蓮乗国歓楽街奇聞録。〜極上の月・遊女の囁き〜

猫野 尻尾

第1話:遊女・月鈴(ユーリン)

蓮乗国歓楽街奇聞録れんじょうこくかんらくがいきぶんろく


冨山 幸太郎とみやま こうたろうは現在独身、田舎の安アパートに独り住いで広告会社に勤める

いちサラリーマン。


元来ポジティブでノ〜天気な性格の幸太郎は不条理な社会にもまれながらも

頑張って生きていた。

でも子供の頃から現実的なことよりどっちかって言うと非現実的なものに

興味を示した。


「あ〜あ、ここより楽しくて幸せで働かなくて一生遊んで暮らせるような

世界があるなら、いっそそんな世界に行ってみたいよな・・・」

「で、めっちゃエロくて綺麗な女の子がいたら最高だよな〜♪」


ファンタジー小説やゲームが大好きな幸太郎。

願望が強すぎるあまり時々、妄想の中で想像を巡らせて現実逃避していた。


金曜日、仕事終わりに会社の同僚と居酒屋に飲みに言って泥酔したまま

帰ろうとして歩道から車道に出てしまって幸太郎は通りすがりの車にはねられた。

酔っ払ってるからなにも覚えてない状態で意識を失った。


で、次の朝、幸太郎はいつものように目を覚ました。

体のあちこちがどこかにぶつけたみたいに痛みがあった。

なにがあったのか昨夜の記憶を辿ってみたが、車にはねられたことすら、

まったく覚えていない。

で、目を覚まして最初に見たのはどこかの部屋の中であろう天井。

天井には見たことない中華風の絵柄が施されていた。


「なんだこの部屋・・・」


幸太郎は部屋をぐるっと見渡した。


「違う、俺の部屋じゃない・・・まじでどこだここ?」


幸太郎は自分の今の状況を把握できず、ただキョロキョロ、ただ唖然とする

ばかりだった。

部屋の中は天井と同じく中華風で赤が基調の賑やかな装飾が施されていた。

ファッションホテル「ラブホ」よりかなり派手。


訳が分からないまま、とりあえず起きて出口を探して部屋を出ようとした。

その時、誰かが部屋に入って来る気配がしたので寝ていた布団に戻った。

部屋に入ってきたその人は目を覚ましてる幸太郎に気づいてすぐに駆け寄って

来て言った。


「あら・・・お目覚め?・・・大丈夫?」


「・・・・・・・だれ?」


その女性は中国の時代劇に出てくるような官女さんみたいな格好をしていた。

奇妙な形に髪を結っていて着物なのかドレスなのかよく分からない衣装を

身につけていた。

しかも衣装は透けてて、たわわなおっぱいが見えていた。


幸太郎は慌てて目を伏せた。


「驚いたでしょ?」


「あ、あの・・・すいませんがよく分からないんです、ここはどこでしょう?」


「あなたね、このお店の玄関で倒れてたのよ」

「朝、私が見つけて若い者にこのお部屋に運ばせたの」

「かなり顔色悪かったし・・・どう?もう気分悪くない?」


「まあ、ちょっと頭は痛いですけど・・・」

「すいません、ご面倒おかけして」


「いいのいいの・・・あなたがブ男だったら道端に放置したんだけどね」

「あなた、いい男だから・・・」

「倒れてるあなたの顔を見て一目で好きになっちゃった」


「え?そんなに早く?」


「人を好きになるのに一番は顔でしょ?」


「よく性格です、なんて言うバカいるけど、性格なんて最初っから分かる

わけないんだから?」

「ね、そう思うでしょ?あなたもブス女より美人のほうがいいでしょ?」


「はあ・・・まあ」

「あなたも、めちゃ美人さんですね」


「あら・・・お口がお上手・・・当たってるけどね」


(この子、完全に俺のタイプだ・・・)


「って言うか・・・あなたは、どなたですか?」


「あ、私?・・・私は、月鈴(ユーリン)それが私の名前」

「よろしくね、幸太郎」


「ん?なんで俺の名前知ってるんですか?」


「ポケットの中に、いろいろ入っててその中のなにかの証明書みたいなものに、

名前が書いてあったからね」


冨山 幸太郎とみやま こうたろうでしょ?」


「あ、なるほど・・・」


「ってことで今日から幸太郎は私の彼氏ね」


「え〜なんでですか・・・そんな勝手な・・・願ってもないですけど・・・」


つづく。


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