『勇者ユーリ=ハサマールの冒険〜決着〜』

 姫たちが……自分から魔族の手に降りた……?


 目の前の魔族によって語られた真実に愕然とする俺。


「そんな訳があるか!? いい加減なことを言うな、この魔族め!」


 俺は精一杯の虚勢をイサベラへと向ける。


「まあ私も始めは何事かと思ったから、信じたくない気持ちも分からなくはないわ。でも、悪いのは貴方たち王都の人間たちよ。何か身に覚えはないかしら?」


 意地悪い笑みを浮かべ、イサベラは俺に問いかける。


 うーん……。身に覚えと言われても、正直姫たちの情報はあまり知らないが……。美人姉妹で、百合で、縁談を全て断っていたというくらいしか……まさか!?


「あら、気づいたみたいね? 姉妹同士愛し合っているにも関わらず、無理矢理縁談を持ちかけられるのがよっぽど嫌だったみたいね……」


 まさかこの事件の真相が、姫たちの意思による脱走だったとは……。俺はガックリと膝を落とす。


 姫たちが自ら魔界に行くことを選んだのであれば、ここでイサベラを倒したところで、姫たちが俺になびく可能性は限りなくゼロに近い……。


 くそっ……! 俺は一体何のために……!?


 いや、まだだ。諦めるにはまだ早い。


 俺は顔を上げ、イサベラを見据えて立ち上がる。


「あら? 私を倒しても姫たちは戻らないわよ?」


「かもな……。だが、俺は諦める訳にはいかないんだ! 挟まる為にな!」


 刹那、イサベラの瞳から光が消える。


「ああ、貴方そういう……」


 イサベラはそう呟くと、先刻までとは比べものにならないほどの威圧感を放つ。


「一ついいことを教えてあげるわ……。私がこの世で一番嫌いなものはね……百合に挟まろうとする男よ!」


 臨戦態勢に入るイサベラ。もう戦闘は避けられないか……。俺も背中の相棒へと手をかける。


「そんな棒きれで私と戦うつもり? 私、弱いものいじめをする趣味はないのだけれど?」


「ふん。俺の『ボウ・オブ・ヒノキ +10』を馬鹿にしてると痛い目をみるぜ?」


 王から貰った剣と盾は、あの日質屋に出してしまった。だが俺には、長年共に魔物を退け続けてきた相棒がある。コイツさえあればイサベラも恐れるに足らないはずだ。


 会議室の床を強く蹴り出し、俺はイサベラへと突撃する。


「まあいいわ。私はどのみち貴方を許す気はないもの」


 イサベラは冷たい笑みを浮かべると、魔法の詠唱を始めた。


「消えなさい。『灼き尽くせ 紅蓮の火矢フレイムアロー』」


 イサベラの構えた指先では、どこからともなく炎が集まり矢の形を成していく。矢と呼ぶにはあまりにも巨大過ぎるそれは、突撃する俺にめがけ、容赦なく真っ向から放たれた。


 もはや避ける術は無い。真っ向から切り裂いてくれる。


 そして相棒を振りかざした刹那、俺の肉体は跡形もなく焼き尽くされた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る