第4神話   瓜二つ③

だがそれと同時に考えさせられるものがあった。

何万、何億年もの間強大な力を追求したことによって強大な力を持つ生物へと俺は成った。だが力というものは大きくなっていくごとに、害を為すものへにも変貌する。

 その強大すぎる力というものは超高次元の空間で無い限り大半の世界を破壊してしまう程の力を有する。

 誰かのために幸福をもたらそうとしても、壊してしまう。

 そうなったらもう壊したくない者は何もしないことが一番の幸福をもたらすことに定義づけられてしまう。

 今の俺は気概もないただの平和ボケをした無能だ。


(やっぱり……ダメだ。)


 まさかこんな場、しかも低次元の奴等に改めて今の神というものを実感させられるとは思わなかった。

 こいつらみたいな神を倒そうとする馬鹿や神の力を自分のものにしようとかする馬鹿に出会えたのは中々面白い。ここまで対等に喋れた人間達なんていつぶりだろう。

 俺はこういう奴らに出会うことをここで諦めたくは無い。俺の今の心に少しだけ希望を抱くことが出来た。

 

「や、やべえ!くそ!こんな終わり方だけは……!嫌だ…!あいつらに一回もやり返せてないのに!」


 そんな人間の捨て台詞が淡い閃光に飲み込まれるとともに体に響く。


―――数分後


「う……ってあれ。今度こそ本当に成仏したかな。」


 俺は目を覚ました。そして同時に悔しい思いが他の感情を吸収して重くなり、それが自責の念として生まれ変わった。


「あー…クッソ。結局何も上手く行かず終了、か。最後にあいつに一発かましたかったなぁ……」

 

 あいつの顔を思い出す度に顔を伏せてしまう。高校の制服のポロシャツを強く握りしめてしまい、服のシワが俺の感情を表すようにくしゃくしゃな顔になっている。

 最後の最後まで報われることの無い人生だった。ただ、その世界から解き放たれたのが唯一の報われたことだろう。

 そう考えると抜け出せたことへの達成感により、不意に脱力が悔しさの中から生まれて少しだけ気持ちが落ち着けることが出来た。そして俺は仰向けになって寝転がった。


「あー。こんな終わり方かぁ。はぁ、時が戻ったら良いのになぁ。…………は?」


 ふと空を見上げると、そこは天井があった。先程までは確実に外にいた筈だ。あれすらも夢だったのか?

 いや、そんな筈は無い。確かに神の血が服の袖に付いている。


「そうだ!あいつは!」


 そうしてすぐに起き上がり、周囲を良く見渡すとどうやら建物の中のようで、壁には松明が掛けられている。床には赤いカーペットが敷かれており、窓のような物は見当たらない。また天井にはペンダントライトが等間隔で吊るされていて、その光度はずっと眺めていたら眠くなりそうだった。

 また廊下の先を見ると、一つのダークオーク製の扉があった。その扉の陰気な雰囲気はどこか不気味なオーラを持っており、そのオーラに包み込まれそのまま吸収されそうである。

 この時俺は何故か知らないが、その扉に向けて歩きだしていた。行っては行けない。そんなことは子供でも分かるだろう。だが、そんな理屈とは関係無くなんの根拠も無いのにそのドアに呼ばれている気がした。

 引き返そうなんて思いもそのドアが吸い込んでいて、そんな思いは微塵も無い。

 俺は静かな廊下に足音を響かせ、後ろを振り向かずに速歩きでドアに向かった。

 

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