第15神話   願い②

「あ。」


ーーお願いしま……す。ラルバ……さん!!俺もそれなりの対価………を支払います!!先程の無礼を!許していただけ…ないでしょうか!!


 俺の単調な声が口から突き抜けた。そして後悔が心の底から突き上げる。


(や、やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)


 あんな約束は最早対等な約束などではなく、不平等条約である。いくら余裕が無かったとはいえ、それに良いように誘導されてしまった。


「まさかここに来て、約束破るなんて言わないよな?」


「くそが!!そんな不平等な約束守るわけ無いだろ!!」


 ラルバに対してそんな約束を守った馬鹿な自分を戒めも含め、反抗的な態度を取りながら俺はがむしゃらに裂け目を発生させる。


「死ね!!!!!」


 小物感が溢れるセリフを吐きながら右手の平を前に突き出すと、パリパリと空間がガラスのように割れ始める。


(よし!このまま!!)


 俺はあのキメラの技のように光弾をラルバに向けようとまずは思考する。何処にそんな光弾があるかは分からないが、あのラルバと脳が繋がっているなら何処かに光弾があることが記憶として身についている筈。

 だが、


パリパ……リ…


(あれ?)


 裂け目を手の平から出そうとしていたのにその裂け目が段々と小さくなっている。


(くっ…この!!)


 そう思いながら出力を上げようとするが、裂け目は止まることを知らずに小さくなり、最終的にはなくなってしまった。


 「あれ!?何でだ!?さっきはあんなに使えたの……に……」


 馬鹿だ。俺は何でこうも大事な部分をこうも忘れるのだろうか。


「……さっきから言っているだろう。一心同体になっていると。手を動かすのも、脚を動かすのも、裂け目だって出すのに脳に『発動したい』という司令を送って使える。ならお前が思考を司る前頭葉を制御すれば良いだけだ。今さっき解説したばかりだが?」


「………っ!!」


 全てラルバの手の平の上で丸めこまめながら遊ばれている自分の弱さに怒りを覚えた。

 このどうしようもない状況をどうにか打破したいがその打破出来る要素を全て潰している抜かりなさには怒りながらも脱帽する程である。

 一つの表情の崩れないラルバが俺を遠い目で見つめる。普通ならばここまでだけでも十分に諦めがつくだろう。だがこの伊従叶夢という人間は一見似たようで、また一味違う。

 彼はここでラルバに諦めという言葉どころか対抗心という燃料を使い、ただラルバを倒すことにしか頭になくなっている。


(……どうやらこいつは一度やり返すべき相手だと認識すると、ありとあらゆる方法を使ってでもやり返そうとする意思の強さがある……もしかすると前世の頃絡んでいた人間なんかには絶対に……)



 ラルバはこの時、この人間がしてきたことへの予想を立てる。

 もし力を持とうものなら、きっと……


「…?(なんだ?急に喋らなくなったぞ?)」


 さっきまで意気揚々と喋っていたのにこうも変わるとは何かあるに違いない。相手にお見通しな脳みそで不安ながらも考える。


「…あぁ、いや何でもない。ただの勝手な妄想だ。」


「……」


 そうごまかすがこちらにとっては余計に怪しさが増すばかりである。


(こっちから相手の脳内を見ることが出来ないのが痛手すぎる…!あぁ、けどこれも読まれてんだろうけど!)


 無謀なことなのは分かりきっている詰み状況にも俺という人間はひたすらに考えを巡らせる。

 

(ラルバという人間は恐らく慎重な奴だ…!俺みたいな格下の相手にも数ミリたりとも隙を見せたりはしない徹底力を持ってる。)


(だけど裏を返せばそれほど心配性であるってこと!あくまでも推測だが予想外の出来事が起こった時に対応するのは苦手なはず…)

 

 先程の俺の身体を守ることを意識せず、マガミに見惚れて俺に危害を加えさせてしまったのが良い例だろう。

 それに今のあいつと俺が繋がっているということは、秘めている弱点だって記憶を辿ることで更に分かる可能性があってもおかしくない。 

 だが……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る