空飛ぶセーラー少女は、早すぎてパンツが見えない

☆えなもん☆

空飛ぶ少女と、パンツが見たい少年

 夏も終わりに近づいたころ。

 少年は長い休みの終わりを惜しむ気持ちと、長い間会えていなかった学友たちに会える高揚の狭間で気持ちを揺らしながら、久しぶりのランドセルの感触を背中に学校へと向かっていた。

 不意に風が吹き、汗ばんだ少年の肌を冷やす。

 風の行き先を辿るように顔を上げると、その目に映るのは透き通るような青空、その中央へ鎮座する巨大な入道雲。

 そして、空飛ぶセーラー服の少女。


「そして空飛ぶセーラー服の少女!!??」


 少年の視界に確かに映る空飛ぶセーラー少女。入道雲をバックに、誰よりも太陽の近くで陽光を浴びる少女の姿。

 少年は、その純白のセーラー服には見覚えがあった。近くの中学校の制服だ。小学生から見たら大人びていて、憧れの象徴でもある存在――それが中学生。

 そのことから少年が出した結論が一つ。 


「ほぇ~、中学生になると空を飛べるんだぁ」

「そんなわけあるかい」

 つっこみの主は、いつの間にか近くへと来ていた空飛ぶセーラー少女。

「あ、えっと……お姉さん!!」

「ん、なぁに?」

 いきなり目の前に現れた空飛ぶセーラー少女にびっくりした少年は思わず呼びかけてしまった。

「えっとぉ、そのぉ……」

 そこで改めて、チラりとセーラー少女の姿に目を向ける。


 長い黒髪に黒目の日本人らしい見た目。純白のセーラー服に赤いリボン、そして紺色のスカートは近所の中学校で全女子が来こなしている汎用の制服。

 そして目の前のセーラー少女は少年の目の前に来て尚、地面から数十センチ離れたところで――少年の目線的に、ちょうどスカートから太ももが見え隠れする高さで浮遊していた。

「パンツ見えそう」

「んなっ!?」

 セーラー少女は慌ててスカートを抑える。

「パンツ何色ですか?」

「教えるか!!」

 セーラー少女は恥ずかしそうに少し高度を下げる。それに合わせて少年は視線で追いかけるが、太ももが段々見えなくなると残念そうな表情を浮かべた。

「君ぃ~、ほかに聞きたいことあるんじゃない? ほら、どうやってお姉様は空を飛んでいるの~? ……とかさ!」

「うん、気になる。パンツの色の次には気になってる」

「うんうん気になるよね! 何を隠そう私は組織の研究により――ってパンツの次かい!!」

「お姉さん、おもしろいね!」

「……」

 最近の小学生ってこんな感じなのか――とセーラー少女は思いつつ、嘆息を一つ。

「ねえ君ぃ~、パンツに興味津々すぎない? そんなに私のパンツ、見たいの?」


「あたりまえだ!!!!!(くそでかボイス」


「うわぁ急にワン〇ース。そんなにパンツが好きなのか……」

「何が嫌いかより、何が好きかで自分を語れよ!!!!」

「それワン〇ース違う」

 つっこみに疲れ始め、セーラー少女は更に深いため息を一つ。

 

「ってもうこんな時間!? ごめん、今日日直だから早めに行かないとだから!!」

 顔の横で軽く手を振り、セーラー少女は笑みを浮かべた。

 その笑顔に、少年は胸が心臓に強く胸を叩かれた。

「また、会えるかな?」

「うーん、どうだろうね~? 少なくとも、パンツが見たい~だなんて言うませた悪い子供には、もう会ってあげられないかもね♪」

 少女は空中で回ると少年に背を向ける。その時スカートが翻り、少年は持ちあがったスカートからパンツが見えるかもしれない!! ……そう期待した直後――


 ――少女の飛行は、音を置き去りにした。


 衝撃波で軽く吹き飛び、いつの間にか尻もちをついていた少年。少年の視界には、既にセーラー少女の姿は無い。その目に映すのは透き通るような青い空、そして中央に鎮座する巨大な入道雲。耳鳴りが止んだころに聞こえてきた蝉の声。

