第44話
異変が起こったのは、野営を始め日が暮れた頃だった。
テントを張り、焚火を囲んで夕食を準備をしていると急にアッシュパンサー達が立ち上がったのだ。
「どうした!?」
5匹のアッシュパンサーが一斉に警戒を始めたことに驚くも、すぐに状況が変化する気配はない。
アッシュパンサーも飛び出していく様子はなく、警戒するだけで同じ方向を睨みつけるばかりだった。
そんな中、最初に動いたのはユナだった。
「この音は……」
何かを感じ取ったらしく懐から何かを取り出し口に当てると息を吹きかける。
テンマには何をしているのか見当もつかなかったが、コボルト達にとっては馴染みの行動であったらしく警戒心は弱まった。
見たところ笛を吹いているようにしか見えないが、テンマには何も聞こえない。
どうやら犬笛の一種らしく、コボルトにしか聞こえない類の物のようだ。
「おお……。何じゃ、南の連中じゃないか。奇遇じゃの」
しばらくして何者かが近寄ってくる物音が聞こえてきたと思ったら、仄かに明かりが見えてきた。そうして姿を現したのは、同じコボルトだった。
ジュウベエの見覚えのある者だったらしく、一気に警戒が解ける。
「ゴウの里の衆でござったか。と、ところで、おぬしらと一緒にいるのは……」
木々の合間を抜けてそろりとやってきたコボルトが姿を現すも、その場で固まってしまう。雰囲気的には今すぐにでも逃げ出したいといった感じで、打ち上る前に火の消えた花火に火が点いているのか確認でもしてるのかというくらいに腰が引けているのがありありと見えた。
何事かと思っていると、しばらく経ってからクナイがハッとしながら声を上げた。
「心配ないでござる! この魔獣はこちらにおられるテンマ殿の従魔でござるので安全でござるよ!?」
新たに現れた南部のコボルトが何に怯えているのか、ようやく思い至りテンマも遅ればせながら納得してしまった。
そりゃ、始めてみたら逃げ出さない方が不思議な状況だわな、と。
むしろ、こうやって命がけで確認しに来たのが異常なことだろう。
「ほ……本当に大丈夫なのでござるな? 笛の返事があったのでここまで来たでござるが、そんな狂暴な魔獣がいるとは思ってもいなかったでござるよ」
なるほど。ユナの笛で簡単なやりとりが行われていたようだ。
そうでなければ、わざわざ危険を冒す必要もないのは当然のこと。
「大丈夫でござるっす。ほら、こうやって抱きついても何もしてこないでござるっす」
タユタはいつものお調子者スキルを発揮してリングの首に抱きついて見せると、リングも少し嫌そうな反応をしたが、どちらかと言えば「え? 急に何?」というドン引きといった反応だったようである。
これには南部のコボルトも微妙な反応になってしまうが、決定的だったのはアッシュパンサー本人の言葉だった。
「警戒するでない。ワレラはテンマ様の命令がない限り、無用な殺生は行わぬ」
5匹のリーダー格であるサムがやれやれといった様子で宣言したのだ。
これに南部のコボルトは絶句する。
彼らにとって言葉が通じるのは同じコボルトだけという常識が崩れたどころか、その相手が魔獣だったのだから理解が追い付かないのも仕方のないことだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます