第7話 圧倒的に負けない技

 あやをオモチャにした蠍の刺青を入れた三人の男たちの姿が脳裏に浮かぶ。


 若く、野放しの暴力。彼らは、おそらく二十代前半、もしかしたら十代だったかもしれない——。怖いもの知らずの若い男は、考えるよりも先に手がでる。有り余るエネルギーを抑えられず、それを暴力で発散する。そこには理性などない。迅は若干十八歳だったが、心は暴力とは無縁の、守り固めの中年だった。

 圧倒的な暴力の前では、金など無力だ。いくら金を持っていても、あの時のような暴力に対抗できるわけがない。


『金だけじゃダメだ!』じんは心の中で強く叫んだ。暴力に対抗するには、こちらも武力を上げるしかない。


『空手、柔道、剣道……』思い浮かべたが、どれもストリートで戦うには何か違う気がした。ふと、頭に浮かんだのは『ボクシング』。


 ボクシングの世界王者、メイウェザーの試合を思い出す。彼はほとんど無傷で試合を終わらせることが多い。無傷でいられる理由は一つ、相手のパンチを喰らわない技術があるからだ。俊敏に動き、相手の動きを予測し、パンチをかわす。これが肝だ。相手に一発も当てさせず、自分が圧倒する。それが彼の勝ち方だ。

『俊敏性……行動予測……』その二つが勝敗を分ける。ボクシングの世界では相手の動きを予測し俊敏にかわすことで勝つ。そして、それは株式トレードとも似ている。

『ボクシングと株式トレード……共通点がある……』迅は静かに呟いた。

 ボクシングでパンチを喰らわないこと、株式トレードで下落の損失を喰らわないこと、どちらも同じだ。相手の動きを予測し、俊敏に対応する。それが生き残るための技術だ。


『もしかして……』そう、これが圧倒的に負けない技術ということだ。


 この技術を身に付ければ、勝てるチャンスが生まれる。逃げることさえできれば、負けない。負けない限り、勝機は必ずやってくる。彩が生きていたなら、きっと自分よりも先にこのことに気づいていただろう。彼女は本質を見抜く力を持っていたから——もしかすると、天国から彩が教えてくれたのかもしれない、と感じた。


 迅は席を立ち、急いで机に戻ると、無意識にキーボードを叩き始めた。指が止まることなく、検索を続ける。『最強のボクサーが所属するジム……』気がつけば、画面にはジムの情報が表示されていた。

『まずは、最速の逃げ足を持ったボクサーになることだ……』


 迅は心の中で静かに決意を固めた。

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