『駆け引き』に嫌気が差した俺は『パッション』で恋愛を乗り切ることにしました。

瑞夏 十鈴

これがパッションだ!

 恋愛とは駆け引きだ。

 好きか嫌いか分からない状態の男女が相手を嫉妬させたり、嫉妬されたりして——その恋が成就するのだ。


 どこかの誰かも言っていた。

 恋に一番に重要なのはその『駆け引き』であると。


 だが——


「って——んなわけねーじゃん!!」


 俺はそれを全力で否定する!


 俺の名前は森本幸助。

 高校2年生で趣味はカラオケ、特にヒトカラが好きだ。


 いや、待て。

 今はそんなことはどーだっていい。


 そう、恋に重要なのは『駆け引き』などではない。

 

 俺は知っている。

 駆け引きなど何の意味もないことを。

 そんなことをやったって時間の無駄でしかない。


 それは過去の経験から——

 

 確かあれは中学生の頃。

 好きな人がいた。

 今思えば両思いだったのだろう。


 しかし青い俺はそんなことに気づくはずも無く。

 健気に両片思いに徹していた。


「最近健太くんが私のこと気になってるんだってさー。幸助くんはどう思う?」


 悪戯な表情を作り、俺の想い人は俺に聞いてきた。


 今なら分かる。


 その子は多分俺に嫉妬して欲しかったのだ。


『早くしないと健太くんに取られちゃうよ、私が』という意味の言葉。


 しかし、俺はそんなことを露知らず。


 額面通りに受け取り、素直にこう言葉を返した。


「あー、あいつは良い奴だよ!」


 俺のばっっか!!


 額面通りに受け取るだけじゃなく、良い奴認定はやめろよ!

 せめて悪い奴認定はしろ!


 まあ、たぶん。俺はその子に余裕のある男として見られたかったのだろう。

 それから俺も駆け引きを仕掛けたり、仕掛けられたりして——


 俺が好きだった女の子は——健太くんと結ばれた。


 意味が分からなかった。

 お、俺の方が先に好きだったのに!


 ぽっと出の変な男に取られてしまった!


 俺は寝込んだ。

 そして決意した——


 二度と恋の駆け引きなんてするものかと!


 それから——


 そうして今に至る。


 心臓がドキドキ鳴っている。

 どうしてだろう。


 それは緊張しているからだ。


 そして今、俺は屋上にいる。


 これまたどうして?


 そりゃあ屋上といえば、である。


 つまり告白だ。


 俺は今から告白する。


 学年のマドンナである鳳水翠に——


「あの!鳳水さん!」


 俺は彼女を見据える。


 彼女は何も答えない。

 まるで日常であるかのように今の俺を見つめている。


 そりゃそうだ、日常だ。

 彼女ほどの美貌を持つ人間、1日に告白が何回あったとしても驚かない。


 けれど、俺にとっては日常じゃなくこれは一世一代だ!


 俺は大きく息を吸い込み、彼女へ告げる。

 自身の愛の言葉を。


「好きです!!!付き合ってください!!」


「ごめんなさい、あなたには私なんかよりも相応しい人が現れるわ」


 テンプレのようなお断りのセリフ。


 しかし俺はめげない。

 

「大好きです!!!付き合ってください!!」


「いえ、私じゃなくて他の女の子の方があなたには似合ってるわよ、きっと」


 俺はただ叫び続ける。


「俺は!!あんたが!!!大好きなんだーーーー!!!」


 流石に彼女のテンプレも崩れてしまう。


「あ、あのー?聞こえてる?」


「俺は!!銀河一!!あんたのことが!大大大大好きだあああ!!」


 大声大会とかがあれば、多分今の俺優勝してる。

 それくらいに俺の声は轟いていた。


「そ、そんなに私のことが好きなんだ——ふ、ふーん」


 彼女はそんな風に言うと、ぷいと目を逸らした。


「そうだ!俺が一番!!鳳水翠を!!!愛している!!!」


「そ、そう?」


「だから!!付き合ってくれ!!」


 すると彼女は逸らしていた目線を再度こちらに寄越してから、俺に言葉を渡した。


「そ、そこまで言うなら、付き合ってあげるわよ!」


 そんな彼女の頬はとても明るかった。


 ☆


 俺は決意したのだ。


 二度と『駆け引き』などやらないと——


 そして——


 パッションで恋愛を乗り切って見せると。


 だってそうだろう?


 駆け引きなんて全く持って不要なのだから。


 恋愛とは『パッション』である。


 それが失恋の末に生み出した俺の持論だ——

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る