普通の1日

エミリー

第1話

 ピピピピピッ! 朝目覚まし時計が鳴る。この部屋の主人のことを一生懸命に起こそうと鳴り続けている。


「う、うーん」


 鳴り続けたかいがあり主人が起きたようだ。しかしまだ眠いのか、寝ぼけたまま手探りで目覚まし時計が置いてある場所を探す。


「どこだぁ? んー、もうちょっとぉ?」


 ベットに横になった状態で目覚まし時計を止めようとする。腕を一生懸命伸ばしたりして頑張っているが、時計は身体を起こさないと止められない位置にある。


ピピピピピッ! 今だに止められない時計が鳴り続けている。気のせいか? 早く起きろと鳴っているような気がするみたいだ。


「おきる、起きるよ!」


 ようやく目が覚めたみたいだ。被っていた布団を身体ごとがばっと起こし、目覚まし時計を止める。


「あれ? どうしてこんな所に置いたんだろう? いつも目覚ましの置く位置は決めているのに……」


 しかもいつも起きる時間よりも早い時間である。


「今日何かあったっけ?」


 頭に両手の人差し指を当てて考え込む。すると……。


「あっ! そうだった。今日はとても大事な日だった!」


 慌ててベッドから降りる。そうしていつもよりもだいぶ早い支度を始める。


「そうだった、そうだった! 大事な日に寝坊は出来ないから、必ず起きられるように目覚まし時計の置き場所を変えたんだった。遅れないように時間も早くしたんだ!」


 寝起きで忘れていたみたいだが、どうやら自分で目覚まし時計の置き場所を変え、起きる時間も早めたらしい。


「今日は美化緑化委員の当番日。遅れないようにしないと! その後の予定のためにも」


 委員会がそんなに楽しみなのだろうか? ウキウキと支度を進めていく。ふんっふーんと鼻歌を歌いながら洗濯をされたばかりの下着に着替える。


「今日のためにアイロンがけをしたんだよな。おかげでシワもなくて、まるで新品みたいだ!」


 言われた通りワイシャツと制服の上下はアイロンがキッチリとかかっており、本当に新品みたいに見える。


 少しの間それらを見ていたが、着替えるためにハンガーから外す。


「うん、やっぱり新品みたいな新鮮な気分だな。昨日頑張って良かった」


 ワイシャツを着て中に1枚カーディガンを着る。当然だがこのカーディガンにもアイロンがキッチリとかかっている。その後、制服の上下を着れば完成だ。


「何だかいつもよりはピシッとして見えるかも?」


 部屋にある全身が見える姿見で自分の姿を確認する。アイロン効果と気分が上がった状態なので、普段よりもだいぶ良く見えているらしい。ワイシャツの襟を整えたり色々ポーズを変えて自分の姿を確認する。


「大丈夫。身だしなみは問題ない」


 色々な角度から全身を確認して、ようやく納得したらしい。


「委員会活動中はジャージ着用なんだけどね」


 汚れちゃいけないから〜と、学校に持って行くであろう鞄にジャージを入れる。他にも必要な今日の教材などを鞄に詰める。





「ちょっとー? 起きてるの? 言われた通り朝ご飯、もう作っちゃったんだけど?」


 階下から母親の声がする。どうやら支度に時間をかけすぎたみたいだ。


「ごめん、今行くから!」


 慌てて荷物を持ちながら階下へ行く。


「遅れてごめん。おはよう母さん」


「おはよう。あら? やっぱりアイロンをするといつもよりかっこよく見えるわね!」


「本当!? ありがとう!」


「せっかくアイロンをしたんだから、朝ご飯をこぼさないようにね?」


「分かってるって! いただきます」


 自分の席に着き用意されていた朝食を食べ始める。こぼしてしまわないように、慎重に。


「こんなに早く学校に行くなんて……。委員会忙しいの?」


「そういう訳ではないよ。委員会は楽しいし」


「そう。頑張って」


「うん! ごちそうさまでした」


 食べ終わった食器をキッチンの流しへと運び、歯磨きをする。


「歯も真っ白ピカピカでいい感じだ!」


「そうね、忘れ物がなければ更にいいと思うわ」


「大丈夫だよ。しっかりと昨日の夜と今日の朝で何も忘れ物がないように準備をしたから」


 鞄を持ち靴を履く。靴は昨日帰ってから磨いて綺麗になっている。


「いつもより早い時間にごめんね母さん。行ってきます!」


「いいのよ。気をつけていってらっしゃい!」



 いつも通りの通学路だが、気持ち次第で新鮮な気分だと思いながら学校へと向かった。

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