第7話 直感

 ゲームカウント0-5・・・。


 はたから見れば、ただ初心者の一年生がNo.2の三年生にボコられているだけ。まったくもって無意味な試合だと言うだろう。


 しかしながら俺はこんな状況の中でも、どうやって1ポイントを取るかを楽しみながら考えていた。まるで無理難題のゲームのクリア方法を考えるかのように。


 (このゲームは俺からサーブってことはまだワンチャンあるな)


 この状況でどうして、どういう根拠で「ワンチャンある」という言葉が出てくるのだろう。確かにテニスの一般的なところでいうと、サーブを打つ側のほうが有利ではある。しかし、この実力差ではもはやサーブ側がどうこうという問題じゃない。


 (まず1回今までの展開を振り返ってみるか。えーと、あれ?そういえば俺がサーブ打った時、万丈先輩全部クロスコートにリターンしてきてるような、、、。まあ、とりあえずそれだけ頭に入れとこ。)


 俺はこの一点だけ頭に入れてサーブを入れることに集中した。


 「パコンッ!」


 とんだへなちょこサーブだがとりあえず入った。


 (俺のサーブが先輩のフォアサイド側に入ったってことは、俺のフォアサイドにクロスを打ってくるから、右だっ!)


 これまでの傾向を読んでとっさにクロスコートへの返球を判断した俺は先輩がボールを打つ前から右に動いた。


 (当たりっ!!)


 俺の読み通り先輩はクロスに打ってきた。判断が早かったとはいえ、強烈なリターンにやっと手を伸ばして当たるぐらいだった。


 (よしっ、返った!次はどう来る?)


 ややボールが浅く入ったので、先輩は絶対に打ってくるだろうという考えを8割持ちつつも、俺は先輩のラケットの動きを注意深く見ていた。


 (なんだあのグリップの握り方?!)


 俺は今までとは違う先輩のラケットの握り方に違和感を覚えたが、ネット付近にボールが来るような予感がした。


 (たぶんすっごく前に来る。走れば届くか!?)


 またも読み通り先輩はタイミングをずらしてネットギリギリにボールを落としてきた。


 (来たっ!死んでも追いつくんだーー!!!)


 「フガッ!」


 ヤマ勘が当たった俺はネットに飛び込む勢いでボールを拾った。


 「あいつ、追いついたぞ!」


 どこからかそんな声が聞こえてきた。


 俺が死力を尽くして拾ったボールは運よく前に詰めていた先輩の頭上を越した。


 (入れぇぇぇ!!!)


 「ポトン。」


 ボールはエンドラインぎりぎりに吸い込まれた。


 「は、入った!」


 「オォーー!!」


 スタジアムから歓声が沸いた。


 「へぇ、なるほどねー。」


 万丈先輩は不敵な笑みを浮かべていた。


 (ハァ、これでやっと1ポイントかよ。しかも今のは運よくヤマ勘が全部当たったみたいなもんだ。さすがにこれを続けるのは酷だぞ。ハァ、、ハァ、、。)


 すでに中々の体力を使った俺の息は切れていた。


 (次もクロス打ってくるはずだ!)

 

 そう意気込んだ俺はサーブを先輩のバックサイドに打ち、左に動いた。が、先輩は思い切りストレートに打ち込んできた。


 (なにっ?!)


 すでに左に動いていた俺は予想外のショットに反応できなかった。


 「いいセンス持ってるけど、さすがにあいつも二度目は許さないよなぁ。」


 如月は1人そうつぶやいていた。

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