第6話 父との対面
巨大イノシシを介して、領民たちとの関係は少しずつではあるが改善の兆しを見せつつあった。
まだまだ完全に不信感を拭うまではいかないかもしれないが、今はとにかく前進あるのみ。
やれることをしっかりやって、領地を発展させていかなくては。
無能悪役であったソリス・アースロードのおかげで領地運営はめちゃくちゃの状態だが、伸び代はあるんだよな。ノアンやハーヴェイのように有望な若者もいるし。
彼らのように才ある者たちが十分に力を発揮できる環境づくりもまた同時に進めていかなくてはならないだろう。人口流出も可能な限り防ぎたい。
課題は山積みなのだが、今日はその中でもトップクラスに厄介な案件を片付けなくてはいけなかった。
そのため朝から気が重く、ため息が何度も漏れ出てしまう。
「大丈夫ですか、ソリス様……治癒魔法をかけます?」
「いや、問題ない」
ジェニーが心配そうに尋ねてくるが、こればっかりは魔法でどうこうできるわけじゃない。
俺自身が直接やり合わなくちゃ意味がないんだ。
その相手は――父親であるグラン・アースロードだ。
今日は領地運営の実績について定期報告をすることになっている。
なので、専属魔法使いのジェニーはもちろん、執事のスミゲルと護衛騎士代表のローチにも同行してもらい、実家を訪ねるのだが……収穫量が予定の数値にまったく届いていないので何を言われるやら。
想像すると胃が痛くなってくる。
「ソリス様……訳を話せばきっと旦那様も分かってくださいます」
「そうですよ。先日の村民に対する振る舞いは見事でした。すぐに結果は出ないかもしれませんが、いずれソリス様の頑張りは必ず報われます」
「ありがとう、スミゲル、ローチ」
ふたりに励まされたおかげで、少し元気が出た。
こうなればあとは気合のみ。
精神力で何とか乗り切るしかないな。
◇◇◇
数日をかけてようやくたどり着いた実家。
これもかつてのソリスの記憶がそうさせているのか?
ともかく、報告のために俺は父上の執務室へ。
大事な話なのでみんなは室内までついてこられないが、ドアの前で見守ってくれているという。
「さて、それでは早速聞かせてもらおうか――領主としての初めての成果を」
威厳溢れる低音ボイスでそう言い放つ父グラン・アースロード。
気圧されて足が一歩後ろに引き下がりそうだったのをグッと堪えると、前を見据えてありのままの結果を伝える。
「今回の収穫量ですが……父上に提示された数の半分にも届きませんでした」
「なんだと?」
キッと父上の眼光が鋭くなる。
その視線に全身を射貫かれて言葉がうまく口から出てこない。
それでも、なんとか捻りだして話を続けた。
「忸怩たる思いです。私の不甲斐なさで父上に多大なご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」
「原因はきちんと分析できているのか?」
「はい。現在すでに改善へ向けて取り掛かっております」
改善策の第一弾は領民たちとの関係改善だった。
そのことを詳細に父上へ伝えようとするが、先に向こうが口を開いた。
「ならばやってみせろ」
「えっ?」
「期限は半年。それ以上は伸ばせんぞ」
「ち、父上……」
まさかの延命宣言だった。
正直、どんな罵詈雑言を浴びせられるのかと思っていたが……こんなにすんなりと話が進むなんて予想外だ。
「よ、よろしいのですか?」
「誰にでも失敗はある。特におまえはまだ経験が浅い。初めからうまくいくほど甘くない世界だからな」
仏頂面は相変わらずだけど、言葉には思いやりが満ちていた。
「しっかりと改善策も考えているようだし、もう少し様子を見よう」
「ありがとうございます!」
「ただし、半年で結果が出ないようなら容赦なく介入していく。おまえに任せたあの土地をダメにするわけにはいかんからな」
「心得ております」
父上も土壌自体はいいものだと分かっていて俺に預けたのか。
……前のままのソリス・アースロードでは最後までそれを生かしきれず、周辺にある別の領地の村を襲わせて収穫した野菜を強奪していた。
あれがキーポイントとなって原作主人公に狙われるんだよな。
まあ、今の俺は原作の展開を知っているからそんな真似はしないけど。
とにかく、これから村人たちと協力して農業を盛り立てていかないとな。
決意も新たにしたところで、父上はさらに話を続けた。
「それともうひとつ、例の件についてだが」
「例の件?」
「ほら、あれだ。おまえの婚約者についてだ」
「ああ、婚約者ですね。――婚約者ぁ!?」
えっ?
なにそれ?
全然記憶にないんだけど……?
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