第6話 No.2

 状況の整理がついていない俺は、とりあえず今までの練習を思い返して、俺はチャレンジャーだと言い聞かせることで、何とか平静を装っていた。


 (ふぅ~、大丈夫だ。あれっ、先輩がサーブってことは俺はリターン、、、。

やべぇ(汗)、リターンってどうすればいいんだぁ!!!??)


 ふと気が抜けた瞬間、俺は頭が真っ白になった。しかし、そんな俺の状態など知らず、無情にも剛速球のサーブが飛んでくる。


 (はっ!!もうボール来た!あー、もう何でもいいから当たれ~!!)


 「パカッ。」


 当たった!確かに俺はボールがラケットに当たる感覚を覚えた。


 しかし次の瞬間、


 「スパーン!!」


 サーブを打った後すでに前へ詰めていた万丈先輩に、気持ち悪いくらいの華麗なボレーをあっさりと決められた。


 「よく返したが、次の動きが遅ぇぞー。なにボケェって突っ立ってっんだよ。」


 万丈先輩の言葉でようやく俺は一ポイント失ったことに気が付いた。


 (いっけねぇ、返しただけで満足してた(笑)。しっかり集中しないと。)


 「15-0な。」


 「はいっ!」


 (よし、次こそはポイントとってやる!)


 「パコンッ。」


 (なっ!?球がおそい!?)


 「パッシッ!」


 先ほどとはスピードの落差が大きすぎるサーブに、一瞬にしてタイミングを奪われたが、何とかさっきよりもまともに返した。


 「チッ!ポトンッ、、」


 まともに返したようにも見えたボールは、ネットに当たって万丈先輩のコートの手前ぎりぎりに落ちた。


 「タッタッタッ、ザザァー!!」


 (マジかよっ!それ追いつくのか?)


 異常に動き出しの早い万丈先輩は、俺が絶対に追いつけないと思っていたボールをいとも簡単に返した。


 (返されたけど、先輩は今前に詰めていて、しかも前傾姿勢だから奥ががら空き、ってことはロブを打てば抜けるはず!)


 「パコーーン。」


 俺の読み通り、スマッシュに行くには無理があると判断した万丈先輩は、一気にベースライン上まで後退した。


 (よしっ、抜けた!)


 「タァーン!!」


 一瞬抜けたように見えたが、先輩は股の間を通して鋭いショットを放ち、前へ出ていた俺の右を綺麗に抜いた。


 (嘘だろ!?そんなのありかよっ!)


 「今のは中々いいショット選択だったけど、相手は凌駕だから甘いかなぁ。」


 どこからか、如月先輩のそんな声が聞こえた。


 ネットインというこれ以上にないラッキーショットと、俺が考えた最善のショットをただ返されるどころか、股抜きでしかもパッシングで決め返された。


 (今ので甘いのか!?じゃあ、、俺はどこに打てばポイントできるんだ!?)


 そこから始まったのはすさまじい超一方的展開!!俺がサーブを打とうが、頑張ってショットを返そうが、ほとんど一撃で決められる。


 俺はこの学校のNo2を心のどこかで舐めていたんだ。


 ゲームカウント0-5。


 (あと1ゲーム取られたら負ける、、。)


 ここまで1ポイントも取れていない俺は、ただただその差を痛感しているだけだった。


 (でも、まだやれることはある!!)

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