第7章 うぃんたそと初コラボってありですか?②

「カードゲーム系VTuberの秋城でっす……って俺の自己紹介実際これしかねえんだよなあ……あ、あれやる?秋城の生放送———」


「あたしのだよぉ‼枠はあたしの‼秋城さん‼」


 俺が小ボケをかませば、しっかりツッコんでくれるうぃんたそ。そんなうぃんたその存在に心強さを感じながら俺は笑う。


「ははっ、いやほら、コメントでも様式美を求める声が多かったから。って、うぃんたそー、ごめんってー」

「むう、許さないとお話が進まないから許すよー」


 なんとなく棒読みのうぃんたそ。


「お、お話が進むんだったら許してくれないやつだな」

「あ、こいつ絶対許さないんだから」


 うぃんたそのぼそりとした低音ボイスに、ひぃ、なんてわざとらしい声を上げつつ進行を促す。


「もー、なんだか秋城さんの掌の上だよ。……じゃあ、改めて。そうだなー、どこから話そうかな」


『秋城に自白させるところから』

『自演でしたで終わりだろ』

『シんだら面白いって思ったんだろ?』

『バズり目的乙』


 一気にコメントが悪意的に傾く。だが、うぃんたそはそれを無視して、喋り始めるのだ。


「うぃんたそがね、秋城さんを知ったのはまだ見習い天使だったころなんだよね。もちろん、伝説の配信から入りました」


『子供のころにあの配信見たとか……』

『トラウマにならなかったん?』

『入り方強烈すぎてw』

『うぃんたそ俺も秋城は伝説の配信から入ったよ』 

『むしろ、伝説の配信以外見た奴おりゅ?wwww』


 うぃんたそは打ち合わせの日、降夜さんがしたように瞳を閉じて人差し指をくるくると回し始める。これは本人の癖のようなモノなのだろう。


「正直ね、すっごく怖かった!こんなにあっさり、呆気なく、人って死ぬんだ……って見習い天使ながらに絶望したよね。正直怖くて、何日間かは思い出して泣いてたよ、見習い天使だったからね」


 そりゃ子供からすれば鮮烈で鮮明な死の光景というのは記憶に強く残るだろう。人によっては強いトラウマになっても仕方ない。俺はうぃんたその語りに罪悪感のようなモノを感じながら聞き入る。


「でもね、ママエルがね」


 ママエル、うぃんたそのお母さんのことだろう。


「その人はそんな姿を見せたくて配信したんじゃないよ、配信を見るならその人が見せたかった姿を見てあげなさいって言ってくれたんだ。それでね、……秋城さんの動画も生放送も全部アーカイブ見たの」


『全部⁉』

『やると決めたらまっすぐだなあ』

『うぃんたその思い出話どーでもいい』

『↑なら帰れよw』


 コメントを一切見ない語り。だけれど、自然と心を惹きつける語り。俺はその瞬間だけは視聴者になっていた。


「そこにはね、バトマスのよさを広げようと必死に配信する秋城さんが居たんだ。パックを剥くのも、対戦をするのも、環境考察したりするのも、どれも必死で、楽しそうで、きらきらしてる秋城さんが居たの」


 うぃんたそが言葉を区切る。その声は本当に熱が入っていて、きっと当時の情景を思い浮かべているのだろう。


「これが秋城さんが本当に届けたかったことなんだって!この楽しそうな雰囲気が本当に見てほしい秋城さんの放送だったんだ‼ってうぃんたそは解釈したの……あ、お水飲むね」


 興奮、今のうぃんたその状態を表すならそんな言葉が適当だと思った。そんな状態で矢継ぎ早に話す姿に俺は自然と息を飲む。


「ぷはっ……でね、見習い天使うぃんたそは思ったんだ。秋城さんみたいに必死で、楽しくて、みんなが笑っちゃうようなVTuberになりたいって‼」


『え、これうぃんたその誕生秘話だったの?』

『うぃんたそが前々から言ってた憧れてるVって……』

『そりゃコラボするよなあ……』

『秋城が呼ばれた理由納得だわ』 

『ちゃんとうぃんたそとシナジーあったんか』


 画面の中のうぃんたそが楽し気に笑う。もうコメントはとっくに俺への悪意なんて忘れてうぃんたその語りに染まっていた。


「で、……秋城さんが復活したわけだよぉ!本当に驚きだよね、復活後一回目の配信通知が来た時あたし文字通り端末に飛びついちゃったもん‼」


『その秋城本物でござるかあ?』

『乗っ取り犯だよお……』

『逃げてうぃんたそ』

『うぃんたそが純真すぎて辛い』

『秋城シね』


 段々、コメントがどういったコメントが表示されないかを学び始めたのか、過激なコメントが目立ち始める。俺は視聴者の軽はずみな悪意に喉元にナイフを突き立てられたような気分になりながら、うぃんたその言葉を待つ。


