涙の罪

世界の半分

宇宙が揺れた。


大きく、ゆっくりと。


ゆらゆら、


ゆりかごの様に



―宇宙は静かに体を丸め、涙を流すのであったー



届かない声は響く。

闇の中を永遠に。


闇だけがそれを知る。


闇に響く声はきっとあの遠い星には届かないだろう。

誰か、誰か、誰か、誰か、

届かないと分かっているのに叫ぶ自分。

愚かで仕方ない。


自分は、宇宙だった。


    *


夕焼けの空を見上げていた。

空は溶けそうな程、橙に染まった。


一体、誰が空を染めたのだろう。

何故、空を染めたのだろう。


空に乗る橙の絵具が、自分を見下している様に思えてくるのだ。

色があることさえ差別に感じてくるのだ。


何の色も無い自分が。

憎かっただけ。


自分は、人間だった。


   *


滝が流れるのを見ていた。

激しい轟音の裏では、自然が悲鳴を上げた。


生命が消えていくと、後には光が残る。

仄かに暖かく、心地よいのだ。


自分の生命の為に、この森が、全てが動いていた。

断末魔と光は、辺りを包んだ。


その感覚に酔った。


自分は、狼だった。


   *


ピアノが、微かになっている。

耳を澄ませても聞こえない程、微かに。


誰が弾いているのだろうか。


リズムは乱れていた。

和音は聞こえなかった。


それは自分の知る、ピアノの音色ではなかった。


自分は、宙(そら)だった。


   *


自分は、一人だった。


自分は、孤独だった。


自分は、涙を流した。


自分は、自分は、自分は。



僕は、宇宙だった。



         終





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涙の罪 世界の半分 @sekainohanbun17

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