第9神話 人間②
「…………へ?」
マガミは俺とキメラ側の人に向かって両足で攻撃をしたが、その攻撃がすり抜けた。音も聞こえない。しかも辺りは暗く、視界は0に近い。
暫くすると段々と目が慣れてきて、キメラ側の人を少し視認できるようになった。それに自分の体が何故か空中で静止していて、体を動かそうにも動くことが出来ない。いや…そんなことよりも………
(あ、あれ?ちょっ………息……が……)
自分が息をすることが出来ないことに気づいてしまった。何度息を吸う素振りをしても、全く肺に酸素が供給されていないのが分かる。
(あっ……や……やばい!!このままじゃ……)
このままじゃ窒息すると思い、どうにかこの暗い空間から逃げ出そうとした瞬間に
ーー人間!!大丈夫だ!息を吸えるようになってないか?もう一度空気を吸ってみろ。
キメラの声が脳内に響く。この感じ、空間の裂け目を使って脳内に直接心の声を送っているのだろう。その声に言われるがまま、俺は行動に移す。
すー……はー……
驚くことに先程は肺の中に空気が入っていく感触すら無かったのに、そんなことが無かったように通常通りに吸えている。
「……………!!!」
薄暗くてよく分からないが、マガミが天井を見上げて口を開けている。多分叫んでいるのだろう。
何度もマガミは前足で凶暴に振り続けながら俺達に向かってくるが、一向に攻撃は当たらずにすり抜ける。
一言で表すなら、プロジェクションマッピングのような感覚だ。
ーー亜空間を他にも大量に創っておいたと言っただろ。ここが亜空間だ。にしても全く……古いタイプの人間ってのは……酸素を一々お前の肺に送り込まないと死んじまうってのはめんどくせえよ。
(一体どういうことだ?何で俺は空中で静止してるんだ?)
ーーん?おい人間?
(どうなってんだ?マガミの攻撃は効かないし、暗いし、気味悪い。これが亜空間なのか?)
ーーいや、だからそうだと言っているのだが……
(マガミはこの空間には入っているのか?いないのか?)
ーーおい、聞いてるのか人げ…
(あぁまた脳内処理が追いつかねえ……どういう事だよ……。)
ーー……どうなってるのか聞きたいのはお前の耳の方なんだが?無視すんな。
ボソッとした囁きが脳内で響く。そしてキメラ側の人の方に目をやると吃驚した様子だった。
吃驚してるのはこっちだよ。
聞こえていないとでも思っているのか?流石に頭の中で喋られたら嫌でも聞こえる。
ーーい、いやなんで!?おま、お前自分にマイナスの部分だけ……!?なんで他は聞こえてな……
また脳内に話しかけてくる。取り敢えず、そんなことよりも説明すべきものがあるだろ。
ーー…………ちっ
(聞こえてますからね?良いからとにかく話せ。)
ーーあぁ!分かった!分かったよ。もう一から説明する!これが亜空間っていう場所だ。この空間内は通常の物理法則が通用しない。
(物理法則?っていうと作用・反作用の法則や慣性の法則みたいなやつですか?)
ーーそうだ。波、力、電磁気、熱、流体、ミクロ、光。お前の生きていた世界で提唱されていたありとあらゆる物理学の概念…これら全てが適用されない。お前が今こうして空中に浮いているのは、重力という概念が無いからだ。」
物理学が通用しない?ということは…
(…あぁ、じゃあこうしてテレパシーなのも音が振動しないからこうやってテレパシーで会話してるのか。酸素が吸えないのは空気自体が動く力がなくなってしまってるってことで合ってます?)
そう俺なりの考察をキメラに返す。
(……丁度いい、確かめてみるか。)
キメラ側の人間はあることを確かめる為に、叶夢にカマをかけようとする。
勿論、叶夢はこのキメラの動向に全く気づくことすらなかった。
ーー…おぉ、なかなか頭が良いな。すごいじゃないか。
キメラは何やら俺の頭の良さを急に褒め始めた。
(ま、まぁこういう物理学とか僕好きでしたから。)
そうやって素直に褒めるタイプだとは思わず、少し言葉に詰まりながらも返答する。
俺をおちょくるような行動をしているが、根は良い奴なのだろうか?
するとまたキメラ側の人間から質問が来る。
ーー……お前ってクラスの中でも勉強は得意だったのか?
すると今度は俺のことを掘り下げるような発言をする。
この戦闘時にも関わらず根掘り葉掘り過去のことを聞いてくるキメラ側の人間に違和感を覚える。
それでも一応聞かれたことに関しては返そうと自分の僅かな善意が突き動かす。
(……まぁ、はい。)
ーーへぇ……お前ってもしかしてクラスの人から頼りにされてたタイプか?羨ましいな。
まだキメラ側の人間は掘り下げるのを止めなかった。
そしてこれがトリガーになってしまい、俺の脳内に大量の嫌な思い出は浮かび上がっていく。
憎たらしいあいつらが。
(クラス………)
ーー伊織!酒持って来てやったぞ〜神様の為にも皆んなでお前に酒をかけて、清めてやろうと思ってさ?ていうことで行くぞ〜〜!!
悪気の無い同級生どもが俺に日本酒だのビールだのをかける顔が浮かぶ。まるで俺のことをおもちゃのように使って遊ぶ無邪気な奴ら。
赤ちゃんみたいでかわいいな。あいつらは今頃何してるかな。
不幸な人生を送ってることを祈るばかりだ。
あー。本当にムカつく。
その合間にも尋常では無い量の殺意がどんどんと湧き出る。
(殺気が上がる速度が尋常じゃ無い……こいつの過去にはどれほどの物があるんだ!?ここまでなのは……)
ーー人間!?人間!?おい!
キメラ側の人間が声を掛けても全く反応はない。
過去の悪い記憶が根強く記憶に刻み込まれている所為で脳がまともに機能していない。
他の事が何もかも考えられなくなり、脳が集中力を高め続けている為かキメラ側の人間の言葉が阻害される。
(このままじゃまたマガミが飲み込まれる!そろそろか…!)
意を決してあの3人に呼び掛けることにした。
ーーネヴァ!マサル!ラヴァナ!誰でも良いから来てくれ!叶夢を遠くに連れて行ってくれ。確認は出来た!
心中で大声で叫ぶとともに、亜空間内に裂け目が発生した。
ーー来たぞ!ラルバ!
ネヴァが裂け目から出てきて人間を抱えた。
ーーへっ?何でネヴァさんが…
人間は突然抱えられたことにより、目が冷めたようだ。
ーーとにかく!話は後だ!付いて来てくれ!
何処かへ裂け目に包み込まれて、消えていった。その瞬間にマガミが二人に矛先を向け、裂け目を使おうとしていた。
ーー待て!ドラァッ!!!
「グギャア!!!」
俺達が居た亜空間を解除し、奴の背中に向けて勢いよく飛び膝蹴りが炸裂した。亜空間を解除したため、マガミの腑抜けた声が聞こえた。
「〜〜!やっぱりこの空間がいいな。のびのび出来る。」
そう言って腕を大きく伸ばす。
「グラァァァァァァァァッッ!!!」
こいつとは久々の組み手だ。長い事そういややってなかったな。
自然と気分が高揚していき、少しの興奮による汗が出る。そして勝負の開始の宣言をするように、
「マガミ!これで思う存分出来るな!ちょっと俺のくうかん能力最後の組み手に付き合ってくれよ!〆は化け物との手合わせに限る!!」
「グラァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
闘いの火蓋が二人の化け物によって切られた。
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