第55話【幕間】グリンハーツ家の闇
トレドル・グリンハーツは妹の婚約者であるソリスとの初顔合わせを終え、屋敷へと戻ってきた。
すると早々に父親であるデノア・グリンハーツの執務室を訪れ、収穫を報告する。
「父上、お喜びください。――やはり豊穣の女神メーテは実在しておりました」
「何っ!? 本当か!?」
「この目でしかと確かめました。例の古文書にあった通り、メーテは一旦魔力を失って小さな子どもの姿となっいますが、秘められた力は相当なものかと」
「でかしたぞ、トレドル! さすがは我が息子だ!」
グリンハーツ家が長年にわたって調査を続けてきた豊穣の女神メーテ。
当然ながら、本来のメーテの力である地属性魔法を農業に活用しようとは微塵も思っていない。
「現段階では未知数だが……あの強大な魔力を自在に操れるよう幼いうちから仕込めば我がグリンハーツ家は凄まじい戦力を手にしたも同じ」
「その通りです、父上」
歪んだ笑みを浮かべるデノアとトレドル。
彼らはメーテの力を軍事転用するつもりでいた。
手始めに自分たちのいるレブガン王国を手中に収め、それから戦力を増強させて他国へと侵略戦争を仕掛ける――これこそが、グリンハーツ家の思い描く野望の全体像であった。
その悲願を達成するため、娘であるミリアは利用されたのだ。
「トレドルよ。ミリアはきちんと計画通りに動いておるか?」
「問題ありません。メーテを懐かせているようです」
「ならばいい。幼いメーテを思い通りに操るには母親が必要だ。――ヤツにはそれくらいしか役に立つ道がないのだからな」
吐き捨てるようにデノアは言い放つ。
実の娘ではあるが、彼は次期当主の筆頭候補である優秀な長男・トレドルを贔屓していた。
今回のアースロード家との婚約の件――その背後には強大な魔力を有する豊穣の女神メーテを自らの戦力として取り込もうという狙いがあり、ミリアはそれに利用された形となっているのだが、肝心のミリア自身は当初喜んでいた。
やっと自分が家の役に立てる。
優れた兄のようになれないのなら、せめて偽りの婚約者としての務めを果たそうとしていたのだ。
――が、すでに彼女の心はグリンハーツ家から離れている。
自分のことを気にかけてくれるアースロード家やローエン地方の人々と一緒に生きる道を選択したのだ。
それを知らないグリンハーツ家の当主と長男は、メーテを奪い去るための計画を入念に進めていく。
今、ローエン地方に魔の手が迫ろうとしていた。
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