第13神話(前書き)   異変

「うーん……暇だな…」


 俺はネヴァの部屋でただ一人寂しく、小さなテーブルの前にある高級そうな椅子に座る。

 女子の部屋というものは生前には関わることなんて中々出来なかった為、好奇心がかなり高まっていた。


「にしてもすごいな…」


 そして自分が受け取った第一印象は、中々に高級間が溢れているということだった。

 まず、蝶がイラストされているお洒落な青い壁紙が貼られていた。

 昆虫にはあまり詳しく無いのでその蝶の詳細までは分からないが、黒と青の模様が入った大きめの蝶が数匹描かれている。

 そして壁には俺の生前の頃には見たこともない川の景色が描かれた絵画が飾られていて、更に部屋の奥の方へ目をやると大量の本棚が設置されている。

 そしてその中は一つの隙間なく、ぎっしりと詰まった本が置かれている。


 「いや〜………今どきの女子の部屋ってこんななのか。」


 初めて他人の女性の部屋に入ったが、こんなにも高級な物を集めているような人達ばかりなのだろうか。 

 漫画やアニメでみるような高級な骨董品や生活用品ばかりだ。


「お嬢様なんだなぁ……ん?」

 

 その中でも一際目立つ一人用の高級ソファがあった。

 他の生活用品は恐らく新品で、何処を見ても傷一つ無かったがこのソファは中々年季もあり、傷は多いというわけでは無かったが脚の部分に少々の傷が付けてあった。


(………)


少し見ると『高級』という誘惑に誘われ、思わず座ってしまった。


(うわー…ふかふかだなぁ…)

 

 まぁ新品だろうが中古品だろうがこんな高級品なんて普段生活していたら中々お目にかかることは出来ないだろう。赤毛のシートの座り心地が良く、少しでも背もたれを着くと一瞬で寝落ちしてしまいそうだ。


「壊したりでもしたら……」


 弁償代なんて何円位掛かるのだろうか。少なくとも数万以上は掛かるだろう。考えただけでも怖くなってきた。立ち歩く時は細心の注意を払いながら動こう。


「それにしてもネヴァさん達は終わったのか?全く来る気配ないな。」


 ネヴァ達のことだ。能力を使えばすぐに終わるはずなのだがそれにしては遅い気がする。何かあったのだろうか。

 …いや、あの人はリーダー的な存在だから色々と任されているのだろう。また修復した後にもまた急用が入ってしまうことなんてザラにあるはずだ。そう考えると何の変哲も無いことだ。

 

「まぁそりゃそうか。あんなにも慕られてたら、色々あるか。」


 時間の掛かることも仕方の無いことだと考えて納得し、心の奥底に鎮めた。


「…………」


 そうして再び沈黙が流れる。結局また振り出しに戻ってしまった。何か暇つぶしになるものを見つけようとするが、周りを見渡しても高級品ばかりにしか目に映らない。


(あー、暇だ!!)


 俺は暇で限界になり、天井を見上げた。天井には大きな照明が吊るされていて、オレンジ色の光が眠気を誘う。


「……なんか眠くなってきたな………」


 ふかふかのソファも相まって、余計に眠たくなってしまう。ついには少しずつ欠伸が出始めた。思えば俺が死んでどのくらい時間が経っただろうか。

 まずい……このままじゃ寝落ちしてしまう。なんとか目を開けようとするが、人間の三代欲求の睡眠欲には勝てずに、瞼が段々と落ちていく。


「あー…眠い……。」


 目を閉じて、寝るモードに入った。そしてゆっくりと呼吸をしながら意識を落ち着かせる。そのまま俺は夢の世界へ向けて歩みだしていった。


ーーーー


「あれ?ここは………」


 俺はいつの間にかまたあの霧に囲われている空間にいつの間にか居た。またこの夢か。どうやら結局寝落ちしてしまったようだ。それにしても一体この夢は何なのだろう。相変わらず気味が悪い。


