んでいく限り、どこまでも広がっていくのだろう。


彼らの未来は、希望に満ちていた。

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