第2神話 キメラ②
(け、結局、お、俺は……)
色々と酷いことを言ってしまった。勝手に悪者扱いをして、自分が不幸な理由を神のせいにして八つ当たりをする。結局俺も山田達となんら変わりのないただのクズだった。
(何だよ……結局俺もあいつらと……一緒? 俺は…)
今思えば勝手に決めつけて、他人を心の中で攻撃することはこれまでにもあった。
今までだめな人種だと思って、他とは違うと見下していた。それで自分よりも下の人がいると勝手にモチベーションを上げていた。最低以外の何者でもない。
(どう…やって弁明しよう。)
本来ならここで謝るべきなのだ。
自分がこのダメな人種の立場にいると分かってしまった今、その事実を受け入れたくない自分がいた。
謝るべき事象だとは分かっている。理屈では分かっているのだ。それでも一歩踏み出すのに躊躇した。
こうなってしまったらもう止まらない。
そして
(…だ、だが待てよ。けどこいつが嘘を吐いている可能性もあるよな?そうして裏切ってきたら?そ、そうだ……きっとこいつだって……)
出てきてしまった。
心の奥底に潜む、それでも自分の犯した行いを認めたくないという小さなプライドと、その現実から逃避をするために生まれた最悪な理論が。
この2つが出てきてしまった時には、自分で意識しようとしても気づくことは中々難しい。さらにたちの悪いことに、考え込む程気づかぬ内に足枷となっていく。
これを断ち切るためには他人からの助力があった方が楽になるのだが、そんな頼りにできるサポーターは中々いないから結局は自分で考えないといけないことが大半である。
だからいつの間にか時間が過ぎてしまい、思考だけは止まらないのに他の体の機能は止まってしまうという状況に陥ってしまうのだ。
「ーーい、人間?おい!返事しろ!」
俺はどっちつかずの感情で迷っている間に神に呼ばれていることに気づいていなかった。神の声が耳に入ると、すぐに目が覚めた。
「は!いや……あ…な、なんだ?」
突然のことだったので少し汗をかきながら、すぐに返事を返した。
「取り敢えずあの野郎に対抗出来る方法がある。俺の古文書を使うんだが、多分あいつは古文書を取り出した瞬間に空間を操って古文書を奪おうとしてる。そこでだ、力を貸して欲しい。作戦がある。」
俺は少し考えたが、すぐに結論を出した。
「い、嫌だ!」
「……え?」
「お、俺はアンタをまだ完璧には信用出来ない!け、結局信用しても最後には裏切って殺すような奴の可能性だってある訳だし、そんな奴に殺されて死ぬのは嫌だ!だ、だからその話には乗れない!」
一瞬、俺はこの行動が正しいのかは分からなかった。だが恐怖心や不安というものにただ突き動かされる。
最早それに身を流してしまい、正常な判断が出来なくなっていた。
「そうか……」
神は哀愁が漂う顔になったが、すぐに切り替えてキメラの方を向く。何故かその時の表情は少し笑顔だった。
(あ……いや…)
そんな顔をしないでくれ。もうこれ以上俺に夢を見させてくれなくていいから。
「哀れな神よ……神なのに特にこれといった能力を持っていない奴にまで信用されていないのか……。そこまでしてまで頑張る必要は無い。もうお前等高位神の時代は終わってるんだよ。この俺が上手く活用してよ信仰を集めてやれるんだ。感謝するんだな。」
横からまた声が聞こえてくる。俺はすぐに顔をキメラの方に向ける。発言一つ一つ生前の奴等を思い返してしまう。忌々しい。
恐らくこの感じで行くとこいつも神なんだろう。どうやって黙らせれば…
「おいおい、お前みたいな奴が俺に勝てる訳ないだろ?早く諦めて、俺の一部になった方が楽だと思うが?常に一緒に居られるんだ無力さを感じるお前みたいな人間にとっては最高だろう?」
うるさい。いちいち心を読むな。分かってるよ、そんなこと。自分は何も出来ない。だけど神に啖呵を切った今、お前だけは自分の力で何とかしたいんだよ。何か方法は無いのか?神が対抗出来ると言っていた方法しかないのか?考えろ....!考えろ....!