「ということで、秋城さんには今日根掘り葉掘り聞いちゃうよ~……?逃げないでねえ、秋城さぁん」


 手をわきわきと秋城のアバターに向かって伸ばしてくるうぃんたそ。そんなうぃんたその動きに呼応しようとして……秋城のアバターがぶんぶんと横に揺れる。


「く、今の俺の体じゃうぃんたそと戯れることができない……‼」

「あー、もしかして秋城さん伝説の配信からモデルのアップデートしてないなあ?そりゃ、動かないよ~」


 なんともメタい発言。だけど、こんな発言もVTuberの醍醐味だよね。設定とメタのスレスレを行く感じ。


「く……体を求めて出直してくるぜ……」

「ちょ、ちょ、ちょ、帰んないでぇ!まだ、全然喋ってないから‼秋城さんと今日はいっぱいおしゃべりするために呼んだんだから‼」

「首から上以外に動かないV風情に優しい……‼」

「一切動かなくても、優しくするよぉ‼」


 そんな茶番劇。コメントは大きく分けて二つに分類された。


『早く秋城に説明させろ』 

『説明説明説明説明説明説明説明説明説明説明説明説明』

『うそつきが断罪される舞台はここですかあ?』 

『うぃんたそに近づくペテン師シね』

『さっさと喋って退場しろ』


 全くネ。国会議員への追及記者会見じゃあるまい。一方もう一つのコメントの流れはと言えば。


『あれ……この秋うぃん……味がするぞ?』

『これはこれであり』

『ちょろうぃん』

『秋うぃんってありですか?』

『秋うぃんmgmg』


 なにやらコンビ名の如くまとめられた秋城とうぃんたその名前。俺とうぃんたそが絡めば絡むほどそのコメントは増えていく。


「さてさて、じゃあ、本題に入っちゃおうかな?かな?」


 うぃんたそがにやにやと秋城のモデルに流し目をしてくる。


「おう。今日はそのために来たからな、どんとこい」


 本題、その言葉に心はどきり、と揺れていた。あの喫茶店で話し合ったことを思い返す。話さなくていいこと、話した方がいいこと、俺に判断を任せること———心の中でぐちゃぐちゃに溶けて俺の頭の容量を持っていく。喉が、震えそうになる。そんな緊張を紛らわすために、俺はカフェイン飲料の缶を開けるのだった。


「およ?」


『お』

『秋城ニキ学んで』

『その缶捨ててどうぞ』

『飲むなよ⁉フリじゃないからな⁉』

『また死ぬ気かwwww』


 缶を開けるカシュッ、という音をマイクが拾ったのか、そんなコメントが流れ始める。俺はそのコメントを見て、なんとなく気まずくなり、缶を机の上に置いた。


「秋城さぁ~ん、なに開けたのかなぁ?」

「あ?そりゃ俺が配信中に飲むモノなんて決まってるだろ……」

「秋城さん、伝説の配信後の秋城さんの啓蒙動画見た?見てないって言わないよねえ?」


 うぃんたそが秋城のアバターにずずいっと近寄ってきて圧をかけてくる。心なしか、降夜さんに詰め寄られてる気がするのは気のせいか。


「カフェイン飲料を悪く言う気はないけれど、飲みすぎはNG‼秋城さん、もう一回カシュッって音聞こえたら今の配信環境の画像の提出を義務付けるんだからね‼何缶飲んだかチェックするんだからね⁉」


『妥当』

『むしろ、1缶も飲まないで』

『酒飲むよりは安全では?』

『うぃんたその配信で事故起こすなよ』 

『秋城がいること自体が事故だろw』


 ぷんぷん、と起こるうぃんたそに気の抜けた返事を返す。


「もー……って言ってても進まないので、進めまーす。じゃあ、まずは秋城さんがVになった理由でも聞いちゃおうかなあ」

「Vになった理由……これぶっちゃけてもいい感じ?」

「いいよお、そういう撮れ高うぃんたそ大好き」


 OK!と顔の横に丸を作ってウィンクをするうぃんたそ。


『出会い目的?』

『まあ、ワク生の派生だった時代のVだしな』

『ワク生でJKとって食ってたってマジですか⁉』

『無職でヒマだったから』

『タカシ……やっとやること見つけたのねJ( 'ー`)し』


 架空のカーチャンまで湧き始めるコメント欄。マイクに音が入らないように、深呼吸をして、カフェイン飲料で唇を湿らす。


「俺がVを始めた理由って最初罰ゲームだったんだよね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る