第3話 解放された魔女からの贈り物!

 王立学園の大広間に飾られた豪華なシャンデリアが音を立てて揺れている。

 音ともにキラキラとした輝きが不規則に広間を照らす。


「なに⁈」

「えっ、地震⁈」


 会場内にいた人々は動揺の声を上げた。

 温室育ちの貴族令嬢と貴族令嬢だけではない。

 衛兵たちも動揺の表情を浮かべ、不安げに辺りをうかがっていた。


「これはなんだ⁈」

「キャー恐いぃぃぃ、クラウスさまぁ~」


 驚いて叫ぶクラウスと、そんな彼に怯えながら縋り付く男爵令嬢。


(三文芝居の役者みたい)


 だが、彼らのことなど今のボニータには関係ない。

 会場を揺さぶった衝撃は、魔法契約が解除された合図だ。

 

(私にとっては、喜びの祝砲みたいなもんよ)


 ボニータは紫の瞳をキラキラと輝かせ、両手を天に向かって突き上げると、張りのある声で高らかに宣言した。


「うはははっ、これで自由だーーー!」


 待ちに待った瞬間が、今日この日に来るとは思ってもみなかった。

 だが、来た。

 ボニータに、この機を逃すつもりはさらさらない。

 両方の人差し指と親指を顔につけてバイザーのようにしながら、会場内をグルリと見まわして彼女は大きく宣言する。


「今まで世話になったからプレゼントするよ!」


 彼女は右手をシャッと真っすぐに天へと向かって上げると、動揺する会場内の人々に向かって呪文を唱えた。


「ウシウマヒツジ、ヤギにブタ、お前たちに相応しい姿になぁ~れっ!」


 ボニータは卒業式典の会場全体に魔法をかけたのだ。

 高らかに響くボニータの声と共に、紫の煙がモクモクと何処からともなく湧き上がる。

 そして紫の煙はゆるゆると風に乗って会場内を揺らめき踊り、ターゲットを見つけると素早くその体を巻き込むように呑み込んでいく。


「あっ⁈」

「なによこれ⁈」


 素早く確実に動く紫の煙に、衛兵もなす術がない。


「宮廷魔法士を呼べっ!」

「はい、ただいまっ!」


 衛兵たちが叫びながらバタバタと動いている。


「させるかよっ!」


 ボニータが扉に向かって手をかざすと、開け放たれていた優雅なデザインの重厚な扉がパタンと音を立てて閉まった。


「ダメですっ! 扉が開きません!」

「なに⁈」


 筋肉自慢の衛兵たちが束になって開こうとしても、パタンと閉まった扉は外から釘で打ち付けられたかのようにビクともしない。


 そうこうしている間にも、紫の煙は人々に絡まりついた。

 令嬢や令息にはもちろん、その場を守る衛兵にすら容赦なく絡みついては呑み込んでいく。

 訳も分からず動揺する人々は、会場内のあちこちで悲鳴を上げた。


「ふふん。お楽しみはこれからだよ」


 ボニータの宣言通り。

 紫の煙がスッと消えた後、真の恐怖はそこから始まる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ、なぜ山羊にぃぃぃ⁈」

「そういうお前も馬に変わっていってるぞ⁈」

「あぁぁぁぁ、豚はイヤァァァァァ!」

 

 悲鳴が次々と上がるなか、令嬢に令息も、その場を守る衛兵たちすらも動物に姿を変えていく。


 牛に馬、山羊に豚。


 鶏や猪と動物の種類も様々に、鳴いたり吠えたりの大騒ぎだ。


「ふふん。魔女を怒らせると、こうなるのよ」


 ボニータは阿鼻叫喚の光景を眺めて笑みを浮かべると、そばかすの浮いた鼻の上あたりを満足そうにこすった。

 そして自身に魔法をかけて、ドレスから紫のフード付きローブへと着替えた。

 

「じゃぁね、バイバーイ」


 騒ぎ立てる動物たちに手を振ると、ボニータは転移魔法陣を使って堂々と会場を後にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る