底辺VTuberの俺と美少女売れっ子VTuberのてえてえはありますか?
詩乃宮
第1章 過労死からの転生はありですか?
———2018/08/03
「いけッ‼
「うわ———引くな引くな引くな引くな‼」
そんな声が部屋の中に響き渡る。そうして、俺はウェブカメラの画角を意識しつつ、デッキの上からカードを引く。パソコン画面上にはまばらではあるがコメントが流れる。
『引いたか⁉』
『怒怒怒4枚目は流石にインチキw』
『いやでもこれ、アクセル除去しなきゃこの後繋がらなくね?』
『こうなった怒怒怒は止めらんねーよなあ』
コメントの量は決して多くない。———そもそもコメントとはなんぞや?俺がいったい何をしているのか、そこから説明していこう。今俺がやっているのは配信、動画サイトにてリアルタイムに俺たちの声などが届く、いわば生放送だ。その配信の中でも最近流行ってきたVTuberという仮想のアバターを使った、現実の俺はカメラに映らないタイプの配信だ。俺———配信での名前は『秋城』。秋城はカードゲーム系VTuberだ。配信活動は主に、新弾の紹介、考察、他には対戦動画を出したり……、まあ、そんなもんだ。今日はカードショップの友人たちに頼み込んで、対戦している様子を生配信で流させてもらっている。もちろん、映るのは手元だけ。……まあ、例え手元だけでも現実のモノが映りこむ配信をVTuberがしていいのか、そこは諸説あるが、俺は配信が面白ければいい派なので、そこはスルーさせていただく。そして、そんな動画を盛り上げてくれるのがコメントだ。コメントは視聴者が打ち込んでくれるリアクション……その配信が盛り上がっているかどうかの指針だ。そんな俺の配信のコメントは……大手に比べれば雀の涙であった。まあ、仕方ない。このVTuber文化は始まったばかりであり、オタクの中でも賛否両論、ましてや男のVTuberはあまり注目を集められない。それでも、今見てくれている人がいることに感謝してこの活動をするのが見てくれている人への恩返しだろう。そんなことを考えながら、相手のライフカードを殴っていると———。
「ライフトリガー‼ドン飲み‼」
それは俺の番面に対する的確なアンサーであった。相手の行動を阻害するアクセルを除去しながら、次のパーツをかき集められるカード。対戦相手のアキ健さんが山札を捲る。今度は俺が来るな、来るな、と祈りながら相手の行動を待つ。そうして、アキ健さんが見せてきたのは————。
「ドンゴン・リスッ⁉」
それはアキ健さんの使う、ラッカ・ドラゴン
「くッ……」
「これでお前は俺のライフは割り切れても、ラストアタックまでは取れない……‼俺の勝ちだ‼秋城ッ‼」
「くそぉぉぉおおおおお‼」
『まあ、秋城ニキのデッキほぼ受けないし』
『攻めることしか考えないデッキだからなあ』
『やっぱり立ち回りは終が最強か~?』
ヤケクソ……もとい、次のターンがなんかまかり間違って渡された時のために相手のライフカードを0にしておくアタックをする。
「エンドだ……」
「んじゃあ、ターン貰うな。ドロー」
そこからは……言うまでもなかった。ドンゴン・リスからドラゴン終が降臨し、受け札のない俺のデッキはぼこぼこにされたのだった。
「くう……これがアニメなら逆転の1枚を作り出して、それがライフに入ってるんだぜ?なあ、アキ健」
「はいはい、オリカをデッキに混入させるのはやめてくださーい」
そんなゲーム終了後のふざけ合い。
『ガッチャ、いいデュエルだったぜ‼』
『まあ、あれはドン飲み踏んだから負けた試合』
『むしろ、主人公はアキ健さんなのでは?』
『確かに、あそこでドン飲みは持っている側の人間』
「お前ら~~~俺の配信なんだから俺を擁護しろよ~~~」
そんな泣き言を零しながら、俺はカシュッ、と手元の缶を開けたのだった。
『お?』
『それ何缶目でござるか~秋城殿~』
『カフェインの飲みすぎは駄目って、カーチャン言ってるよね?』
「いや、お前は俺のカーチャンじゃねえって」
俺が明けたのはカフェイン飲料の缶、何回目かの配信のころから俺が一息入れる際の合図になっている。その度に視聴者からは『そんなものに頼るな』『寝ろ』だのの意見が流れるようになってきた。
(まあ、一種のプロレスだよネ)
んくんく、とカフェイン飲料を飲む。そこから配信はさっきの戦いの振り返り———と言っても、キルまでのターンが短すぎてアレがあったら勝てたな、みたいな僕の考えた最強の動きを言い合う雑談から、2回戦目、3回戦目、と縺れていった。そうして、時間は深夜2時を回る。視聴者の数も減り、同時接続数は3人になった。俺はもう一度カフェイン飲料の缶を開け、煽る———その瞬間、ぐらり、と揺れる視界。
「お……あっ、ぐっ……⁉」
「おい、秋城?」
酷く痛み出す頭。その痛みはまるで頭の内側からトンカチでガンガンと打ち鳴らされているような。そんな痛みに誘発されるように、胃の奥からモノがせり上がっていく感覚。
「おっ、おぇえっ」
ぷしゃっ、と蹲りながら嘔吐する。
「秋城⁉おい、秋城⁉」
何が起こったか分からないだろうアキ健が戸惑いの声を上げる。そりゃそうだ、いきなり手元のカメラからフレームアウトしてえずく声が聞こえるだけなのだ。だけど、今の俺にアキ健の状況を気遣えるだけの余裕なんてなかった。頭が割れるように痛くて、痛くて仕方なくて。胃の中のものがせり上がってくる感覚が止まらなかった。そうして、必死に声を嘔吐しながら絞り出す。
「だす……だすげ、て……」
俺はそんな声を上げるのがやっとだった。
「助け……⁉け、警察か、いや、おい、秋城‼」
混乱するアキ健の声———そこで俺の意識は途切れたのだった。
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