プロローグ   人の罪①

「うごぇえっ!カッ……アァ…ゲホッゲホッゲホッ!」




 鉄パイプで何度も殴打された左腹部に強烈な一撃が加わる。

 あまりの激痛によって一瞬息が詰まり、血反吐を吐いてしまった。

 そのまま俺はうずくまり、地面に向かってドサっと倒れ込んでしまう。


 


 「うわあ!!!ち、血だ!!山田!そろそろまずいって!!もう動かなくなったよ!?そろそろ辞めようよ!」


 すると、殴っていた3人の内の1人の長野が自分達がした行為に怖気付いたのか急にストップを掛けた。

 左腹部に痛みが集中している。


ずっくん、ずっくん…!


と不規則で、早いリズムで痛む。

 呼吸は段々浅くなり、意識が段々と薄れていく。


 


(やば、頭がクラクラする。気分も悪くなってきた。体は動か……ないなこれ。多分死ぬやつだわ。)




「おい!こ、これ、お前さっき左胸近く、思いっきり殴ってたよな?ワンチャン心臓破裂してんじゃねえのか??大丈夫か?おい!」


「は?そう簡単に破裂なんてするわけ無いだろ…え、いやマジか?」


 山田と長野が質問するが、当然激痛によって声は出ない。


「あッ…カッ……」




「お、おいなんとか言えよ!殺人なんて俺はやって無いからな。とりあえず救急車を呼んでおこう。な、なんとかなるよな?」


 


 山田はすぐさま鉄パイプを放り投げ、スマホを通学鞄から取り出して救急に連絡を取った。


『はい、こちら119番消防です。火事ですか?救急ですか?』


『救急です。場所は○○○町の第3公園で―――』



――数分後




「取り敢えず救急車は呼んどいた。けど、大丈夫だよな?なんとかなるよな?きっと病院にいったら手術とかなんとかして治ってるよな!?」


 山田は長野と森友に俺のことについて呼びかける。


 いや、正確には俺を殺して自分に罪が及ぶことを恐れているだけだ。


 俺に生きて欲しいはずなのに自分の犯した罪によって、頭がいっぱいになり応急処置を考えれてないのが何よりもの証拠である。


 こいつの馬鹿さ加減ときたら最早呆れるを通り越して、笑えるほどだ。こいつの将来は期待できる。

 まぁ精々雛壇芸人にでもなってお前を笑ってくれる数少ない人を大切にしろよ。応援してるぞ。

 山田と長野が焦燥感に駆られている中、ずっと黙っていた森友が口を開いた。


「言っとくが、俺は殺人の実行犯じゃないからな?悪いのは調子に乗って強く殴った山田のせいだろ?」


「…はっ?」


(………あーあ)


俺は何度もこの状況を見てきた。

人は重い罪や罰を受ける時、必ず逃げ出そうとする。

 悪い事をしている自覚があるにも関わらずだ。

 だが、人間の人生は約100年という中途半端に長い時間を生きてしまうため、多くの人はいつかは重い罪や罰を償う日がくると心の奥底で思い込んでしまう。

 それをかいくぐるために世の人間の起こす行動として二つのパターンがある。

 自分の犯した罪から逃げ出しても、結局は諦めて認めるような罪悪感という存在に駆り立てられる善意が残っている者とどんな手を使ってでも罪を軽減させようとする往生際の悪い者。

 これらが世に蔓延っている訳で、基本は後者側が多い。

 勿論、今回の山田達は後者側である。

 そしてそんな後者の奴らが第一に取る行動の最たる例…








どうするか?








自分の犯した罪を他人になすりつけようとするのだ。

 自分に都合が良くなるように互いに悪い部分だけを切り取り、挙げ句の果てには嘘を吐き、罪に罪を重ねてまで自分の罪を軽くしようとする。




つまり…………





責任転嫁である。


「はぁ!!?お前だって鳩尾とか腹殴ってただろが!お前にだって責任あるだろ!」




山田が早口で捲し立てあげるが、森友は冷静に返す。




「何言ってんだよ。俺と長野はちゃんと急所部分に当たらないように加減してたんだよ?思い切って腹を殴って内臓破裂させた馬鹿は誰?」


それに便乗して長野が口を開く。


「そ、そうだよ!俺らはやりたく無かったんだ。なのに勝手に強要したから仕方なく付き合ってやったんだ!この馬鹿!俺らにも罪をなすりつけようとしないでくれよ!」


「……!」


 2人から完全に突き放されてしまった山田の目には涙が浮かび、鬼の形相で俺の方に駆け寄って俺の胸ぐらを掴んだ。




「お前があああぁぁぁぁ!!!!!!!〜〜〜***!!!」






遂に山田は自分の犯した罪による恐怖感と2人に裏切られた悔しさに襲われ、言葉にならない声を発しながら逃げてしまった。




「あ、あいつ逃げやがった!」




「長野、追いかけるぞ。とっとと捕まえて、責任をなるべくあいつに被ってもらうんだよ。」




そして、去り際に森友が俺に向かって




「いやー、ここまでうまくいくとはなぁ…これもカミサマのおかげかもな!」


(……こ…ろ)


「俺もお前程じゃないけど信仰するようにするよ。んじゃまたなー!」




そう言葉を残すと、2人は山田の後を追って走っていった。

 

(………)


 始めてだ。

 ここまで自分の体が無気力になるのは。

 まるで何かに乗っ取られたようだ。

 考えつくことも、もうな…


――叶夢。私達がこうして、今も生きれているのは、神様が前世で私達みたいな愚かな存在も許容してくださっているからなのよ。だけど、前世に私達みたいな愚かな存在が重い罪を犯した時は来世で生命を与えられ、惨めな運命を辿ることになるのよ。だからあなたも早く働いて、死ぬまで浄財を納めれるように努力して来世でも良い人生を歩めるようにしなさいね?






…最悪だ。なんで最後の走馬灯がこれなんだ。

 あいつの嫌味ったらしい顔と、なんの根拠もない腐った理論がフラッシュバックする。



(じゃあ俺は前世に随分重い罪を負わされたのか…笑えねえ……)


 まぁ、あんたみたいなよりかは来世良い人生が歩めそうだ。

 反面教師として安心感与えてくれてありがとな。やっとあんたの長所見つけれたよ。


 


 そう皮肉めいた言葉を心の中で唱えながら、全身が悪寒に包まれていくのを感じた。もう体を動かす気力すら残っていない。




「やっとみつけた……!」




あぁ…遂に幻聴が聞こえる。やっと死ねる。

俺は漸く死ねることに安堵して、意識を手放した。


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