第9神話(前書き)   人間

ネヴァside


 一方ネヴァ達は渓谷の底に着き、マサルを救出しようとしていた。


「ネヴァ!外からの光お願い!!」


「はいはい!ニヤニヤ分かってるよ!ニヤニヤ」


「〜〜〜〜うざい!!!」


 暗闇で顔はあまり見えないが、多分真っ赤だろう。いやーカワヨ。

 ひたすらにニヤニヤしてしまう。


「〜〜〜!(く、屈辱!!後で覚えときなさい!)」


 そうグダグダしながらも外の光を空間の裂け目を使い、ここら一体を照らす。するとうつ伏せに倒れているマサルを目視出来た。

 地面に着地すると、すぐにマサルの下へと駆け寄る。


「よし、外傷は……あれ、思ったより少ないと……思ったがこれはまずい。頸動脈思いっきり切られてるな。」


「え……!」


 どうやらラヴァナはそこまでは見れていなかったようだ。

 まぁあの暗さならそこまで見れていなくても仕方はない。


「マガミに背後からやられる直前に体勢はをギリギリで躱してたから私みたいに腹部とかは深く損傷はしてないと思ってたから大丈夫だと思ってたけど……」


 仲間に対してもここまでの殺意のある攻撃。

 マサルの傷からも殺意が残留しているのが分かった。


(・・・・・・?)

 

 この残留している殺意のについて気付いた。


(この殺意……


 となると?まさか……?

 そんなことを考えながらもマサルの首に回復薬を掛ける。


「此処までの重症で治したことは無いから分かんないだけど……これってこんな重症にも効くの?」


 心配そうにラヴァナが薬の効能について聞く。


「あぁ、外傷に対して即効だからな。傷口から血管を通ってこの薬が流れ込む。一瞬で全身に廻るから骨折とかも治る筈だ。」


 そうかけ続けていると、マサルの背中の傷が順調に治っていく。

 臓器まで見えていたのにもう傷口が完全に塞がる。


「おぉ!す、すごい!」


 感心したようにラヴァナがパチパチと手を叩く。

 

 「よし、これで……」


血管も全て完全に繋がり、ついに完治した。



のは良いのだが…


「………気絶したままね。」


 マサルはそれでも目を覚まさない。


「あくまでも外傷だけだからなぁ……意識までは取り戻せないか。」


 何とも歯がゆい効能の薬だ。

 とは言っても我々からしたらこれだけでも十分である。


「どうする?このまま部屋に持っていくか?」


「いや、それだったらまたひとりでに目が覚めた時めんどいわよ。自分の不甲斐なさが駄目なんだどーだって言って目を離した隙に、切腹しようとする筈。」


 それを聞くと有り得ない話ではない。

 いや100%位の確率で有り得るだろう。


「確かに……じゃあ無理矢理にでも起こすか……。だけどどうやって起こす?」


「無難に冷水浴びせるのが一番じゃない?」


 そう言ってうつ伏せのマサルの上に裂け目を創り、一瞬で準備を完了する。


「……お前なんでこういう時だけ早いんだよ……。」


 私は軽くツッコムがラヴァナはそんなことも気にせずに執行する。


「……う、うー?」

 