 まるでこの数分間、元々何も無かったかのように、いつも通りの夏がそこにあるだけだった。


 少年の胸の内、まだ知らない感情が渦巻いていた。言語化するのが難しい感情に胸が高鳴り、悔しそうに口元を歪める。そして、一番大きな想いが口から溢れ出す。


「パンツ、見たかったぁ――――っっ!!!!!!!!!!」


「――その望み、叶えてあげようか?」

「うわぁっ!?」

 突然耳元で囁かれ、少年は飛び上がった。

 振り返ると、黒づくめの人物がそこにいた。夏だと言うのに肌の一切が見えない程に黒いローブで身を包み、変声機を使って男性か女性かの区別すらさせない人物。

「パンツ、見たいんでしょ?」

「え、貴方のは興味ないです」

「……ボクのじゃなくて」

「も、もしかしてさっきの女の子のパンツ見れるんですか!? やったぁ!!」

 黒づくめの人物は大きく頷き、変声機越しにクックックと笑い声をあげた。

「うん、ボクなら君の望みを叶えてあげられるよ」


 キーンコーンカーンコーン


「……望みを叶えてくれるなら、とりあえず遅刻したので一緒に先生に謝って欲しいです」

「放課後また会おう!」

 シュバッ――と踵を返し、黒づくめの人物は逃げ出した。

 その際に黒いローブが翻ると、中からは女性のものと思われる生足とローブと一緒に翻るスカートが見えた。

 パンツも見えた。

「白、か。悪くない。けどもう、あの子以外のパンツには興味ないんだよね」

 

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 時は流れ、放課後。

 授業が終わり、セーラー服の少女は大きく伸びをした。

「あー、今日も平和な一日だった……なんて、この平和な街で私の力が必要になることなんてあるわけないんだけどね! あっはっは」

 どかーん。

 がおー。

「……平和な街だった時間短かったなぁ」

 おそるおそる、視線を教室の窓から見える景色に向ける。

 そこには、巨大な怪獣の姿があった。

「あれ、ちょ待って……あれれれれちょっと待って!?」

 何処かで見たようなその姿に、セーラー少女は目を見開いた。

 その巨大な怪獣は、質感のあるトカゲのような――というよりかは、怪獣の着ぐるみを着た少年がそのまま巨大化したみたいな姿だった。

 というか、今朝見かけた顔だった。

「がおー! パンツ見たああああい!!」

「あの怪獣、今朝の少年くん!?」

 少年の叫び、その願望は咆哮として街中に響き、建物すら震わせた。

 とにもかくにも、街の危機。セーラー少女は嘆息を一つ。

「うわぁ……とりあえず、行くかぁ」

 セーラー少女は宙に浮かび、そのまま窓から飛び出した。


「ちょっと君! 今朝会った少年くんだよね!? なんで巨大化してるのさ!」

 巨大怪獣となった少年の眼前へと飛んできたセーラー少女は、大声で呼びかける。

「がおー!」

「会話が通じない!?」

 すると、怪獣少年はセーラー少女を叩き落とそうと巨腕を振り下ろす。

「あぶなっ!」

 攻撃を飛んで避けると、今度は耳元へと飛行する。

(でも、呼びかけ続けよう……!)

「ねえ、お願いだから元に戻って!!」

「がおー! お姉ちゃんのパンツは黒と予想がお!!」

「会話が通じない!?」

 別の意味で。

「でも、意識はあるんだ……」

 再び怪獣少年が巨腕を振り下ろす中、セーラー少女は高速で空を飛び、距離を取る。

「きっと、自分の願望を糧にしたエネルギーで巨大化してるんだ。でも少年くんの願望って、そこまでのものなの!?」

「あ、パンツ見えそうがお」

「……」

 セーラー少女はスカートを抑え、怪獣少年の目線から少し高度を下げる。

「見えそうだったのに!! 見たいがおおおおおお!!!」

「うわ、声でっか」

 ひと際巨大な咆哮。すると、怪獣少年の全身が蒼く輝きだす。

 全身が蒼く輝いたかと思えば、その蒼き輝きは腹部へ集まり、喉元へ、そして口へと――

「このエネルギー……やばいかも!」

 セーラー少女が気づいたときには遅く、少女の視界は眩い蒼き輝きに覆われた。


 怪獣少年が口から漏らした光線は街を眩く照らし、直後に衝撃波を響かせた。


 セーラー少女が辛うじて見たものは、怪獣少年の口から空へ向けて放たれる蒼く太い光線。それにより割れた空雲。

 やがて光線はおさまり、蒼く照らされていた街は何事もなかったかのような景色へと戻っていく。

「何このエネルギー……もしもこれが、街に放たれていたら……」

 そう危惧した頃、既に怪獣少年は先ほどのように蒼い光を身体に溜めていた。

「……願望を糧にしているなら、解消してあげれば元に戻れるかも」

「パンツ見たいがお」

「でも、どうすれば少年くんの願望がわかるかな」

「パンツ見たいがお」

「……」

「パンツ」

「……はぁ、そういうことだよね」

「見れないならもう一発かますがお!」

 セーラー少女は空中で嘆息を一つ。空を飛んで怪獣少年の耳元へ飛んでいく。

「ねえ、少年くん!」

「がお?」

 セーラー少女は顔を赤くし、少し躊躇ってから少年の耳元で囁いた。


「……戻ってくれたら、お姉ちゃんのパンツ……見せてあげよっか?」


「いいガオよ」

 シュルルルル(怪獣から元の少年に戻る音)

