第59話 新しい仕事場
グリンハーツ家の件は俺も父上も調査を続行していくことになったのだが……ここからは力を借りなくてはいけない話になる。
「父上、実は折り入って相談がありまして」
「なんだ? 言ってみろ」
「実はメーテの影響で野菜の成長がかなり早まり、それに伴ってかなりの量の野菜が余ってしまっているのです」
「ほぉ、それは由々しき事態だな」
野菜は鮮度が命。
長く放置しておけばおくほど味も落ちていくのだ。
なので早急に新たな販売ルートを確立したいという話をすると、父上は少し考えた後で執務室に飾られている地図へと視線を移した。
「カザタムという町を知っているか?」
「え、えぇ……南方の国境付近にある交易都市ですよね」
「その通りだ」
行ったことはないが、噂は耳にしている。
あそこは国境付近にあることから多くの商人が出入りしており、国内でも五指に入る大都市だ。
ローエン地方からはそれほど遠くない。
早朝から馬車で移動すれば夕方には到着するだろう。
そういった距離の短さから、本来であればこちらの都市をメインに商売をすべきなんだろうけど……さっきも言ったように、ここは国境近くで多くの商人たちが訪れている。
つまり、商売のプロがわんさかいるのだ。
そこへ乗り込んでいくのはさすがに無茶だろうと考えていたのだが、父上曰く、豊穣の女神メーテの加護を受けた地で育てた野菜であればそれだけでかなりのブランド力を持っているらしい。
「本来ならば私の持つルートで売りさばいていくのだが……これもまた勉強だ。カザタムでの商売はおまえ自身がやってみろ」
「お、俺が!?」
てっきり誰か商人を紹介をしてくれるのかと思ったが、まさか自分で野菜を売ることになるとは。
……ただ、ある意味ではそっちの方がいいのかもしれない。
あの野菜のことを一番知っているのは俺たちだ。
となれば、やはり俺たち自身で宣伝をした方が一番伝わりやすいだろう。
「どうやら、私の伝えたい内容は頭に入ったようだな」
父上は満足そうに何度も頷きながら言う。
それから商人たちとのやりとりで大切なポイントをいくつか教わった。
「いいか。むやみやたらに彼らの縄張りを荒らすんじゃないぞ」
「縄張り?」
「商人たちにはそれぞれ抱えている顧客がおってな。明文化されているわけではないが、それをむやみやたらに奪うことはタブー視されているのだ」
いわゆる暗黙の了解ってヤツか。
固定客を横からかっさらうなって意味なんだろうけど、それって商人としてどうなんだろうか?
むしろ奪い合ってバチバチやった方が経済的には健全な気もする。
まあ、理想論だけじゃどうにもならない現実っていうのがあるからねぇ。
「さて、私からは以上だが、他に何か質問は?」
「じゃあ、これを機にいろいろと聞いてみてもいいですか?」
「もちろんだ」
突き出たお腹をバシッと手で叩きながら頼もしいことを言ってくれる父上。
なんか……今更だけど、原作とだいぶ毛色が変わってきたな
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