 ラヴァナの言葉に本能で恐怖を感じたのか、水を掛ける前に微かに意識を取り戻したがこの時の私達は気づいていなかった。


「よーし、それじゃいくよー。」


「ラ……ボボボボボボ!ボハァッ!!!ボホッ!ボホッ!おぼぼぼおぼぼ!」


 何とか目は覚ましたが時すでに遅し。滝の量がマサルを襲う。

 そして時々こっちまで飛んでくる飛沫が冷たく、私達の鳥肌を立たせる。


「…ラヴァナこれ大丈夫か?これ窒息するんじゃないか?」


「まぁ窒息する前に起きるんじゃない?数秒経っても起きなかったら針かなんかでもプスプス刺したらその内起きるでしょ。」


 そう淡々と吐く鬼畜なセリフにネヴァは恐怖を感じた。

 今度からはこいつにあまり迷惑を掛けないようにしよう。


「ちょっ……まっおぼぼぼ!」


「…あれ?マサル?」


 マサルの声が今聞こえ、ここにきて漸くマサルの目が覚めていたことに気づく。


「ちょ、ラヴァナ!ストップ!」


「えー?なんで?」


だがラヴァナは気付かずに大量の水を放出する。


「マサル!目!覚めてる!本当に死ぬ!!」


「え………?うわぁ!ごめんマサル!」


 そう言ってラヴァナは慌てて裂け目を閉じた。

 マサルの顔は軽く酸欠になったのか青ざめている。


「…ゴホエッ!!ガハッガハッ!オエッホ!!ゴハッ!」


「…マサル!!」


 無事だったことに嬉しさを感じてついついまた抱きついてしまった。


「良かったぁ!もう!!心配させないで!ここまで来たのに死ぬなんて、死んでも許さないわよぉ!!とにかく良かったぁ!」


 そう言ってただでさえ酸欠のマガミが苦しくなるほどのガッチリホールドを決める。


「心配するのは嬉しいが……ちょ、ちょっと…ち、窒息する……ガチで……」


 またついついが素の自分が出てしまい、恥ずかしくなりマサルから離れた。


(また素が出てる……いやーカワヨ。)


 ラヴァナが今少しニヤけてた気がする。心を読んだ方が良かったか?


「まぁ取り敢えず着替えてきなよ。風邪引くよ。」


「お、おう。そ、それよりも叶夢は無事か?」


「ラルバが今あっちに対処しているらしいから、大丈夫だ。」


 その言葉をマサルは聞くと


「そうか……良かった。」


 と胸を撫で下ろしたと同時に


「ハ、ハクシュン!!」


 と豪快なくしゃみをかます。理由は明白だろう。


「あー…風邪っぽいわね。取り敢えず新しい服に着替えてきたら?そんな血まみれの服なのも嫌でしょ?」


「お、おう。」


 ラヴァナの助言を聞くと、裂け目を使って自身の部屋に戻った。


ーー数分後


「ブエックショイッ!!あー……」


 豪快なマサルのくしゃみが底で響き渡る。服は新しく、黄色の袴を着ている。


「ちょっと手で覆ってよそこは。」


 ラヴァナがマサルに向けて注意をする。


「あ、すまん。」


 どうやら体にこたえたようで風邪気味である。

 というか逆に風邪気味だけで良かったな。


「大丈夫か?」


「おう!全然大丈夫や!体はだめでも心は丈夫やからな!」


 そう自身満々に答えるが、鼻水が少し垂れていてダサさが勝ってしまった。


「そうや!ところでな!マガミのことなんやがな?」


「マガミ?」


「そうや。マガミの殺気を見て気づいたんやが、あの殺気は多分叶夢のものなんじゃないかと思うんや。」


 マガミの口から私と同じような見解の意見が放たれる。


「やっぱりそうか……」


 この空間内からでも感じたからの殺気に何処か似たような感じがしていたのは気の所為ではなかったようだ。


「じゃあ原因は叶夢?でも…じゃあなんで殺気がマガミと一緒なんだ?」


「それが分からないんよなぁ。」


 それでも、その理屈が分からずに今の私達には考え込むことしか出来なかった。


ーーおい!お前等聞こえるか!


 考え込んでいた脳内にラルバが乱入してきて、一気に意識を引き戻された。


「ら、ラルバ!?」


ーー良かった!繋がった!そっちから応答が無いから心配したぞ!


 そう言えば、此方から一度もラルバに向けて通信していなかった。申し訳なく感じて謝罪の念が湧く。


「その節に至ってはすまん。それよりもラルバ、呼びかけてきてどうしたんだ?」


ーーマガミがどんどん力を上げてこの俺すらにも対抗出来る程に強くなってる!多分……


「…叶夢の殺意が?」


 ーーえ?お前たちも気づいてたのか!!あぁ、この人間の殺気と同じだ!


「殺意が同じって一体……」


ーーそこでだ!俺が人間の殺意をなんとか引き出して、人間の殺意の性質をもう少ししっかりと解析する!終わったらまた連絡するから、その時は人間と一緒に裂け目を使って逃げてくれ!」


「え?それって危険じゃ……」


「どうもこうも取り敢えず頼む!俺がお前達を呼ぶから聞こえたら来てくれ!今はこの人間護るので精一杯だ!じゃあ後でな!」


 そう告げて、通信が途絶えた。


「………切れちゃった。性質?殺意に性質なんてあるの?」


「まぁとにかく今は待機だ。あいつがそう言うんだ。」


 そうして誰がいつでも行けるように裂け目を用意して待機する。

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