少女の行く末①

 リビングに戻ると、眞弓は静かにテレビを観て、ヒメちゃんは自分の持ち物らしい携帯ゲーム機で遊んでいた。二人とも、特に会話らしい会話はしていなかったらしい。


「用は済んだのか」


 眞弓が不機嫌そうに僕を睨みつけた。眞弓としても、僕がリコと何かコソコソしているように見える行動をしているのは気に食わないのだろう。


「うん。後で眞弓にも話すよ」

「ふん、どうだか」


 眞弓はまた視線をテレビの画面に移した。内容はわからないが、恋仲らしい男女が喧嘩をしているドラマが流れている。眞弓もたまたまテレビをつけたらやっていただけで、しっかり観ているわけではなさそうだ。ヒメちゃんの方は、ゲームをする手を休ませこそしないものの、チラチラと僕らの方を見ているのがわかった。僕らの関係が気になるのかもしれない。もしも僕がヒメちゃんの立場だったら絶対に気になる。


「明日の朝はどうするんだ、食事は」


 眞弓がテレビからは視線を逸らさずに尋ねた。


「あの、もし良ければ私、明日のご飯も作ります。迷惑でなければ」


 ヒメちゃんがゲーム機を伏せて膝に置き、そう言った。眞弓はヒメちゃんの方も見ることなく、ふんと鼻を鳴らした。


「ホントに? ありがとう、助かるよ」


 僕は慌ててヒメちゃんに返答した。


「それくらいしかできませんので」


 ヒメちゃんは恭しげにペコリと頭を下げた。ヒメちゃんの申し出は助かるが、眞弓の言っていた食事はそちらの方ではなく、僕の血を吸うことについて、だろう。流れでヒメちゃんをこの家に連れて来てしまったが、眞弓が今の状態になって、僕以外の人間が近くにいながら眠りにつくのは始めてだ。僕も本当であれば、眞弓には他の人間と長く一緒にいて欲しくはない。眞弓の吸血衝動は、また安定しているように見えるが、また彼女が自分を抑えきれなくなってしまう可能性はまだ捨てたわけではない。どれだけ平常に見えても、一度暴走してしまった衝動は、以前よりもスイッチが入りやすいのではないかとも思ってしまう。だから眠る時、僕が眞弓から離れる選択肢はない。だからと言って、リコをヒメちゃんと二人きりにできる程、僕はリコを信用していない。隙あらば、僕に対して今以上の関係を求めてくる。それはサキュバスの性質なのかもしれないし、彼女自身の性格なのかもわからないが、どちらにせよ、そんな彼女もまた、僕以外の人間と二人きりにするのはリスクだと思う。


「じゃあ、布団ここに敷くから」


 結局、選択肢は一つしかなかった。

 寝室の押し入れの中にあった布団の一式を一階のリビングまで下ろしてきて、ヒメちゃんにはそこで寝てもらう。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて」


 ヒメちゃんは変わらず律儀にお辞儀をしてお礼を言った。お風呂にはヒメちゃん、眞弓、リコ、僕の順で入って、就寝準備を済ませると、ヒメちゃんにおやすみの挨拶をして、三人で二階の寝室に向かった。

 寝室には、ベッドと布団が一つずつ残ったので、どちらかに二人で寝るか、ラブホでそうしたように狭い中で三人で寝るかだ。


「俺は一人で構わん」


 僕がどうするか悩んでいるうちに、眞弓はそう言って、自分から布団の中に入ってしまった。それはそれで困る。三人並ぶならまだしも、僕とリコの二人でベッドに寝るのには抵抗があったからだ。


「いいじゃん、一人で良いって言ってるんだから」


 リコはそう言うと、僕の腕に自信の腕を絡み付けてきた。僕はさっきのリコのことを思い出して、心臓の鼓動が速まるのを感じた。駄目だ。リコの誘惑にはこちらからは乗らない。そう決めても、体の火照りは収まりやしない。


「……いや、僕もこっちで寝る」


 僕は布団を被った眞弓の横に潜り込む。眞弓は僕の顔を見て、口元を複雑に歪めた。何か言いたいことがあるが、声には出せないといった風だった。


「……好きにしろ」


 結局、眞弓はそれだけを言葉にして、僕が寝れるだけのスペースを空けてくれた。流石に二人でいっぱいで、もう一人入れるような余地はない。


「あっそ」


 リコは布団を被っていても聞こえるような音量で溜息をつくと、これまた大きな音を立ててベッドに倒れた。

 ──リコのことは、これで良い。無碍にし過ぎるのも問題かもしれないが、彼女が僕らのもとから去るようなことがなければ、彼女を見張り続けることができるのだから。


「おやすみ」


 僕は改めてそう言って目を瞑る。眞弓は僕から背を向けて特に返事はしなかったが、僕は眞弓の背中を瞼の向こうに感じながら、ゆっくりと眠りについた。

 

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