第76話 いろいろあった一日の終わり

 フォーグ商会との一件に決着がついてからも、俺たちはカザタムに残っていた。

 野菜を卸す先についての話が振り出しに戻ってしまったため、新しい商会との交渉が必要になったからだ。


 とはいえ、あてがあるわけじゃない。

 ただでさえマットと再会できたのが奇跡的だったのに……だからこそ、彼が何者かにそそのかされてメーテの力を手に入れようとしたのが残念でならない。


 あと、今回の件でメーテに秘められている力が思っていた以上に知れ渡っているかもしれないという可能性が露呈した。


 ミリアからの情報でグリンハーツ家がメーテの豊穣の女神としての力を狙っていることが判明した――が、こうなってくるとそこ以外にも情報を手に入れている者がいそうだ。


 俺たちは騎士団へ事情を説明し終えると宿屋へ戻ってきた。


「ソリス……今日はお疲れでしょう?」

「いや、大丈夫だよ。ミリアの方こそ」

「わたくしは平気ですわ」


 俺とミリアは同室で過ごしており、ふたりのベッドの間には宿屋の主人が用意してくれた小さな子ども用のベッドが置かれ、そこにはメーテが小さな寝息を立てている。


「今日は頑張ってくださいましたからね」

「マットの時も、メーテがいてくれなかったらどうなっていたか……」


 こんなに小さな子なのに、俺とミリアの窮地に力を発揮して助けてくれた。

 メーテのためにも、ローエン地方の野菜の良さを知ってもらって早く卸先を決めたいところだ。


「野菜を扱ってくれそうな商会……他にはどこがあるのでしょう」

「とにかく手当たり次第に当たってみるしかないな」


 言ってみれば飛び込み営業ってヤツだ。 

 とにかく片っ端からアピールしまくるしかない。


 メーテの力で野菜の質も上昇しているから、良さはすぐに伝わるはず。


「心配はいらないよ、ミリア。きっと俺たちの野菜の良さを分かってくれる商会はあるさ」

「そうですわね……ふあぁ」


 もう夜も遅いし、さすがに眠気が限界かな。

 まあ、俺もウトウトし始めているからお相子だけど。


「明日も早いから、今日はもう寝ようか」

「えぇ……おやすみなさい、ソリス」

「おやすみ、ミリア」

 

 最後にそう言って、俺たちはベッドへと横になる。

 


 ――この時はまだ、あんなことになるなんて微塵も予想していなかった。

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