第3神話   それぞれの策略①

「いやー凄いな!熱い熱い友情物語か。頑張って俺にももっと良い演技みせてくれよ?」


 キメラがまた何かほざいてる。いちいち煽りを入れて、相手を不快にしないと死ぬ呪いにでも掛かっているようだ。

 こういう奴らの対処法はただ一つしか無いのだが、どうしようか.....。厄介なことに心の声が聞こえるので、無闇な発言は出来ない。

 とはいえ行動をしないと変わらないので、何か会話をした方が良いな。


「何でお前は俺と古文書っていう物を欲しがっているんだ?」


 まずは質問からだ。相手の目的を知らなければ、作戦を立てられないからな。キメラは少し考え込んだ。


「うーむ.......。まぁ別に良いか。話に付き合ってやる。簡単に言えば、その神のの儀式に必要不可欠なものだ。」


 何やらまた専門用語が出て来た。だが、これは少し聞いたことがあった。思い返そうとしたのだが、隣から自己主張の激しい神様が口を開き、思い返そうとする俺の邪魔をする。


「中々の神オタクだね君。神がそんなに好きなら殺すんじゃなくて崇めて欲しいな?そんな信仰もできないような奴に神は味方してくれないぞ?」


 しかも内容はしょうもない挑発をキメラにするだけで、挑発としてのレベルも低いというおまけ付きだ。


「おいおい俺に力を使われるのが怖いのか?何、その痛い姿も俺の力になれば羞恥を晒す必要も無くなるぞ?安心するが良い。」


 対してキメラは淡々と冷静に返答し、神に強烈なカウンターを……

 

「それ人間にも言われたんだが…なんで皆んな俺のこと痛いだの中二病だの言うんだ?そんなに変か?」


((……駄目だ手遅れだコイツ。))

 

 この瞬間キメラと同じことを思ってしまった。皆んなから言われておいてまだ自覚無いのかよ……?

 改めてこの神の顔を見ても全く純粋な顔をしている。俺はまた肩をもう一段階落とす。


(……はぁ)


 まぁ厨二神はもう放っといて……神降ろし?邪教徒が教祖から受けてたあれか?神をその身に憑依させて託宣を聞く為に使うと言われている儀式.....。


 ーーあははは!これで私も悪霊に憑かれないようになった!また新たな幸せを掴むことが出来た!これからもどんどん幸せになっていく予感がする!人生勝ち組だわ!あはははは!


 大丈夫だぞ。アンタはもう悪霊に憑かれる前にもう悪霊だ。だから憑かれることは一生無い筈だ。

 良かったな、家族と金を代償にしてまで悪霊に憑かれない体になれたんだから。俺はアンタが羨ましいよ。人生勝ち組じゃないか。

 思い返す度に腑が煮え繰り返る。神に頼って、自分の都合が良く行かないと悪霊だなんだと言って罪を擦りつけるような、都合の良い自信の我儘しか追求しないような奴が。


「……お前中々に恨んでいるんだな、その邪教徒って奴を。ここまでの怨念のオーラは………。」


 俺はキメラの声を聞いて、元の世界に戻ってきた。


「あぁ、いや何でもない。もう昔のことだ。気にしないでくれ。それよりも神降ろしってなんだ?助言とかを聞く為にあるやつか?俺がいる必要は無いと思うんだが……。」


 俺はすぐに切り替えて再度質問を続けた。キメラも続いて話す。


「勿論それもあるが、一番の利点は神の力を自分のものにできることだ。神と全く同じ力を扱うことが出来るが、その力は絶大なものだ。何かしらの代償になる力が必要になる。もし不完全な力の状態のまま神降ろしをすれば、神の力によって体が耐えきれず何もかも打ち消してしまう。そう、魂でさえもな。」


 何となくだが分かってきた。神の代償とする力、所謂人柱っていうのが必要なんだろう。が……


 「中々鋭いな。そう何かしらの力というものが神通力だ。お前を取り込んでこの強大な力を持つ神を神降ろし出来る程の強大な器になるためだ。お前を欲する理由はただそれだけだ。」


 キメラの理由は強大な力を手に入れるという至ってシンプルなものだった。漫画やアニメでよく見るありがちだが結局は抽象的でしかないので明確な目的が分からない、はぐらかすのに万能な解答だ。

 まぁ、こうなることは見据えていた。問題はその後だ。


「なんでそこまで力に執着する?そんな強大な力を使うなんてこの神みたいに使える場所が限られてくるし、不便で仕方ないだろ。ましてや強大な力を手に入れたとしてお前だってこの神みたいに狙われて、最悪の場合殺される可能性だってあるわけだろ?」


 この具体的な理由を求めた解答によって大きく変わる。もしかしたら、相手に対する見方も変わるかもしれないし、より一層憎悪が湧いてくるかもしれないし、最早喋らずにそのまま誤魔化す可能性だってある。

 さぁ、どうでる?


「……は?強大な力を手に入れて何もかもを手に入れて、今よりも、自分の思うがように動いて自分のために動く。それ以外に何がある?」


「え?」


 キメラは躊躇無く平然として俺の質問に答えた。

 はぐらかす訳でも無く本当に純粋に力を手に入れることを望む、誰でも願う様なごく平凡な解答だった。

 勿論悪いと言う訳では無いのだが、アッサリとしすぎていて意外だった。この性格ならもっと何か巨悪を抱え込んでいるのかとも思ったが.....。


「本当にそれだけなんだな?」


「だから本心だと言っているだろう。お前だって強大な力には何度も憧れていただろう?俺はただその憧れの火を今日まで消さずに生きて来た。」


 キメラの対する解答に俺はぐうの音も返す事が出来なかった。

 自分も結局は強大な力を持っていたらどうするかと言われるとすぐに嫌いな奴らを殺したり、自分の好きなように物事を動かしたいといった欲望に満ちていた。

 だが、結局願うだけで自分から行動する訳ではなく叶う事はなかった。

 コイツは誰でも願うような欲望でも追求したからこそ、今こうして堂々と神の前に立っているのだろう。

 

「凄いなお前は........俺はそんな事憧れても、やり遂げようとは思えなかったな.......。」


 今まで俺は自分の思うように欲望を叶えれたことが無い。

 そんな姿に俺は不思議と尊敬の念を抱いていた。先程まで神に傾いていた気持ちが少しずつキメラにも傾いて来てしまった。どちらもそれぞれの魅力を感じてしまい、どちらを信じれば良いのか分からなくなった。

 俺は一体どうすれば......。

 

 



 





 いや、どちらにも絶対に今はまだつかない。どちらを信じるかはこいつらの様子を見てからだ。今やるべきことはどちらにつくか決断する前に神やキメラに取り込まれないようにすることだけだ。

 俺は胸に誓ったことを思い出し、迷いを断ち切る。

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