グリモワールの魔導士

Mitsu

第1話 覚醒の章

 周りを高層マンションで囲まれた、70坪ほどの土地にくたびれた一軒家が立っていた。


 表札は、瑠楠拓也るくすたくや、地域住民からは怪物と呼ばれる男が住んでいる、瑠楠の家は、このあたりでは、最も古くからこの土地に住んでいる住人であった。


 何故怪物と呼ばれているのか、それは男の容姿である。


 51歳、身長198cm、体重205キロ、ウエスト172cm、ツルッパゲ、剛毛 顔は髭で覆われ(胸毛からおへそ下半身お尻まで毛がつながっている、腕、スネ)ゴリラ並み、仁王像を想像してしまうような顔。


 小学生の時から、誰も近づこうとしなかった、中学になると、黒服サングラスをした裏社会から、猛烈なスカウト、そんな男であったが、有名国立大学を首席で卒業、世界的有名なソフト会社に就職、在宅勤務、超優秀なゲームプログラマーである。


 幼少の頃から、まるで化物を観るような視線にさらされ続け、人が怖い。

 不気味な容姿故、恐れられていたが、性格は小心者、シャイ、ビビリ、ヘタレ、極端なあがり症で、人前に出た時、顔を真っ赤にし、貧乏ゆすり、見た目だけはよりいっそう化け物化、恐れた周りの人々、人と触れ合う事さえなく、自宅に閉じこもる日常。


 古びた自宅の一室、何台も並ぶパソコン、大型モニターの前にその男は座っていた、彼の作る、ヒロインのキャラクターは最高に高い評価を得ている。


 道を歩くだけで悲鳴が聞こえる、女性は近づくだけで逃げる、子供は泣く、誰も近づこうとしない、女性とは34歳の時に事故で亡くなった母親以外とまともな会話した記憶さえない。


 生活用品、食料すべて、ネット通販で注文、自宅から外に出るのは、ゴミ出しの日、年数回、両親の墓参りのみ。


 それゆえに、女性とはかけらも縁がない、いつの間にか女性は彼の中で神格化、神棚や床の間に飾るような存在になっており、その妄想により、人知が及ばないような、ゲームヒロインを作り出すことができているのかもしれない。


 カタ、カタ、カタ キーボードを打つ音だけが響く


「 ふぅっ 」


 おもむろに手をとめた、男は、椅子に座ったままで背伸びをした、新作ゲームの女性ヒロインのキャラクターができあがったのだ。


「 ムフフフフフ 」鼻息が荒い、自分が作りあげた2Dヒロインに興奮するド変態。


「 どっこい、どっこい、どっこいしょ! 」

 仕事机に手を突き掛け声を上げながら立ち上がる。


 台所に移動、床がキシンダ音を立てる、朝なのか、昼なのか、夜なのかもわからなくなった、食事、カップラーメンを5つ食べ、500Lのコーラを飲み干す、大きなゲップをして、テーブルに手で捕まりながら、仕事をしていたのとは別の、モニターの前に座る。


 22歳で就職してから、ずっと育て上げてきた、自分だけのアバター、自社販売ゲームの最強キャラクターとバトルするというのが唯一の趣味であった。


 プログラマーだからこそできる事、キャラクター・武器ごとに、ゲームプログラムは、サブルーチン化され組まれている、そっくり自分独自の物に置き換えているわけだ。


 モニターには、本人の容姿と正反対、髪が長く小柄超可愛い、細身、瘴気を纏わりつかせた日本刀を持った、レベル無限大、忍者のような恰好をしたアバターが自分の体の50倍ほどある、ドラゴンを滅多切りしていた。


「 おりゃー、どりゃぁー、せいやぁー! 」


 大きな声が部屋に響く、特製のジョイステック、ボタンが壊れるほどの気合が入っている。


 瑠楠拓也の自宅は両横、後、道路を挟んで前、超高層マンションで囲まれている、土地売買の多くの担当者が、交渉に、仁王像のような顔、横綱のような体格、まともな交渉などできるはずもなく、男の自宅だけが、そのまま残っていた。


 ちょうど後ろにある、高層マンション、屋上の改修工事のため、タワークレーンが鉄骨を吊り上げ作業をしていた、突然タワークレーンがぐらりと揺れる、鉄骨が1件だけ残っている自宅に降り注ぎ、タワークレーンがゆっくりと傾き、男の自宅に落下した。


 テレビ、ネット、大炎上、1件だけ残っていた家が家主を下敷きにして完全崩壊、土地家を売らずに最後まで抵抗したから、殺されたのだろうという噂が飛び交う。


 女神オルンサンガ、蒼白になり焦っていた、イバーリス世界を統括する女神である、異世界に遊びに( 建前としては勇者になるような魂を探すために )、ルンルン気分で空を駆け回っていると、足に何かが(タワークレーンのロープ)ひっかかった。


 女神が人殺し、自分の世界でなく別の世界で、このままでは女神辞めなきゃいけない事態に発展しそうな。

 一応魂を持ち帰るには、死んだ直後というルールがある。

「 死んだ直後だよねぇ 」殺してしまったというのは・・・ 「 あはははは 」笑ってごまかした。


 女神オルンサンガは、瑠楠拓也の魂をひっかみ、勇者候補を見つけた、転生させることにしたと、叫ぶと、あわてて、自分の世界に帰った。


「 こうなったら、この男の望みをかなえて、自分の世界の住人にするしかない 」


「 くぅぅーーーっ 」頭を抱える女神。

 何をどうやっても、ステータスに付いているある記述が消えないのだ。


 称号 : 女神に殺されし者


 レベルを上げても、チート得点を与えても、王子や大貴族に転生させても、性別を女性にしても、美女にしても、美男子にしても、ハーレム男にしても・・・


「 はぁ~っ 外見は見放されているし、どうしたら 」


 女神は彼の記憶に潜り込み、解決方法を探す。

「 ゲームプログラマーだったようね、変わった趣味ね 」

「 そうか 」彼のアバターは自分の容姿を正反対にしていた。


 歳 51歳 → 15歳

 顔 仁王像 → 超かわいい美男子

 頭 ツルッパゲ → ロングヘヤー

 体毛 ゴリラ並み → 産毛、ムダ毛 無

 タルンタルン超デブ → スレンダーな筋肉質


「 あっ、そうだ、いちいち変更しなくても、彼が趣味で使っていたアバターと同じにすれば、これは、グリモワールなの? 」

「 なるほど、他のプログラムから移植するのに、一端グリモワールに取り込んでから、自分のバトルフィールドに展開させていたのか 」


「 グリモワールの中身が凄すぎるわ 」

「 くふふっふ 」 武器、装備、アイテム、魔法などに、レベル設定があるのに気付いた。

「 危なそうな、者はほとんどがレベル 300以上 」

「 残念でしたぁ、この世界はね、ヒユーマン族のレベルはMAX 99 なのよねぇ 」

「 ポーション関係はレベルに関係なくつかえるのか、これらは使い捨てね、補充が必要、これくらいは、大目に見てあげよう 」


「 さて、これならどうだぁ 」


 瑠楠 拓哉 ♂ 15歳

 称号 : 女神に愛されし者


「 うふふふふ! やった、やったわ 」


 LV : 1

 体力 : 5

 魔力 : 5

 筋力 : 2

 早さ : 2

 運 : 2


 特殊能力 : グリモワール 異世界言語E


「 よし完璧だわ 」

 女神は当初の目的、勇者にする気は全くないようだ。


「 都市ベクラダ近郊の丘に設定、異世界ライフ楽しんでね、バイバイ 」

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