「またこの夢か……ハァ」


「お前―――!!」


「だって―――!!」


 すると男女の声が聞こえてくる。あの人達だ。


「今日も活発ですなぁ」


 いつものように男女の声が聞こえてくるが、ここからでは何と言っているかは良く聞き取れなかった。そして俺は謎の不可抗力によって声のする方に足を運ばせる。

 一歩一歩と足を運ばせる。


(そろそろ聞こえてくるかな。)


「まず悪いのは私じゃ無い!!信じてよ!!」


「けど結局はお前が罪を犯したんだろ!?」


 全く、一体何をそんなにも熱くなっているのだろうか。相当なことがあったのだろう。まぁ考えても仕方ない。結局はまたあのもう一人の低音の声の男性に結局は起こされるのだろう。

 そう身構えながら歩み続ける。

 

「お前の所為で…!お前の所為で…!!俺は……まだ…まだ…あのを……!」


「知らないわよ!!あんな奴!!」


「お前正気か!?あいつは……あいつは…」


「でもあいつがそうなったのはお前が欲望に負けたからでしょ!!」


「なんだと!!?俺がーー」


 どんどんヒートアップしているが、この人達は責任転嫁しかしていない。人間の短所がただただ丸出しになっている。本当に醜い。

 

(さて、そろそろ……)


 暫く歩いた。かなり二人が喧嘩している声がより近くなってくる。もうすぐすると、あの男性の声が聞こえてくるだろう。それにしてもこの夢は前よりもよくはっきりと聞こえる。

 俺がよく見るこの夢は、場合によって二人の声がよく聞こえる時もあれば、声が途切れてしまって全く聞こえない時もある。歩く距離が長い時もあれば、短い時もある。もう一人の男性の声が中々聞こえない時だってあれば、歩いてすぐに聞こえることだってある。

 今回はまぁまぁ歩き、男女の声もはっきりと聞こえ、もう一人の男性の声が中々聞こえてこない。いつもはすぐに夢から醒めることが大半なのでこのケースは珍しい。

 そうして、男性の声が聞こえるまで身構えて一歩一歩を踏み締めて歩いていた時だった。


「嘘でしょ……?」


(は?)


 突如右方向から、二人の声でもなくもう一人の低音の声の男性の声でも無かった。どちらかと言うと、少女のような声だった。俺は即座に振り返ったが、霧によって何も見えない。そしていつの間にか男女の喧嘩をする声が聞こえなくなっていた。

 長い間この夢を見てきたが、このようなパターンは初めてである。

 予想だにしなかったことに俺は少し怖くなってしまった。


「そ、そこに誰か居るんですか?」


 しかし何を思ったのか、勇気を振り絞ってその声がした方に向けて問い掛けた。


「…………」


 応答は無かった。

 俺はその声のする方から逃げるように全力で走り出していた。必死な形相になりながら、俺は走り続ける。

 いつもとは何かが違うこの空間が怖くなってしまい、今居る場所居ても立っても居られなくなってしまった。


「はぁ…はぁ…」


 来た道を全速力で戻る。一寸先も見えない程、霧がまた濃くなっていく。俺は何かにぶつかるかもという考えは無かったことで、邪念に惑わされずにひたすらに走る事ができた。


「起きろ起きろ起きろ!起きろ!俺!起きてくれ!!」


 そうやって夢から強制的に醒めようとするが、醒める気配は無い。

 起きれないことを確信した俺はもう一人の男性の声が聞こえることを心の中で呪文のように唱えた。


「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします!」


 懇願しながら走っていても全く聞こえてこない。俺はより一層焦る。そしてまた得体の知れないものが俺の目に映る。


(またかよ…!?)


 前方を向くと人影のような黒いものが見えた。それは揺らめきながら、ピクリとも動かない。


(ここはもう行くしか無い……!!)


 それを見て俺は恐怖に陥ったが、ここで後戻りをして何かに襲われたりするよりかはましだ。

 当たって砕ける精神で俺は自分の出せる全力で走る。

 すると段々とその影がはっきりと見えてきた。俺は全力で走っていることと緊張感で心拍数が上がっている事がわかる。


(誰だ…!お前は…!)


 すると、僅かに見えた。その瞬間に


「やめろ…!!」


 という声が俺をまた静止させ、視界が真っ白に覆われる。

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