「あっけなぁ……」


 ※町の被害は0でした。


「さっそく見せてくれるのかなぁ?」

「うーんちょっと待って。先ずは黒幕に落とし前つけてもらわないとね」

 セーラー少女は、指の骨をポキポキと鳴らした。


   〇〇〇


 街から少し離れたビルの屋上。

 怪獣となった少年と空飛ぶセーラー少女のやり取りを見ていた人物が一人。肌すら見えない程に全身を黒い衣服で埋め尽くしたその人物は、高笑いを上げた。

「くっくっく。ボクの想像以上の結果だ! 素晴らしいものを見せてもらったよ」

 辺りには様々な機械が置いてあり、モニターの画面には先ほどのやり取りが何度もループされている。 

「照れながら『お姉ちゃんのパンツ見せてあげよっか?』……だって! これはもう永久保存版だね!」

 黒づくめの人物は機械からデータの入ったUSBメモリを抜くと、踵を返す。

「さて、バレる前に退散……」

「やぁ元気?」

 黒づくめの人物が振り返ると、そこには笑顔で手を振るセーラー少女の姿があった。

「………………I’m fine, thank you. And you ?(小学校英語っぽく)」

「私は元気! でもごめんねぇ。貴方にはFine(無事)じゃなくなってもらうね☆」

 セーラー少女の硬く握られた拳は、真っすぐに黒づくめの人物の顔面を捉えた。


「……ごべんな゛ざい」

 黒づくめの人物――覆面やローブを剥がされ、素顔(ボコボコ)を露わにされた黒髪の少女がセーラー少女と少年の前に正座させられていた。

「お姉ちゃん、この人と知り合いなの?」

「……この天才風おバカは私の同級生。そして私の飛行能力を開花させた組織の科学者だよ」

 説明の後、セーラー少女は黒髪の少女に近づく。

「なんでこんなことしたの?」

「だって……」

「だって?」  

「だって! 巨大少年×特殊能力少女の絡みが見たかったんだもん!!!」

 セーラー少女による無言の殴打が黒髪少女の顔面を捉える。

「データ、撮ってたよね? 出して」

「え、何もないよ~? ぴゅ~ぴゅぴゅ~」

 黒髪少女は胸ポケットに隠したUSBをこそこそとなるべくポケットの奥へと押し込もうとする。

 すると無言のままピンポイントでセーラー少女の蹴りが胸ポケットを打ち抜いた。

「あー! USB折れちゃったじゃない!!」

「反省の色が無いみたいだね」

「あ」

 そこからしばらくセーラー少女は黒髪少女を無言で叩き続けていた。


「さて、これで解決だね! 黒幕も成敗したし、街の損害も無かったみたいだし、一件落着!! パタン!!」

「お姉ちゃん。僕まだパンツ見てないよ」

「……」

「約束を違えるの?」

「だ、だってほらまだ君は子供じゃない? だからまだ早いっていうか……」

「嘘つきがお!」

 ムクムクムク(巨大怪獣に変貌する音)

「自分の意思で巨大化できるようになったの!? 待ってストップストップ!! 見せてあげるから!!」

 シュルルル(元に戻る音)

「ほんとにぃ……?」

「約束だし、怪獣になられたら困るからね。一回だけだからね!!」


 セーラー少女は顔を赤くしながらも少年の前で自らのスカートに手をかける。

 スカートをゆっくりとめくると、太ももが露わになる。めくるにつれて、その視界に映る太ももの面積は大きくなっていく。 

 色白の太ももは、適度に太く、綺麗な肌をしていた。

 しかし、今この場に於いての目的はパンツである。この魅力的な太ももですら、パンツという大きな目的の前では前菜でしかない。しかしこの美しい太ももは、前菜として確かにパンツへの期待感を大きく膨らませてくれた。

 あと少しというところ、セーラー少女は一瞬の躊躇いを見せた。


「~~~~っっ!」


 より一層顔を赤くし、意を決して一気にスカートを――――


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 ブツン―― 

「なんだよ良いところだったのに!」

 映像が唐突に途切れ、部屋中の機器が光を失う。

「ボクの興奮を返せ! パンツを見せて顔を赤くしてるところとパンツを見た少年の反応! ボコボコにされて痛い中で頑張って盗撮したんだから楽しませてよ!」

 黒髪少女は復旧させようとスマホのライトで部屋を照らすと――

「やぁ元気?」

「…………………………ごめんなさい」


 やがて、天才研究者少女と空飛ぶ少女、そして怪獣化できる少年が悪の組織から街を救うことになるが、それはまた別のお話――




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