「…人間。」
そうやって悩んでいる内に、神が俺の前に立つ。
そして様子を伺ってキメラに向けて口を開いた。
「何言ってんだ?お前を恐れず、さらにはコイツを黙らそうとする。どうにかしたいのに俺の話に乗らず、神が嫌いっていう無礼を平気でやるような奴だぞ?こんな奴にお前みたいな自分の
俺は急に褒める言葉に驚いた。
なんだ?そんなことは別に誇れることでは…
「…ただの人間の汚く、弱い部分しか持ち合わせていないようにしか見れないがな?」
キメラが的確に俺に対して言い当てる。キメラの言い分には俺は否定できない。
すごい力だって俺は持ってないし、救えない。
ただも言葉だけの我儘だ。
「は?何言ってんだお前?頭部が肉食動物のくせに目は節穴だし、頭も悪いんだな。今度俺が脳内治療してやるよ。」
キメラに向けて、神が挑戦的な異議を唱える。
「自分の意志を曲げずに、しかも神を倒そうなんてこんな馬鹿げた強大な欲望を叶えようと一瞬だけでも葛藤する奴なんてのは中々いないぞ?それで我儘?当たり前だ。」
「…………」
キメラは黙って神のスピーチを聞いている。この神の喋る空気に取り込まれて、静かにしているようだった。俺も不思議と黙っていた。
「我儘で良いんだ。夢のスタートは。どんな理由だろうが、どんなに馬鹿夢見ているような奴だろうが、一度はっきりとした夢を見てしまったものは頭に残る。切っても切り離せなくなるほどの質の悪い呪いみたいにかかってしまう。それを完全に断ち切るために
そんなの途中で挫折したら一生悔いが残ってしまうじゃないか。そんなことを俺はまたもう繰り返したくはない。
「けどその時断ち切れなくなった夢ってのは、結局自分次第でどうにでもなる。またそこから前を向いて夢へと向かうか、断ち切れずに一生悔いを残したまま生きるか、あるいはその閉ざされた夢とは違う別の夢を開拓するかだ。そんな迷走しまくって、ぶち当たりに行くのが夢なんだ。」
俺に名言っぽいことを言って引き留めようとする。
だがそんなのは……本質は現実性なんて無い、自分だけの綺麗事なだけだとだというのに。
自分次第、そんなことを言ったってなんの心の支えにもならない。
「…だからこそ神というものがいる。」
俺は俯いていた顔を神に向ける。
この時、自分で動かした感じではなく何かに突き動かされているようだった。
「どんな希望だろうが全て聞き入れてやる。そして支えになって夢のゴールまでの道のりを見守るのが俺の思う…神としての役割だから……」
「…だから?どうする。」
神は少し間を開ける。その様子を見てキメラが淡々と返す。
「だから俺はこれからも神を追求する…!そして取り戻して見せる。神の立場を…!こんな一人の存在すらて手に入れないようじゃ辿り着けないんだよ、本当の神という境地にはな。」
「………!!」
神の発言には不思議と嘘もなにも言っていないような本音が何故か伝わってくる。
そのためかよく心に響くものがあった。心に消えかけていた火が段々と力を増している。
だが、そうは簡単に問屋は卸さず、またもや小さなプライド達が頭角を現す。
(…もし、これすらも嘘だったらどうする?俺をただ利用する為だけに優しくしているのだとしたら?そうだ、コイツはまだ嘘では無いということを証明していない。本当に信じてしまって良いのか。でもあの笑顔は.....)
「人間!」
また自分の心が揺らぐ。心の中はまたどっちつかずの状態で助けを求めていた中、またもや神が此方に話しかける。
「自分の心に決めた事を思い出せ。ゆっくりでいい。一番重要なのはこの今を乗り越えるために過去の自分にケジメをつけることだ。そうすればきっと前向きに変われる。」
そう言い残すとすぐにキメラに顔を向ける。
「過去の自分に………ケジメをつける……。」
思い返すと自分は神を嫌い、相手のことを何も知らないで信用しないようなただのクズだ。
だけど今の俺はもう一段階成長できるような気がする。いや、やってやる!
俺の心に決意が滾る。
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