第4神話   瓜二つ①

パリ...パリ...


 


 神はこの音がすると、すぐに上を向いた。


 聞き覚えのある音が鼓膜に向けて放たれる。数秒も経たない内に神経パルスを通り抜け、すぐに理解した。




「ーーー!空間の裂け目!」




 神はすぐに首を垂直に上げ、そこから凄まじい速度で何かが飛んできた。だが、それよりも先に神は動き出していた。多分予知能力だろう。


 神はそれをものともせずに俺を担ぎながら避けた。




「ふー、危ない危ない。俺が怒りに身を任せて、周りが見えなくなっているとでも思ったか?俺だってある程度の冷静さは保っているさ。」




 神にもまだ冷静さというものがあることに少し安心したものの、いきなり何かに襲撃され吃驚してしまい、放心状態寸前である。




「ま、まじでいきなり来るのはやめてくれ。軽く酔ったし………。本当に凄い殺意を感じたんだが……。」




 寿命が少しだけだが、短くなった気がした。放心状態になりかけながらも、何とか力を振り絞り首を動かす力に自分の出せるエネルギーを全振りした。


 先程の何かしらの物体が飛んできた方向に目をやると、そこには信じられない光景が目の前を覆っていた。




「は?え?」




 そこから出てきたのは容姿、服装、装備品までもがキメラと全く一緒のものが現れた。だが神はそれに動じることもなく、キメラとキメラと似ている何かしらの存在を見下すように見つけながらも、その目の奥には神を睨みつけるような迫力を感じた。




「いやぁ〜、未来予知ずるくないか?あれ。なぁなぁ、俺にもあの力使ってみたいんだけど………駄目……?」




 キメラと瓜二つの存在がキメラに向かって先程の迫真の目とは打って変わり、子供のような好奇心旺盛な目を神に向けてキラキラと目を輝かせていた。

 もう一方のキメラとの性格は大きく異なっている。




「うーむ……。まぁ一応使っても良いが、限度は考えてくれよ?こいつの力を手に入れようと提案したのは俺だからな?あくまで俺の協力者という立場を忘れるな。」




それを瓜二つの存在が聞くと同時にキラキラした子供の目から一気にげんなりと変わり、不貞腐れた。はっきり言ってその姿は一言で表すなら、大人子供という言葉が相応しい。




「へい、へーい。この世界の俺は堅苦しいったらありゃしない。人生をこの先も他の奴らと一緒に楽しもうっていう気にはならないのかね。そんなんだから世に頑固で孤独な老害が解き放たれて、若者達に嫌われていくんだよ。」




「……逆にお前みたいな礼儀も何も知らず、自分が楽しみたいだけの自己中達が世に放たれていくことで頭が悪いクソガキで溢れ返り、成長した時に大人を困らすんだぞ?」




「逆に言わせてもらうけど、あんたみたいな神の力を手に入れたいって子供の時からの厨二な夢を言って周りの奴らを困らせて、痛い目で見られるような大人のレベルに辿り着けていないガキのまま年老いていくよりかはましだね。」




 どうやらキメラと瓜二つの存在もキメラに引けを取らない程の口喧嘩の強さは十八番のようだ。何なら瓜二つキメラの方が上手と言っても過言ではない。




「…………」




「―――?どうした?何か考えてんのか?」




 キメラから発せられる威圧のオーラが瓜二つキメラに向けて放たれているが、瓜二つキメラはそれをものともせず、自分が威圧されている理由が分かっていないようだ。恐らくあの瓜二つキメラはボコボコにされる世界が見える。


 それよりもあれほど冷静沈着なキメラのペースを乱す、瓜二つキメラは中々なやり手である。


 こんな時は多分、隣の神がすぐに割って入って来て、しょーもない煽り返しをするのだろう。神に向けて首を曲げて、しょーもない煽りが来ることを覚悟した。




(……………)




