第32話「逃走開始」
こんにちは。アオイです。
私は今、商店街を急ぎ足で進んでいるところです。なんとか遅刻はせずにすみそうですね。
そんなかんなでお店ももうすぐという所までたどり着いたのですが、何やら様子がおかしいですね……? 街の皆さんが慌てた様子で、一斉に何かから逃げているようです。
いったい何が起きているのでしょう……?
疑問に思い、立ち止まる私でしたが、その理由は程なくして判明するのでした……。
私の前方、100メートル先くらいでしょうか? なんとむき出しの包丁を手に持った若い男性の姿がありました……。
とにかく逃げましょう! 私も街の皆さんと一緒に逃げ出そうと後ずさりを始めますが、その矢先……不覚にもその方と目が合ってしまいました……。
その方は私と目が合うや否や、いきなり私を指差して何かを叫びました。遠くてよくは聞こえませんが、「ばくりゅうのえりざ」……? って言ってたような気がします。
って、そんなことは今はどうでもいいのです! 何故私なのかは全く分かりませんが、どうやらあの方にロックオンされてしまったみたいです……。少しでも早くここから逃げないと、私は殺されてしまいます……!
私は踵を返し、無我夢中で逃走を始めるのでした。
***
しかし、誰もかれも俺の姿を見るとすぐに逃げ出していくな……。いくらこの意図せずとも溢れ出てしまう勇者の威光がいけないとはいえ、こうも見事に逃げ惑われると少し傷つくじゃないか……。
そんなことを思いながら歩いていると、俺の視界はとある女の姿を捉えた。アイツは確か……?
まさか、ネトール四天王の一角「瀑流のエリザ」か!? 村境警備の職に就くときに受けた研修の資料で見たことがある。
イサベラとアイリスに飽き足らず、エリザまでうろついているとは……。この街はいったいどうなっているんだ……?
しかし今ここにいるのはエリザ一人のようだ。俺には先ほど手に入れたこの剣もある。アイリスとイサベラにこそ遅れはとったが、今のこの状況であればエリザを討てるかもしれない。
俺が改めてエリザを見据えると、奴と目が合う。刹那、奴は踵を返し一目散に逃げ出してしまった。
条件反射で追いかけるが、その途中で例の研修資料に書かれていた内容を思い出す。エリザはとても狡猾な四天王で、逃げるフリをして敵を自身の有利な環境へと誘い出し、罠にかかった敵をその水流魔法で一網打尽にする戦法を得意とすると。
「アイリスは接近戦を苦手とする」とか書かれていたアテにならない研修資料ではあるが、警戒しておくにこしたことはないだろう。アイリスに強烈な回し蹴りをくらった頭は未だに少し痛む……。
俺はエリザが用意しているであろう罠を警戒し、適度に距離を取りながらも、逃げる彼女を追いかけた。
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