 しかし数秒経っても神の声が発せられることは無かった。先程まで音速レベルでうざ絡みをするような奴だったのに、この静寂が奇妙な感覚を催している。


 神の目を見ると微かにだが、目が少しどよめいている。




「お前……。」




 神の声とともにキメラは我に返り咳払いをして神の方に意識を向けた。




「あぁいやいや、すまない。つい……な。それよりもそ・ん・な・こ・と・を読んでおく余裕があるのか?お前も焦っているんだろう?」




「そんなこと?そんなことって何だよ?」




 瓜二つキメラがキメラの発言の引っかかる部分を聞くが




「いや、お前にもじげんの神にも関係ないことだ。それよりも今回は最終段階まで来たんだ。最後まで手伝ったら特別なボーナス金もやる。」




「マジで!?よっしゃあ!!最近色々買いたかったからなー。」




 金に釣られ、より一層気合が入ったようだった。


 だが神は何か思っていた顔をしていたが、すぐに切り替えた。




「……じゃ、やっぱりいいや。詳しく聞かなくても俺の精神肉体共々ボロボロにしやがったのと、神達を馬鹿にしたことは許すつもりは無い。」




(なんかやけにここだけ見るとかっこよく見えるな……。)




 神と言って差し支えない威厳を感じる。やっと神に対しての安心感を垣間見ることが出来て、少し頼もしく感じた。




「それよりどうしたんだい、キメラさんよ。急にそんなクローン違う世界線の自分なんて呼び寄せちゃって。現状維持ですかい?ついに孤独だった老害なりかけさんもついに孤独に耐えられなくなったのか?」




 あ、やっぱり気の所為だった。




「現状維持は間違っていない。唯、その現状維持をあまり見縊らないようにな。変化を許さず維持させるのは容易に聞こえるが、凄いことなんだぞ?だがそれは最高神のお前がそれは一番実感している筈だが?まさかこんな当たり前のことでさえも理解しておきながらも聞いてくるアホだとは思わなかったな。」




(え、えげつねぇ……)




 シンプルな感想を言葉で表すとこれしか思い浮かばなかった。




「お、おーい?神?大丈夫か?」




 俺は気の毒に思い、少し声を掛けたが反応は無い。ただよく目を凝らすと手が一瞬だけだが、震えているのが見えた。


 あぁ…完全に言い負かされてる……




「おい、神。ついには人間までにも気遣われているが大丈夫か?流石に情けないぞ?もう少し神としての威厳を保ったらどうだ。」




 追撃のように…いやそれを越えて死体蹴りである。


 だがこれに至っては紛うことなきド正論のため俺も言い返すことが出来ない。




「あぁぁ!!うるせぇよ!!分かってるよそんなことぉ……!いちいちお世辞いれやがってぇぇ……!本当にうるせぇ奴だなぁ!バーカ!」


 


 ついには、言葉のカウンターによるダメージによって、しびれを切らしてしまった。


 それに対する反撃の言葉はまともに対抗することが出来ていない。返す言葉もガキかよ。


 …まぁ、今はこいつよりも思慮すべきことは2人の発言だ。


 現状維持?クローン?何だ?一体何を考えているんだこのキメラは?




(何かこいつの心でも……あ。)




 この時俺はあることを閃いた。




「なぁ、神様。あいつの声、何も聞こえないのか?さっきまで心の声を聞いていただろ?流石に具体的な内容は分からなくても、少しは聞こえると思うんだが.....。」




 神に対して一つの提案を上げた。例え何かしらの言葉で誤魔化したとしてもボロの一つぐらい出てもおかしくない。


 神は俺の言葉にハッとし、切り替える。




「……き、奇遇だな。俺も今そうしようとしたんだが……」




「?なんだ?何かあったのか?」




「いや…ついさっきまで確かに心は読めてたんだがあいつやあの人間の心の中の声が急に一つも聞こえなくなった……恐らくは……




 すると話している途中にまたもや




パリ…パリ…




 聞き覚えのある音がまた鼓膜を響かす。すぐにその音のする方向を見ると、神と俺の間合いに既に入っていた。




「お〜いカミサマ。俺の事無視しないでくれよ?」




「やっべ!?ちょま…」




(まずい、キメラの心を読むことに専念しすぎた!)




 キメラに意識が集中してしまい、瓜二つキメラの存在に気づいた時には時既に遅く、顔目掛けて白銀に光らせているメリケンサックが放たれた。勿論、その拳を時止め能力を使う暇すらも与え無かった。


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